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応用例の暗記は危険

2021年7月18日 (日) 投稿者: メディア技術コース

 メディア学部の教員の中で私自身は技術寄りです。CG技術をずっと研究し応用ソフトを開発してきたプログラマー出身です。そのため技術の原理を紹介して説明するような講義をすることが多いです。「CG数理の基礎」や「3次元コンピュータグラフィックス論」といった講義を担当しています。
 
 手法を説明した際に、応用例が何かを学生から質問されることがあります。技術者の立場でわかる範囲で回答しますが、これが拡大解釈されて「○○法は□□の場面で使われる」というパターンで暗記する人がいることにときどき気づきます。それでよい場合もありますが、そのようなパターン暗記に頼ることは一般には危険です。
 
 暗記してしまうと、いつしか「□□の場面では必ず○○法を使う」という憶え方になってしまいます。これら2つの文言は似ていても意味が違うことは明らかです。そして後者では実践の際に間違う可能性があります。やってみたけどうまく行かずやり直しで時間が無駄にかかったりします。
 
 料理の例で考えてみましょう。
 
 「フライパンで炒め物をするときは油をひく」を暗記してしまうと、脂肪たっぷりの豚バラ肉を炒めるときにも油を使ってしまい、ベタベタのしつこい料理になってしまいます。
 
 油をひく主な理由は、食材が熱い金属にくっついて焦げ付くのを防ぐことです。その原理を知っていれば豚バラ炒めでは油は不要かごく少量という正しい対応ができます。金属を覆いよく滑る素材で表面加工したフライパンなら、多くの食材で油不要という判断もできます。
 
 講義の話に戻ります。
 
 私の講義は多くの技術的手法を紹介しますので、なるべく理解を定着しやすいように条件反射的な憶え方で説明することもたまにあります。でも上記のような間違いを起こしにくい場合に限定しています。「『垂直』と来たら『内積ゼロ』」はよくやる説明です。これは暗記してよいパターンです。
 
 あと、数少ない条件反射パターン例は「フォトンマッピング法」と来たら「集光模様(コースティック)」というやつです。正確にはフォトンマッピングの上位概念である「大域照明(間接光による相互反射も計算する手法。グローバルイルミネーション)」なら集光模様は可能でそういう説明もしますが、メディア学部の学生にとってはこの条件反射パターンで大きく間違うことはないです。図はフォトンマッピング法で描画した集光模様の例(右下の透明球の下の床に集まった光)です。3年次の学生のプログラムです。
 
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 例外の方ばかり示しましたが、逆にいうと、これ以外の場合での条件反射パターンは危険だと思っています。ですので私の講義の範囲では、「内積ゼロ」と「集光模様」以外ではこの手はほとんど使いません。
 
 技術の手法やアルゴリズムは、そもそもの目的や原理をしっかり押さえておくことが大事です。使い分けや応用例を暗記しておかなくても、原理がわかっていれば実践の場面で適切な手法を使うことができます。もちろんある程度実践を通じた活用経験があるのは望ましいですが。
 
 実践の場面で「あれが使えるのでは」というのを引き出すノウハウは難しいのですが、少し感覚的な説明をします。原理の理解が深ければ、そして「なるほど」という納得の喜びがあれば、脳内にその手法の抽象イメージが定着します。ある実践場面に直面したときその場面の目標の抽象イメージが似ていれば、適切な手法が引き出せます。
 
 具体例を暗記するよりも、抽象イメージを脳内に定着させましょう。特に問題解決のできる技術者を志向する人は。
 
メディア学部 柿本正憲

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