第3回シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点(あな)
2021年7月 5日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点」として、定期的に私が何度も遭遇してきた「シナリオの欠点(あな)」について書いていこうと思います。今回取り上げるトピックは・・・
「ストーリーの発端と結末が因果関係でつながっていないシナリオの欠点(あな)」
シナリオ執筆を始めるきっかけは人それぞれだと思いますが、とにかく何か1作品書かねばならなくなったら、自分の好きなジャンルや好きな作品を参考にして書く人は多いのではないでしょうか。実際、東京工科大学メディア学部の学生に、シナリオ制作の課題を出すと、その傾向はあります。流行の観点でいうなら、一時期「現代・学園・異能モノ」のシナリオを書く学生が多くいました。おそらく影響を受けたであろう作品もふくめて、とてもわかり易かったです。
どんなシナリオであれ1作品を完成させるためには、体力的にも精神的にもエネルギーが必要になります。自分が好む題材を選んで執筆することは大事です。しかしながら、シナリオ執筆未習熟者には、自身が好む題材やテーマを全部盛り込もうとしすぎて何を見せたいのか、何を伝えたいのかよくわからなくなってしまいがちです。
その典型のひとつが「ストーリーの発端と結末が因果関係でつながっていないシナリオ」です。「現代・学園・異能モノ」を書いてくる人が多かった時期がある、と前述しましたがこの頃の作品にはそれがとても顕著でした。一例を挙げるなら・・・
【発端】事故によって超能力に目覚めた少年が
【展開】少年の超能力を利用しようとする敵たちと戦い
【結末】最愛の少女と結ばれる話
こんなストーリーのシナリオです。一見何もおかしくはなさそうなのですが、致命的な欠点(あな)があります。
ざっくり解説しますと、発端と展開部分において主人公の超能力をめぐって戦っていたのに、結末でその戦いがどうなったのかを書かず、突然少女と結ばれて終わるストーリーになっており、発端と結末の因果関係が分かりません。「超能力と少女は関係あるの?」「戦いと少女は関係あるの?」など、因果関係が明確でないと疑問がたくさん浮かんできてしまいます。
こういったストーリーを書いてきた学生に、もう少し作品について確認してみると、「自分の考えたオリジナルの能力を出したい」「オリジナルの能力を駆使して戦うシーンを作りたい」「大活躍する主人公には素敵なパートナーと幸せになって欲しい」など、とても意欲的なのですが、その全てを作品に組み込もうとして失敗していることがわかります。
シナリオは映画やTVなど、時間制限のあるコンテンツのために書かれるものなので、伝えることの出来るテーマやメッセージの情報量に限界があります。それゆえに優先順位を明確にして「何を最も伝えたいのか」を判断し、シナリオに記述する必要が出てきます。そして発端と結末の因果関係を結びつけることは、そのシナリオにおける最優先の情報を明確にするために必須の部分です。
シナリオ執筆に習熟してくると、この優先順位を的確に見定めることができるようになり、発端と結末の因果関係がきちんと結びついた「メインストーリー」を構築した上で、それ以外のテーマを「サブストーリー」として組み込むことができるようになります。
以前、私は「シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その21」で、映画「トップガン」を取り上げ、あらすじにこんな一節を書きました。
http://blog.media.teu.ac.jp/2021/05/post-11b179.html
『度重なる危険な操縦や命令違反が許されるはずもなく、グース共々、エリートパイロット養成校「トップガン」行きを命じられてしまう。「トップガン」に配属となっても一向に態度を改める気のないマーヴェリックは、初日から先輩エース・パイロットのアイスマンを挑発し、歓迎パーティ会場で見かけた初対面の女性、チャーリーを熱烈に口説くなど、やりたい放題。』
ここに少しだけ記述したチャーリーという女性は、恋仲になった主人公マーヴェリックが自暴自棄になったことで距離をおきますが、ラストシーンではパイロットとして復活を遂げた主人公のもとに戻ってきます。
そのラストシーンだけを見てしまうと、まるで「素敵なパートナーと幸せになった」ことが結末のように見えなくもないですが、「トップガン」という映画を恋愛ジャンルの作品として認識する人はあまりいないでしょう。あくまでメインストーリーは「若きパイロットが数々の失敗と挫折を乗り越えての成長を遂げる物語」であって、恋愛を成就させるに至った部分はサブストーリーです。
優れた作品のシナリオほど、メインストーリーの発端と結末の因果関係を明確にしつつ、複数のサブストーリーを巧みに絡ませてくるので、シナリオ執筆未習熟者が、思いついた構想は全部盛り込んでしまえばいい、と錯覚してしまうのも無理はありません。まして渾身のアイディアであれば、そうしたくなる気持ちも理解できますが、それがシナリオの欠点(あな)にならないよう、気をつけたいですね。
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