シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その28後編
2021年9月12日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の28本目「フェイス/オフ」について、どこに注目すべきか述べていきます。
今回取り上げる「フェイス/オフ」は1997年にジョン・ウー監督によって撮影された映画で、ジョン・ウー監督の象徴ともいえるアクションシーン満載の作品で、作中の随所で展開される銃撃戦の数々には熱狂的なファンが大勢いる人気作です。
では、この作品でシナリオライターとして注目すべき点はどこかといえば「主人公の存在感を明確にしている」という点です。
基本的に「主人公」という役割には、作中の映像時間の多くが費やされるものなので「存在感を示せない主人公なんていない」と思う人がいるかもしれません。実際、この「フェイス/オフ」でも主に時間やシーンを費やしている登場人物は、主人公のショーンです。
しかし、この作品はシナリオ上最大の特徴として「顔を入れ替えられた者同士が、元の顔の人間を演じなければならない」という要素があり、主人公は敵役を演じ、敵役が主人公を演じることで物語が進行していきます。このため、一般的にこの作品は「ダブル主人公」もしくは「表主人公と裏主人公」の作品、だとも評されます。
多面的な視点になって物語が進展する面白さがあって、こういった「ダブル主人公」の作品はよく見かけるのですが、一歩間違えると、観客を混乱させてしまい、作中の誰に共感して良いのかわからなくなって楽しめなくなる危険があります。
主人公という役割には作中の映像時間の多くが費やされる、と前述しましたが、それは逆に言うなら、観客に共感してもらうためには、それだけのコストを支払う必要がある、ということでもあります。「ダブル主人公」にする、ということは、一人に費やせるコストが半分になるということでもあり、単純に考えれば提供される情報も半分になるわけです。
その点、「フェイス/オフ」は巧みで、主人公は自分の生活、家族、仕事などを一瞬で敵役に奪われ成りすましの被害に合うわけですが、成りすましとなった敵役は敵役で、主人公がもともとどんな態度で生活、家族、仕事に向き合っていたのかを考慮して動かねばならないため、ある意味主人公の代役として情報提供をする役も担っています。
それでいて、主人公は主人公として「なりすましに奪われたものを取り戻す」という主目的が成立しており、観客は最後まで「奪われたものは取り戻せるのか?」と気になる展開になっている点で、強い存在感を見て取ることができます。
また、前編のあらすじでは端折った部分ではあるのですが、この作品においては「家族愛」がテーマとして感じられるシーンが多々あり、主人公が普段の生活でうまく接することができずギスギスしていた妻と娘に対して、敵役がなりすましたらスムーズにやり取りできるようになっていたり、ある意味皮肉なシーンがあって、主人公は私生活が下手なやつだな、と思わせてくる「存在感」の出し方も興味深いです。
映画を見る際、特に映画館で見る場合はアクションシーンがひときわ目に付きますし、大画面や大音量もあいまってその部分が印象に残りやすいものなので、えてしてジョン・ウー監督作品といえばアクションシーンに目がいきがちですが、それらアクションシーンは、主人公たちが何らかの決着をつけるために必要だと思わせてくれる前提があるからこそ魅力的に感じられるものです。なんの思い入れも感じない、存在感の無い主人公と敵役が戦ったところで、魅力的なシーンには感じられないでしょう。
きっかけは「アクションシーンを見てみたい」でも良いと思いますが、ぜひ「フェイス/オフ」を見て、ジョン・トラボルタとニコラス・ケイジが演じる二人の主人公の存在感を感じてみてください。
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