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2021年10月

2021年の八王子いちょうまつりは11/20(土), 21(日)に実施

2021年10月31日 (日) 投稿者: メディア技術コース

健康メディアデザインという新しい研究テーマを開始した千種(ちぐさ)です。人体を健康メディアとしてとらえメディアを使って自らの健康をデザインするための研究に取り組んでいます。今回は研究とは全く違う個人としてのアクティビティを紹介したいと思います。

もう2021年10月も終わろうとしています。去年、今年と数多のイベントが中止になっていますが、オンラインイベントのみ活発に実施されてきた一年でした。東京オリンピック以降、やっとリアルイベントも適切な対策を講じながら実施されはじめています。

ところで皆さんは八王子いちょう祭りをご存知でしょうか?八王子いちょう祭りは、1961年に始まった八王子まつりが旧宿場町のある八王駅周辺の甲州街道沿いで主に商店街中心で実施されているのに対して、1979年から始まった高尾駅から八王子市追分までの約4kmにわたる約770本のいちょう並木のある甲州街道沿いで実施される市民祭のテイストのお祭りです。このいちょう並木は大正天皇の御陵造営を記念して昭和4年(1929年)に植樹されたとのことです。(Wikipedia)

随分前ですが、東京工科大学の講師に就任してすぐに八王子市民になったので、千種もそこそこの八王子愛の持ち主です。市民として八王子まつりを楽しんだり、八王子いちょうまつりでは、飲食ブーストして出店して八王子ラーメンを提供しています。この収益は全て八王子ラーメンパップ制作費に消えてしまいますが。東京工科大学のサークルや研究室も出店したりイベントを支えたりしてきました。メディア学部も同様です。

今回のブログは1年のどん底を味わった八王子いちょうまつりが今年復活のイベントを開催する心意気を応援するつもりの内容です。今年も八王子ラーメンを提供予定ですので、お時間のある方はイベント会場Bの陵南公園のグルメブースでお会いできればと思っています。

ちなみに全国にいちょうまつりはありますが、2大いちょう祭りは、神宮外苑いちょうまつりと八王子いちょうまつりです。
2つの祭りを比較してみると以下になります。

名称:神宮外苑いちょう祭り
初開催年:1997年
規模:300m、146本のいちょう並木
出店数:約40軒
来場者数:180万人以上

名称:八王子いちょう祭り
初開催年:1979年
出店数:数百店
規模:高尾駅から東へ約4km、約770本のいちょう並木
来場者数:約50万人

少なくとも多摩地域最大のグルメイベントで全国各地のB級グルメや八王子の個店のグルメが食べられるイベントです。
ボランティア団体の出店も多く、焼きそば100円とか焼鳥100円とか激安グルメを探しに歩いてみるのもよいかもしれません。

ここ10年程度の来場者数を調査してグラフにしてみました。近年は例年50万人前後の来場者数でした( https://www.ichou-festa.org/ )。八王子市の人口が57万人なのでかなりすごい来場者数で、市外からの来場者も相当数いるものと推察されます。また去年は小規模開催であり、大幅な赤字になったため、クラウドファンディングで寄付を募集した経緯( https://camp-fire.jp/projects/view/329406 )もあり、千種としては、今年は応援も兼ねて八王子ラーメンで応援したいと思います。天気に恵まれて安心・安全なイベントとして盛り上がりますよう。。。

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インターネットはなぜつながる?(2)

2021年10月30日 (土) 投稿者: メディア技術コース

皆さん、こんにちは。メディア学部の寺澤です。

昨日はネットワークの階層モデルとそのご利益の話を書きました。今日はもう一つの不思議について書こうと思います。昨日の記事では「IPアドレス」という用語が出てきました。これは、皆さんも耳にしたことがあるかもしれませんが、通信相手のコンピュータを指定(識別)するための番号です。192.168.1.2のような表記をします。当然自分が使っているコンピューターにもIPアドレスは必要です。IPアドレスの目的はコンピュータの識別ですから、同じIPアドレスの機器が同時に存在してはいけません。これはどのようにして実現されているのでしょうか?

