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身近にひそむ数学(6): フィボナッチ数列による幾何トリック

2021年8月14日 (土) 投稿者: メディア社会コース

今回は、図形を用いた騙しのお話をしたいと思います。騙しとは言っても、健全な遊びのトリックですのでご心配なく! 途中からフィボナッチ数列が顔を出します。

下の図を見てみましょう。左右に正方形と長方形が並んでいますが、左側の正方形をガイド線に沿って4つに分割し、それをジグソーパズルのように組み替えて右側の長方形ができています。なお、ガイド線の作成のために用意した小さなマスは1辺が1の正方形です。

Carol1

さて、綺麗にパズルが整いましたが、それぞれの面積を考えましょう。左側の正方形は、8×864です。一方、長方形の方は、5×1365です。??? 何が起きているのでしょう?

実は、右側の長方形は正方形の4つのパズルピースで構成されているのですが、微妙に隙間があり、それが見えてないのです。ここで、正方形およびその4つのピースの水平方向と鉛直方向の辺の長さを確認しましょう。使われているのは358で、フィボナッチ数列の第4項、第5項、第6項です。また、長方形の方には、新たに13が登場しますが、これはフィボナッチ数列の第7項です。実は、これらのフィボナッチ数が、巧みにいたずらをしていたのです。

では、何が起きているのかを、まずイメージ図で確認しましょう。小さなマス目は省略していますが。元の正方形と正しくピースをあてはめた長方形は下の図のようになります。わかりやすいようにかなり誇張していますが、長方形の方には微妙な隙間(グレーの部分)ができています。この隙間は平行四辺形で、その面積は1です。これが、先の6465の差に繋がっています。

Carol2_20210814122101

このパラドックスとも言える幾何トリックは、あの有名な『不思議の国のアリス』を著したルイス・キャロルが考えたとされています。作家のイメージが強いルイス・キャロルですが、彼は多才な人物であり、数学や論理学にも精通していました。このパズルからも、その片鱗が窺えますね。

さて、{3, 5, 8}(={F4, F5, F6})は確かにフィボナッチ数ですが、それはたままではないのかと思うかもしれません。しかし、これは必然で、{8, 13, 21}(={F6, F7, F8})でも、{21, 34, 55}(={F8, F9, F10})でも通用するトリックです。ただし、連続する3項であれば何でもいいというわけではありません。{F5, F6, F7}や{F7, F8, F9}などではうまくいきません。実は、偶数の項から始まる連続3項の組のときのみ、このトリックが機能します。では、その裏付けは何なのでしょうか?

フィボナッチ数列の性質の1つに、

Fibonacci7

というものがあります。これは、高校で習う数学的帰納法で証明できますが、ここでは割愛します。注意したいのは、nが奇数か偶数かで、右辺が-1か+1で異なるという点です。さて、いま、この式を後で使いやすいように、正方形の方で使う連続3項が{Fn-2, Fn-1, Fn}(n4以上の偶数)であるとします。偶数項から始まる連続3項ですね。このとき、正方形の面積はFn^2(Fn2乗)であり、隙間を含んだ疑似長方形の面積はFn-1Fn+1 です。ここで、nは偶数ですので、上の式よりFn^2=Fn-1Fn+11となり、隙間部分の面積が1であることがわかります。

最後の数式による説明は少しややこしかったかもしれませんが、先に図でイメージを描いてもらいましたので、それとなく理解できたのではないかと思います。なお、先ほど説明しましたように、偶数項から始まる連続3項を使えば、この幾何トリックは機能します。しかし、隙間の面積は1で一定です。したがって、例えば{F2020, F2021, F2022}の組でもこのトリックは成り立つのですが、隙間は相対的に小さく目視できないことでしょう。あとの種明かしが大変になります…。

文責: メディア学部  松永 信介
2021.08.14

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