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身近にひそむ数学(4): フィボナッチ数列の誕生秘話と自然美

2021年8月12日 (木) 投稿者: メディア社会コース

今回は、前回紹介したフィボナッチ数列に関して、その誕生秘話(前半)と自然界との偶然的な接点(後半)という2つのトピックに分けて綴りたいと思います。

まず初めに、フィボナッチ数列の誕生秘話についてです。前回の記事で、この数列はフィボナッチ著の『算盤の書』(1202年刊行)の中の「ウサギの問題」の項目で登場したということを記しました。

この問題は、実は非現実的な設定でのウサギの繁殖シミュレーションなのですが、内容的に理解しやすく、フィボナッチの着想が見て取れるので、図を交えて簡単にご紹介します。なお、この種の数列による数学モデルは、昨今我々を悩ませている新型コロナウィルスの増殖モデルの形成や実行再生産数の算出などに活かされています。

さて、その繁殖シミュレーションのイメージ図を先行して示します。なお、このシミュレーションでは、ウサギのつがいが1つの単位です。ウサギの総羽数でイメージしても構いませんが、その際は2で割って考えてください。

Fibonacci5

以下が、このシミュレーションのルール(公理)です.

0° 生まれたばかりの1組の子ウサギのつがいがいる

1° 子ウサギのつがいは、1ヵ月後に成長ウサギのつがいとなる

2° 成長ウサギのつがいは、1ヵ月後に1組の子ウサギのつがいを産み、親ウサギのつがいとなる

3° 親ウサギのつがいは、永遠に親ウサギのつがいとして、1ヵ月ごとに1組の子ウサギのつがいを産む

上の図でこのルールの適用シミュレーションを確認しましょう。ルール0°は0ヵ月のところで一回適用されるだけです。初期設定みたいなもので、子ウサギのつがいがその時点で1組いるという状態です。1ヵ月後には、ルール1°の適用により、成長ウサギのつがいが1組います。2ヵ月後には、ルール2°の適用により、親ウサギとなったつがい1組とその子ウサギのつがい1組がいます(計2組のつがいがいる)。3ヵ月後には、ルール1°、ルール2°、ルール3°が同時適用され、親ウサギのつがい1組、成長ウサギのつがい1組、赤ちゃんウサギのつがい1組がいます(計3組のつがいがいる)。4ヵ月後以降も同様に、ルール1°、ルール2°、ルール3°を同時適用していくだけで、つがいの数は自ずと決まっていきます。

フィボナッチは、この1ヵ月ごとのつがいの数の並びに興味を示し、そこに様々な代数的性質を見出しました。これが、13世紀初頭に誕生したフィボナッチ数列の原点です。

ここで、先の図において、子ウサギ(つがい)をあらためて子供ウサギ(つがい)と呼び、また翌月に子供ウサギ(つがい)を産む成長ウサギ(つがい)と親ウサギ(つがい)をまとめて大人ウサギ(つがい)と呼ぶことにします(以降、混乱を生じない限り“つがい”という表現は省略します)。

すると、下の図の左のような、抽象的な絵のモデルを作ることができます。ここで、○は子供ウサギを、●は大人ウサギをそれぞれ意味し、線は親子関係あるいは大人としての継続関係を意味しています。このような絵のモデルは根付き木(特に、根付き2分木)と呼ばれ、情報数学を支える一つの重要な概念です。

Fibonacci6

一方、右の図は、左の図を上下に反転させたうえで、子供ウサギと大人ウサギの区別を無くしたものです。地に根を張った木に見えますね。これが根付き木と呼ばれる所以です。この右側の根付き木は、実はフィボナッチ木という名前が付いています。自然界のすべての木がこのような構造をもっているわけではないですが、成長過程で太い枝(成長が見込まれる枝)と細い枝(成長が期待できない枝)に分岐することはよく観察されることです。これに葉を描き加えると、それなりに違和感のない木に見えるはずです。

さて次に、フィボナッチ数列の自然美について記します。前回、規則的に正方形を敷き詰めて長方形を拡張的に形成するするということを通じて、フィボナッチ数列の幾何学的解釈を行いました。下の図は、前回の図に少し手を入れたものです(数字情報は消しています)。赤い螺旋(らせん)が、ここでの話の主役です。

Log_spiral

図があるのでそれとなくイメージが湧くと思いますが、この赤い螺旋は各正方形に収まる最大の四分円を、連続性と数学的滑らかさを担保して繋げてできているものです。ただし、曲率は一定ではありません。最初に用意する1辺の長さが1の正方形が並ぶところまではよいのですが,サイズの違う正方形を繋げる際に曲率は変わります。見た目ではあまりわかりませんが…。

そのような細かなことを無視すると、赤い螺旋は美しく見えますね。ところで、このような螺旋形状に近い動物なり植物を連想できますでしょうか? 動物としてよく引き合いに出されるのは、オウムガイやアンモナイト(化石)です。これらの巻貝の形状は、曲線として正確に一致しているわけではありません。実は、螺旋の数学モデルは複数あります。ここでは、自然が生み出す神秘くらいに留めておいていただければ結構です。興味のある方は、対数螺旋を入口に、いろいろと調べてみるとよいでしょう。

では、植物の方はどうでしょう。松ぼっくりやヒマワリの種の配列構造が、実はこの螺旋と酷似しています。ヒマワリを例に挙げると、黄金螺旋と呼ばれるものになっています。ヒマワリの種の配列は、中心の種に始まり、360度を黄金比で分割した角度である約137.5度(黄金角)の位置に次の種がつくという性質をもっています。そして、その繰り返しで数千もの種が密集し,あの美しい模様がができているのです。また、中心の方にある螺旋状に並ぶ種の数として 21 個、34 個、55個、89個などのフィボナッチ数を確認できます。自然界は不思議ですね。

文責: メディア学部  松永 信介
2021.08.12

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