« 8月22日(日)「オンライン型オープンキャンパス」のご案内 | トップページ | シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その27前編 »

シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その26後編

2021年8月21日 (土) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の26本目「ビッグ」について、どこに注目すべきか述べていきます。

「ビッグ」は1998年にアメリカで公開された映画で、12歳の子供が一夜にして大人になったことで起きる騒動を描いたコメディ作品です。「身体は大人になったが中身は無邪気な子供のままの主人公ジョッシュ」を、主演のトム・ハンクスが好演しており、ゴールデングローブ賞・主演男優賞を受賞して出世作の一つに数えられています。

この作品のシナリオが優れている点は「かつて子供だった大人を共感させて楽しませる着眼点」です。

人間は、生まれた環境の違いや、送ってきた生活に違いこそありますが、最初から知恵や経験を積んだ大人として生まれてくることはありません。「かつては自分も子供だった」という、当たり前の事実は、ほぼ全ての大人がもっている共通認識であり、それを活かして共感を得ていることが、本作「ビッグ」の何より優れたポイントです。

入場料と一定の拘束時間を支払って劇場に足を運ぶ観客は、映画に対して少なからず、コスト相応の新規性や独自性を期待します。

最近はインターネットの浸透やSNSの広がりの影響もあって「ネタバレ」に対して厳しい見解が多く、公式の広報が「ネタバレ厳禁」を訴えることがあるくらいですが、そういった扱いをされるくらいには、作品の新規性や独自性に「あっと驚かされる」という体験や経験は、観客が大事にする要素の一つです。

では、シナリオライターは新規性や独自性のある内容をシナリオに組み込みさえすればいいか、というと、そうではありません。観客が驚くような出来事やシーンをシナリオに組みこむことは大事ですが、観客が共感できない、あるいは観客が理解できない出来事やシーンをシナリオに記述しても、それは意味がありません。なぜなら観客は新規性や独自性を期待はしますが、共感できない情報や理解できない情報を「期待に応えてくれた」とは感じないからです。

そこで、どうすれば「共感」と「理解」を得られるかというと、重要なことのひとつが、前述した「観客の共通認識」です。幅広く知られている題材やテーマであれば、観客の共通認識として伝わりやすく、逆に狭く一般的ではない題材やテーマであれば、一部の観客にしか伝わらない共通認識となります。

例えば「剣と魔法が大活躍し、現実には存在しないドラゴンや魔王が暴れまわる、超大作ファンタジー作品」があったとします。そして、その内容を理解し、登場人物に共感して楽しめる人がどれだけいるか、を考えてみてください。

最近でこそ、現実には存在しない「ドラゴンや魔王」も、漫画やアニメによって知られるようになってはいますが、漫画やアニメで目にする機会があった若い世代ならまだしも、漫画やアニメにまったく触れてきたことのない世代の人たちには、まったく理解の出来ない存在です。そういう意味ではドラゴンも魔王も、あまり幅広い共通認識とはいえません。

ここで話を「ビッグ」の内容に戻しますが「謎の機械人形の力によって、12歳の男の子が一晩で成人男性に早変わりする」という事象は、現実にはあり得ない出来事であり、ドラゴンや魔王の存在と大差ないフィクション要素です。

しかし、大人の観客であれば「子供時代の経験」と「現行の大人としての経験」を共通認識としてもっているため、主人公ジョッシュの置かれた状況を理解し、共感することができます。子供時代に少しでも「早く大人になりたいな」と思ったことがある観客であれば、さらにその共感は強くなることでしょう。

作中において「機械人形に、どうしてジョッシュを一晩で大人にする力があるのか」は説明されませんが、その力は観客を驚かせるために十分機能し、しかも共感と理解を得られる状況を作り出し、観客の期待に応えています。

なお、突然大人の身体を手に入れた子供が、何の知識も経験もないまま入社した勤め先で、あっという間に大出世する、という展開もまた非現実的な話であり、「こんな簡単に成功できるわけないだろ!」とツッコミを入れたくなる点では共感できない、ともいえるのですが、そこはコメディとしての笑いどころなので、あまりとやかくいうつもりはないです。

今や個人でも気軽に映画が作れる時代となり、世に映像作品は溢れているため、新規性と独自性を出すだけでも苦労しますが、だからこそ観客の理解と共感をいかに得ていくかは、特に重要になってきていると思います。

シナリオライターを目指すなら、是非「ビッグ」を観て、巧みな「理解と共感」の得ているシナリオの上手さを読み取って欲しいです。

コンテンツ」カテゴリの記事

« 8月22日(日)「オンライン型オープンキャンパス」のご案内 | トップページ | シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その27前編 »