身近にひそむ数学(2): 貴金属比(黄金比ほか)
2021年8月10日 (火) 投稿者: メディア社会コース
貴金属とは、文字通り、貴い(貴重な)金属のことであり、その総称の意味合いもあります。この貴金属の特長として、イオン化しづらく(化合物になりづらく)安定性があるという性質があります。一昨日オリンピックが閉幕しましたが、この約2週間、金メダル・銀メダル・銅メダルの行方に一喜一憂しましたね。実は、このうち金と銀は貴金属ですが、銅は貴金属ではありません(ご参考までに…)。
貴金属は全部で8つあります。残りの6つは調べてみてください。
さて、化学の講義のような話から始まりましたが、ここからが身近にひそむ数学の話です。安定性のあるものは、希少価値が高く美化される傾向にあります。そこで、美を感じさせる数の比のことを、いつしか貴金属比と呼ぶようになったのです。前回の白銀比(大和比)は貴金属比ではないのですが、親戚関係にある貴金属比が今回のお話の最後の方で出てきます。
さて、この貴金属比は一つではなく、第1貴金属比(1:(1+√5)/2)、第2貴金属比(1:(1+√2))、第3貴金属比(1:(3+√13)/2)、… と続きます。一見、無秩序に思われる比の並びのように映りますが、これらは1と貴金属数と呼ばれる値との比になっています。すなわち、次のような“1:貴金属数”という関係になっているのです。
皆さん、黄金比という言葉を聞いたことはありませんか? 実は、第1貴金属比の別称が黄金比です。この比は、自然界や芸術の世界に多々見られることから、最も美しい数学の比として黄金比(Golden Ratio)と呼ばれるようになりました。自然界での例は割愛しますが、芸術の世界で有名なものをいくつか紹介しておきます。
ミロのヴィーナスは、へその位置を境にその上半身と下半身の長さの比が黄金比とされています。また、レオナルド・ダ・ヴィンチ作のモナリザは、顔の部分を長方形で切り出したとき、その縦横比が黄金比になっていると言われています。一方、著名な建築物にも黄金比ではないかと言われているものがあります。エジプトの一部のピラミッドは、その高さと台座の一辺の長さの関係が黄金比であるとされています。また、ギリシャのパルテノン神殿も、その高さと台座の幅の関係が黄金比であるとされています。いずれも少なからず誤差があり、厳密性が担保されているとは言い難いのですが、ただ美を追求すると、自ずと黄金比に近いものができあがるのかもしれません。
さて、この比(約“1:1.618…”)の長方形は黄金長方形と呼ばれます。この長方形の特長的性質は、短辺を一辺とする正方形をもとの長方形の端から切り取った残りの部分が、また黄金長方形になっているというものです。この性質に基づいて、下図を眺めながら実際に黄金比を求めてみましょう。
大元の黄金長方形の短辺の長さを1、長辺の長さをxとします。ここから、1辺の長さが1の正方形を切り取ると、短辺の長さがx-1、長辺の長さが1の長方形が残ります。これが、元の長方形と相似関係になるので、次のような計算ができます。
確かに1.618…という値が得られますね。ちなみに、パスポートや現在主流の名刺は黄金長方形です。もちろん黄金比を意識してデザインされているのですが、このように黄金比は身近なところにも存在するのです。
続いて、第2貴金属比についてお話しします。こちらは黄金比の次ということで、白銀比(Silver Ratio)という名が付きました。この比(約“1:2.414…”)は、黄金比と比較すると、かなり開きのあるものです。黄金長方形と同様に、この比に基づく白銀長方形というものがあります。この長方形は、正八角形の一辺とその対辺を鉛直の2本の対角線で結んでできるものとしてイメージができると思います。実際に作図してみると、この比が確認できます。白銀長方形は少し細長くなります。
さて、この白銀比(第2貴金属比)が前回の白銀比(大和比)とは異なる比であることにはすでに気付いていることと思います。ただ、この2つのタイプの白銀比には不思議な関係があります。それぞれの比の値からすれば自明なことですが、第2貴金属比の長方形から、その短辺を共有する最大の正方形を切り取ると、大和比の長方形が残ります。逆に、大和比の長方形から、その短辺を共有する最大の正方形を切り取ると、第2貴金属比の長方形が残ります。ですので、これら2つの白銀比は無縁ではなく、親戚関係にあると言えます。
なお、ここでは説明しませんが、第3貴金属比には青銅比という別称があります。この記事の冒頭で、銅は貴金属ではないと説明しましたが、この貴金属比では、金(黄金)・銀(白銀)に続く形で、銅(青銅)はある意味市民権を得ています(厳密には銅と青銅は違うのですが…)。ちなみに、金(Au)・銀(Ag)・銅(Cu)の仲の良さは元素周期表からも見てとれます。久しぶりに、元素周期表を眺めてみてください。メダルの金・銀・銅の序列の妥当性がわかるはずです。
文責: メディア学部 松永 信介
(2021.08.10)
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