本学では教室のほとんどでネット接続ができます。多くの教室が使われて同じ時間に授業が行われるので、教室ごとに利用可能なIPアドレスの範囲が異なっている必要があります。教室内ではその範囲内でIPアドレスを使うことになりますが、同じ教室にいる受講者のノートPCはその時、それぞれ異なるIPアドレスになっていなければなりません。また、次の授業の際にほかの教室に移動すると、その教室の環境に合わせたIPアドレスに変更する必要があります。実は同じことはカフェや駅や施設内でスマートフォンでネットを利用するときにも必要です。

しかし、普通は教室に行ってPCを立ち上げればネットにつながります。カフェに行くと、初めての時はちょっとしたスマートフォンの設定が必要かもしれませんが、2回目以降に訪れた時には自動的にネットにつながることがほとんどでしょう。IPアドレスは機器の利用者が自分で設定することもできますが、同じ教室や場所にいる他の利用者とは重複しないIPアドレスを指定することは非常に困難です。もちろん、適当なIPアドレスを設定しても通信はできないばかりかトラブルを引き起こすこともあります。そこで、ネットにつながる多くの機器ではIPアドレスの自動設定を行うDHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)という機能(プロトコル)を利用しています。ノートPCやスマートフォンは初期設定ではこの自動割り当て(を受ける)機能が有効になっています。

大学内などにDHCPサーバーを設置し、どの教室ではどの範囲のIPアドレスが使えるかを設定しておくと、その教室でネット接続をしようとするノートPCなどからのリクエストに応じて、DHCPサーバーがIPアドレスの自動割り当てを行います。一元管理が行われているので誤って重複したIPアドレスが使われる心配はありません。家庭内などではWiFiルーターがDHCPサーバー機能を持っていることが多いです。このような機能があるため、私たちはいつも手間要らずでネットワークを利用できるのです。

さて、ここで疑問を持った人はいませんか?IPアドレスは通信をするために必要なものなのに、その自動割り当てを通信で行っていることになります。これはどういうことでしょうか?興味のある人は調べてみてください。昨日の記事もヒントになると思います。

今日は私の担当しているメディア専門演習「ネットワーク構築」の授業で先日扱った内容からトピックを紹介してみました。

(メディア学部 寺澤卓也)

インターネットはなぜつながる?(1)

2021年10月29日 (金) 投稿者: メディア技術コース

皆さん、こんにちは。メディア学部の寺澤です。

皆さんはスマートフォンやノートPCなどで日常的にインターネットを利用していますね。これらの機器ではインターネットへの接続には、無線LAN(WiFi)、LANケーブルによる有線LAN、携帯電話の電波を使った接続などが用いられています。これらを使い分けて上手にネットを利用している人も多いでしょう。しかし、つなげ方の方式が違うのに、せいぜいその選択を設定変更すればネットにつながり、ユーザーから見ればいつも同じようにYouTubeが見られ、TwitterやInstagramをチェックできるのは考えてみれば不思議ではありませんか?

それはネットワークの技術は階層的になっているからです。代表的な階層モデルとしては「OSI参照モデル(7階層モデル)」というのがあります。インターネットの階層モデルではもう少し簡略化されています。ネットワークを利用するということは、ユーザーから見れば、例えばTwitterアプリを使うことです。Twitterアプリはソフトウェアとして作られていて、スマートフォンのOS(iOSやAndroid)の上で動いています。ユーザーがTwitterでメッセージを送ると、最終的にはそのメッセージはTwitter社の用意しているサーバーコンピューターに届けられ、他の人が見ることができる状態になります。

この時スマートフォンの中で起きていることは、(1)ユーザーが投稿したテキストなどをデータとし、(2)最終目的地であるTwitter社の所定のコンピューターに送るためそのIPアドレスとポート番号を指定し、(3)インターネットを通じてそこに到達するために中継してもらう最初の機器を指定し、(4)そこに向かってデータを送る準備をし、(5)実際に電波などで送り出す、という流れになります。これはデータを階層の上(ユーザー寄り)から下(送受信のハードウェア機能寄り)に、必要な処置をしながら、おろしていくということです。(この番号付けは説明のためのもので、必ずしも階層モデルの各階層とは一致しません。また、簡略化しています。)サーバー側ではこれを逆にたどり、最終的にサーバーソフトウェアにデータが届けられます。

