シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その29後編
2021年9月29日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の29本目「ダイハード」について、どこに注目すべきか述べていきます。
今回取り上げる「ダイハード」は1998年に公開されたアクション映画です。それまでは主人公が圧倒的な力や才能をもってヒーロー的に活躍することの多かったアクション映画において、割と普通の人が度重なる困難や数多くの敵を相手に、知恵と工夫と強い意思によって戦い、勝利する、という新しい展開を作った作品です。その後のアクション映画では、このタイプが定番の一つとなり、本作の続編はもちろん、同じタイプのアクション映画が作られていくようになりました。
では、この作品でシナリオライターとして注目すべき点はどこかといえば「連続する困難に立ち向かう主人公」についてです。
タイトルにもなっている「ダイハード」には「しぶとい、なかなか死なない」といった意味があり、主人公であるジョン・マクレーンは、続編でも何度となく不幸にも事件に巻き込まれては生き残ることから”不死身の刑事”と呼ばれたりもするわけですが、本作内だけでも、彼は数々の困難に直面し、それを乗り越えていきます。
このblogでは過去にも少し取り上げて述べましたが、主人公のジョン・マクレーンは「巻き込まれ型の主人公」です。
確かに彼は刑事であり、職務上テロリスト集団と戦うことに何の違和感もありませんが、設定上彼はニューヨーク市警の刑事であって、本作の舞台であるロサンゼルスの刑事ではないので、管轄外の職務であり、本来そこまで頑張る必要はないのです。むしろ、作中では正体を明かすことの危険性を考えて偽名を名乗ったことで、警察の協力を得られないシーンがあったりして、そんなことがあったら、普通はよりいっそう頑張りたくなくなるのではないでしょうか。
それでも主人公のジョンが度重なる困難に立ち向かうのは、言うまでもなく妻のホリーが人質として敵テロリストに捕まっていて、彼女を救い出すためには何でもやろうとするからです。もっといえば、妻ホリーだけでなく、別居してなかなか会えていない幼い子どもたちのことも考えれば、決して死ぬわけにはいかない、という思いも理解できるよう情報が提供されています。見ている視聴者側もそこに違和感は感じません。
この作品が、割と普通の人が活躍するアクション映画の先駆けになったことを前述しました。
しかし、それだけに後追いで作られた作品の中には「割と普通の人が活躍する」理由が弱く、なぜそこまでしようとするのか共感できない作品や、強引に関わらせているようで理解に苦しむ作品も数多く作られています。
例えば本作同様に刑事の職についている主人公がいたとして、ダイハード同様に何か突発的な事件が起きて「仕事だから危険でも痛くてもやります!」としか考えない主人公だったら、おそらく視聴者側は共感できないでしょう。「刑事だから」「仕事だから」だけでは、「普通の人」が活躍する理由になりえません。
そういう意味で、実は「普通の人」が必死になって行動し、それを魅力的に描く作品には工夫が必要で、シナリオライターにはそこを何とかする腕が求められます。
ダイハードを見るときは、普通の人はどうしたら「連続する困難に立ち向かう」だろうか、と考えて見てほしいです。
「コンテンツ」カテゴリの記事
- あにめたまご2019「文化庁若手アニメータ等人材育成事業」(2019.03.12)
- 学会紹介:ADADA Japan学術大会と情報処理学会EC2019(2019.03.09)
- 大学院授業:プロシージャルアニメーション特論の紹介(2019.03.08)
- ゲームの学会?!(2019.03.07)
- 香港理工大学デザイン学部の紹介(2019.03.04)