« 学生時代の演習作品を発見 | トップページ | ADADA Japan 2021 10月8日開催 »

シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その27後編

2021年9月 7日 (火) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の27本目「美女と野獣」について、どこに注目すべきか述べていきます。

今回取り上げる「美女と野獣」は2017年に実写映画化された作品で、ディズニーが1991年に制作した長編アニメーション映画作品『美女と野獣』のリメイク作品です。原作自体はフランスの民話です。

あえてリメイク版を取り上げることが「注目すべき点」に関係しているわけですが、この作品で注目すべきは「恋愛成就に至る過程を明確に描いている点」です。

できれば1991年版のアニメ『美女と野獣』と観比べて欲しいのですが、タイトルにもなっている美女と野獣が、互いに惹かれ合う過程が、2017年版とはかなり異なります。

ヒロインのベルが狼の群れに襲われた際、危険を顧みず野獣が助けにきて来てくれたことをきっかけに、ふたりは惹かれ合い恋仲になっていく、という点は共通なのですが、実写版ではかなり冒頭から「ベルはとても読書好きだが周囲に理解されていない」という情報が強調されています。

この「読書」に関する設定は、後半でベルと野獣が共通の趣味を持っている、という点で、互いに親近感を抱くきっかけとして機能しており、見た目で奇異的な扱いをされてきた野獣と、趣向面で奇異的な扱いをされてきたベルが、互いを理解し合うという意味で、かなり機能的に働いている登場人物設定です。

このブログにおいて、シナリオライターが取り扱うテーマとして「共感を得る」ということが、とても重要な視点であることは、何度か述べてきていますが、この作品のように「恋」というテーマは、とても共感を得やすいテーマの一つです。しかし、定番かつ鉄板のテーマであるがゆえに、その取り扱いは難しく、安易な取り扱いでは退屈させるし、当人たちにしか理解できない取り扱いでは、共感しにくいという問題があります。

もしかすると旧作である1991年版『美女と野獣』で、シナリオライターは「か弱い女性が、狼に襲われるという危機的状況を、屈強な男性が自らが傷つくこともいとわず救われたら、恋に落ちる理由としては十分だろう」と確信して、シナリオを執筆したかもしれません。しかし、2017年に再び映画化される際「それだけでは共感を得るには不十分」だと判断され、前述した「読書」に関する設定と、それを強調するシーンが加わったのではないか、と推察ができます。

くりかえすようですが「恋」は定番のテーマであるがゆえに、その時代の常識や、視聴者の価値観に大きく影響を受るため、取り扱いが難しいテーマでもあります。今回のように取り上げだけでは「読書が共通の趣味だったというだけで恋に落ちるわけがないだろう」と考える人もきっといることでしょう。

そういう意味では、また数十年後に「美女と野獣」がリメイクされることがあったら、美女と野獣が「恋」に落ちる過程はもっと念入りに、詳しく描かれるかもしれません。

そんな日が本当に来たら大変興味深いですが、まずは2017年の実写版「美女と野獣」を見ていただきたいと思います。

コンテンツ」カテゴリの記事

« 学生時代の演習作品を発見 | トップページ | ADADA Japan 2021 10月8日開催 »