各階層は役割が決まっており、上下の階層とどのような情報をどのようにやり取りするかも決まっています。(1)の一部と(2)の一部はアプリが担当し、残りの部分は普通オペレーティングシステム(OS)の一部として実現(実装)されています。最後の(4)や(5)の部分の階層の役割を果たすソフトウェアを切り替えることにより、有線のLANで通信したり、WiFi電波で接続したり、携帯電話の電波を使って送ったりできるのです。この時、他の階層はその影響を受けません。

皆さんが使っている機器では、従来から使われているIPアドレス(IPv4アドレス)のほかに新しいIPv6アドレスによる通信もできるようになっています。しかし、これを設定で切替えたり、あるいは自動的な切替えで使っていたとしても、皆さんがTwitterアプリを使う時にはその違いを意識することはありません。これもIPアドレスに関する処理を行う階層のソフトウェアを切り替えるだけで、アプリの階層を含む他の階層に影響が及ばないからです。

今日は私の担当している「インターネットシステム入門」の授業で先日扱った内容からトピックを紹介してみました。

(メディア学部 寺澤卓也)

学会発表の思い出

2021年10月28日 (木) 投稿者: メディア技術コース

メディア学部の大淵です。

秋になるといろんな学会が開かれ、学生や教員がそれぞれの研究成果を発表します。今はコロナ禍で大半がオンライン開催になりましたが、一昨年までは、学会といえばどこかに出かけて、発表と聴講(とちょっとばかりの観光)に集中した時間を過ごしてきたものです。学会の非日常的な楽しさが、次の研究のエネルギーになるという側面もありました。

少し思い出話をすると、私の初めての学会発表は、まだ大学院生だった32年前、鹿児島大学で開催された日本物理学会でした。「金属膜によるアントラセン表面励起子スペクトルの変化」という発表だったのですが、今とは分野が違って我ながら隔世の感があります。今のようにパワーポイントなどは無くて、透明なシートに手書きで説明を書き、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)という機械で投影して発表を行いました。当時の指導教官からは、内容はともかく「声が良かった」と褒めてもらって、それ以来人前で発表するのが好きになったような気がします。

学会が終わった後には、研究室のメンバーで指宿温泉に行き、砂風呂に入りました。そういうご褒美も含めて、学会発表には楽しい思い出が多いです。来年あたりはまたどこかに行きたいですね。

対面演習(プロジェクト演習IoTプロトタイピング)

2021年10月27日 (水) 投稿者: メディア技術コース

皆さん、こんにちは。メディア学部の寺澤です。

対面授業が再開され、多くの講義・演習が対面で実施されています。私の担当するプロジェクト演習4テーマも基本的に対面授業になっています。今日はその中の一つの「IoTプロトタイピング演習」について、先週の授業の様子を紹介します。この演習では、micro:bitobnizRaspberry Piなどのマイコンと外部センサー、そして、そのためのソフトウェアやクラウド上のサービスとの連携など、IoT(Internet of Things)の仕組みを実際にハードウェアからソフトウェアまで作成する体験ができます。

オンライン授業を余儀なくされていた時には、これらのマイコンボードや必要な部品を各自の自宅に送り、ZoomやMeetなどを用いて、画面共有しながら授業を行っていました。基本的に少人数なので、それぞれが取り組む内容が異なっていても、スタッフ側も並行対応ができ、遠隔でもそれなりに作成が進められることが分かりました。ただ、やはり、受講生の皆さんにとっては初めてのことが多いので、対面であれば一瞬で解決できるようなことが、なかなかできなかったりということは度々ありました。

はんだ付けも自宅にはんだごてなどを持っている人は少なく、オンラインではできなかったのですが(ブレッドボードで対応しました)、今学期は先週の対面授業で「はんだ付け練習会」を実施できました。

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今週の授業では、やや番外編となりますが、PCを分解してみる予定です。廃棄予定の壊れたデスクトップPCを分解してみて、コンピュータの中身が実際にどうなっているのか見てみることになります。PC自作派の人以外にはあまりないチャンスです。基本的にデスクトップPCと同様のことができるRaspberry Piは手のひらに載るサイズです。比べてみるのも面白いと思っています。

(メディア学部 寺澤卓也)

