身近にひそむ数学(7): 黄金比と自己相似
2021年8月15日 (日) 投稿者: メディア社会コース
シリーズ最終の今回は、黄金比と自己相似との関係に焦点を当てたいと思います。自己相似とは、全体と部分が、ある見方において同じであることをいいます。図形を扱うフラクタル(マンデルブロー集合、コッホ曲線、…)が自己相似の研究分野として有名ですが、統計や数式などにも自己相似の概念は存在します。
さて、第4回の話の最後の方に、対数螺旋(黄金螺旋を含む)という用語が出てきました。対数螺旋は下の図のようなイメージのもので、以前お話ししたオウムガイやヒマワリに現れる螺旋形状の近似モデルです。動物や植物以外にも、台風や鳴門海峡の渦潮などの自然現象の近似モデルにもなりえます。ただ、自然現象は気流や海流の影響を受けるので、その近似精度は一定にはなりません。
ちなみに、この対数螺旋は、極座標系において次のような方程式で表されます。上の螺旋図は、a=10、b=0.2に設定したときのものです。
この対数螺旋の性質の一つとして、自己相似性があります。これは、任意のα、β(α<β)に対して、小さい螺旋(―∞<θ<α)は、それを適当に回転拡大することで大きい螺旋(―∞<θ<β)に重ねることができるというものです。オウムガイの例で言えば、貝殻の成長(渦模様の拡張)が、生まれてから死ぬまで一定のパターンで変わらないということです。この自己相似に繋がるパターンを、ほぼ黄金比が定めています。
さて次に、黄金比を自己相似の数式で表すことを考えましょう。皆さんは、連分数という概念をご存じでしょうか? 連分数とは、q 0を整数、q n(n=1,2,3,…)を自然数として、下の左のような式で表される分数のことです(※ 正確にはこの形式は正則連分数といいます)。連分数には有限のものと無限のものとがあります。永遠に右下に延び続けるものが無限の連分数です。
さて、ここで、上の右の式のように、すべてのq i(i=0,1,2,3,…)を1に設定した無限の連分数をΦとおきます。どうです … このΦはシンプルでどこか美しく、自己相似性を感じませんか?
ここで、Φの最初の“1+”のあとの大きな連分数の塊を見てください。この分母に着目すると、Φそのものですね。つまり、
が成り立つということになります。この2次方程式を以前の回で見た記憶はありませんか? 変数の文字は異なりますが、第2回に出てきました。そう、この方程式の解は黄金比の1.618…です。
実は、Φという記号を今回まで取っておいたのですが、Φはπやeと同様に数学定数として定着しています。身近に存在する黄金比のことですので、是非とも覚えていただければと思います。
折角ですので、同様の有限の連分数を数列{f n}として見てみましょう。
f 4あたりで法則は見えてきたと思いますので、f 5以降の詳細な計算は省略しています。
フィボナッチ数らしきものが多々見えてきましたね。実際、ここで定めている数列{f n}とフィボナッチ数列{F n}との関係は、
となっています。この数列の逆数の数列{1/f n}の極限値は、以前見たように黄金比Φです。これで先の2次方程式との繋がりが認められました。
なお、Φは無限多重平方根で、次のようにも表現できます。この数式にも自己相似性が感じられますね。
自然や芸術、数学など、様々な世界で“美”を魅せる黄金比は神秘的です。皆さんが美しいと感じるとき、そこにはもしかしたら黄金比やフィボナッチ数列がひそんでいるのかもしれません。
文責: メディア学部 松永 信介
(2021.08.15)
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