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感染症までの数理 (4)

2021年7月22日 (木) 投稿者: メディア社会コース

人口に関するモデルをつくるのは、人口論という分野です。
19世紀、マルサスという経済学者が記した、この題名の著書がこの分野の始まりとされています。

マルサスは、人口は倍々に増えていくと考えました。指数的増加といい、上限がありません。これは、おととい見たネズミ算そのものです。

しかし、すぐに反論が出て、そんなに制限なしに増えるはずがない、頭打ちがあるだろうということになりました。

こうした中、数学者のフェアフルストは、ロジスティックという、増加にはブレーキがかかっていく仕組みを考えたモデルを作りました。マルサスのモデルに改良を加えたものと見なせます。

現在、人口論も含めて広い分野で、このロジスティックのモデルがよく用いられます。
実際、一定量のえさがある閉鎖的な環境で、これをもとに1種類の生物が増えていく様子は、このロジスティックのモデルによく当てはまります。
微生物や昆虫などで繰り返し確かめられています。
ひとつの国の人口なども、このモデルを適用することがおこなわれます。

ただし、驚くべきことですが、世界人口は、このロジスティックのモデルより、マルサスによる指数的増加のほうがよく当てはまるとされます。
それどころか、単なる指数的増加よりも増えているのです。
きのう引用した世界人口のデータも、頭打ちやブレーキがないだけでなく,1年あたり 1.00003 倍から直近では 1.00158 倍の増加になっています。
増加のスピードが速まっているのです。しかもこれが2000年以上続いています。

このように世界は人口爆発とよばれる状況になっています。
少子高齢化による人口減が問題となっている日本では考えられないことですが。

生物のモデルに戻ると、生物の個体数は、現実には2種類以上の生物が関係してきますから、それを考慮したモデルに拡張されています。

PP モデルという、捕食者(「食う側」)と、被食者(「食われる側」)の2種類の生物の個体数の関係を表したモデルが基本になっています。
研究者の名前からロトカ・ヴォルテラ型とよばれます。
興味深いのは、捕食者が強くなりすぎると双方が減ってしまう、つまり捕食者自身も減ってしまうので、そういうことがないようにブレーキがはたらくということです。
このため、いずれの種類の生物も周期的に増減を繰り返します。
最初、分析に用いられた、海域の2種類の魚によく当てはまり、それ以降、多くの分析に用いられてきました。

今年の大発生で話題になった、17年ゼミの周期も似たような考えで説明できます。
この種類のセミは各世代が17年も地下で幼虫として生活してから地上に出てくるのです。
17というのは幼虫である期間の年数としては比較的大きいうえに、素数です。
このため、小さい周期や約数がたくさんある素数でない場合に比べて、他のセミと競合する回数が減り、鳥などの天敵の大発生する周期とも重なりにくいというわけです。

こうした生物のモデルは、感染のモデルにも関係しています。

どう関係するかは明日に続きます。

(メディア学部 小林克正)

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