第4回シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点(あな)
2021年7月11日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点」として、定期的に私が何度も遭遇してきた「シナリオの欠点(あな)」について書いていこうと思います。今回取り上げるトピックは・・・
「必然性のない巻き込まれ型主人公によるシナリオの欠点(あな)」
シナリオ執筆の課題にとりくむ東京工科大学メディア学部の学生の中には、ライトノベル用のシナリオを書きたい、という人が少なからずいます。
中学、高校時代にライトノベルと出会い、特に気に入ったタイトルこそ、それぞれ違いますが、メジャーなタイトルはそこそこ読破しているようで、アニメ化している作品であれば、おおまかなストーリーや特徴的な設定などは、把握しているようです。
しかしながら、そういった知識があるがゆえに、新規の作品としてシナリオを執筆するときに発生しやすい問題があります。
それはストーリーの冒頭部で、こんな導入で始まるパターンです。
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平凡な高校生の主人公は、たまたまコンビニへ買い物へ行った帰り道、
傷つき倒れた美少女ヒロインと遭遇する。
主人公はお人好しの性格であるがゆえに放っておくこともできず、
身動きの取れないヒロインを抱きかかえて帰宅する。
目を覚ましたヒロインが謎の組織によって追われる身であることを知った主人公は、
正義感の強さから、主人公はヒロインを救うべく戦うことを決意する・・・”
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実際にライトノベルとして執筆する過程では、地の文で説明されるのかもしれませんが、あらすじとしてこれだけを示された場合、主人公の考え方や行動に「共感する」ことができず、作品に関心を持つことができません。
確かに、ライトノベルの導入としては「定番」なのかもしれませんが、常識的に考えて、高校生という人生経験も浅い年齢の人間が、気を失うほどの傷を負った人間と突然遭遇して、「お人好しな性格だから」という理由だけで、自宅に連れて帰るものでしょうか?他にできることはなかったのでしょうか?救急車を呼ぶ、という発想なかったのでしょうか?
・・・などなど、色々な疑問が湧いてきます。
こういった展開は、既存のライトノベル作品のいくつかに共通する、いわゆる「ボーイミーツガール」と呼ばれるジャンルの作品を想定して執筆された作品である、と示す上では効果的ですが、受け手に様々な疑問や違和感を抱かせてしまう時点で、致命的なシナリオの欠点(あな)と言わざるを得ません。
私は「シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その24」で
以下のように触れました。
『”巻き込まれ型の主人公”というのは一見、とても簡単に作れそうに見えるアイディアです。今回の作品「コラテラル」において、主人公は単なる一般市民であり、殺人などの犯罪からは基本的に無縁の存在です。そんな立場の人間が、非日常な出来事にさらされるという機会をつくる上で「巻き込まれた」という事故的な関連付けは、有無を言わせぬきっかけとして、分かりやすいものがあります。
しかし「巻き込まれた」というシチュエーションは、あくまで受動的なものなので、どうしても本人が行動する上でのモチベーションに繋げづらいところがあります。現実の生活で、文字通り「事故に巻き込まれた」として、自身がその巻き込まれた事件を自ら解決に乗り出そうとする人は殆どいません。
視聴者も、基本的にはそういった感覚を持って映画を見ていますし、作中に自分を投影もしくは共感する対象として主人公を認識します。それゆえに「巻き込まれただけだが、どうしても事件に付き合わねばならない」と思わせるには、かなり強い理由と動機が求められます。』
さまざまなライトノベルを読んできているだけ合って、その後の展開における多種多様な設定や世界観などには、眼を見張るオリジナリティがあるのですが、導入部に問題があっては、そこを理解してもらうまで読んでもらうことができません。
冒頭部がシナリオの欠点(あな)にならないよう、気をつけたいものですね。
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