対面授業を再開

2021年10月26日 (火) 投稿者: メディア技術コース

メディア学部の大淵です。

10月18日から、メディア学部の多くの授業が対面で行われるようになりました。私が担当する「プログラミング入門」や「メディア専門演習」も、久しぶりの対面授業を行いました。ここしばらくはずっとオンライン授業だったので、私自身もちょっと緊張していたのですが、実際にやってみると、熱が入ってたくさん喋りすぎてしまったような気がします。

さて、久しぶりの対面授業で感じたのは、「間」の取りやすさです。説明の中で特に重要なポイントを話したあとは、数秒間の間を取ることで重要性を伝えたくなるのですが、オンライン授業だとどうも手ごたえがなくて、すぐに話の続きを始めてしまうことが多かった気がします。でも、対面授業では、間を取っている間に学生さんたちの方を見ると、それぞれしっかり私の方を見てくれていて、重要ポイントだということが伝わっている実感がありました。

もちろんオンライン授業にはオンライン授業の良さがあるので、すべてを対面に戻せば良いというわけではありませんが、対面とオンライン、それぞれの良さを活かした授業のあり方について、これからも考えていきたいと思っています。

ACM UIST2021

2021年10月25日 (月) 投稿者: メディア技術コース

こんにちは,メディア学部の加藤です.

今回は 2021年10月21-23日に開催されたACM UIST2021について紹介します.
UISTは,User Interface Software and Technologyの略であり,HCI (ヒューマン・コンピュータインタラクション)の研究分野の中でも,
特にユーザインタフェースに関する研究を取り扱ったトップカンファレンス(分野の中で最高レベルの学会)です.
昨年に引き続き,今年もCOVID-19の影響で完全オンライン開催になり自宅からの参加となりました.

メインの Paper セッションには,全部で 367本の論文が投稿され,その内 95本が採択されています (採択率 25.9%).
UISTも同様の方式で,発表者とセッションチェア(座長)がそれぞれリアルタイムにZoomに接続し,各々の自宅または職場から発表を行います.

UIST にはPaperセッションの他,Demoセッション,Posterセッションといった発表も行われます.
今年はこれらの発表も Zoom上で行われました.
各発表に 1つずつブレイクアウトルームが割り振られ,聴講者は自由に部屋を移動しながら聴講することができます.
僕は Demoセッションにて 2件の研究を発表しました.
1件目は ShiftTouchという研究で,東京工科大学・Yahoo! Japan研究所が共同で進めているプロジェクトです.
発表は太田・加藤研究室 B4の川上くんが行いました.


Kaori Ikematsu, Kunihiro Kato, and Rei Kawakami. ShifTouch: Sheet-type Interface Extending Capacitive Touch Inputs with Minimal Screen Occlusion. In Proceedings of the 34th Annual Symposium on User Interface Software and Technology (UIST' 21 Adjunct), pp.86-88, (2021). [DOI]

2件目はレーザカッターを用いて木製の基板を作成する手法に関する研究です.
こちらはお茶の水女子大学・東京工科大学・Yahoo! Japan研究所・東京大学が共同で進めている研究プロジェクトです.
発表はお茶の水女子大学の石井さんが行いました.


Ayaka Ishii, Kunihiro Kato, Kaori Ikematsu, Yoshihiro Kawahara, and Itiro Siio. Fabricating Wooden Circuit Boards by Laser Beam Machining. In Proceedings of the 34th Annual Symposium on User Interface Software and Technology (UIST' 21 Adjunct), pp.109-111, (2021). [DOI]

UISTで発表された研究のほとんどは YouTube上 [Link]でも見ることができます.

授業紹介:「音楽入門」(1年次開講科目)での作曲【解説編】

2021年10月24日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース

メディア学部の伊藤(謙)です。

前回の【演奏編】「Sunny Day」をお聴きになったでしょうか? 今回は【解説編】と題して、この曲の成り立ちについてご説明しましょう。

はじめに、授業内で学生に課題を出してから私が作曲・演奏し、その後、曲名が決まるまでの流れを記しましょう。

 (1)第3回授業[5月7日]:
    授業内課題「名前に含まれる音名を探そう!」(音名の抽出)
    ➡︎ドイツ語表記の音名に見なせるアルファベットを自身の名前から抽出し、
     その文字と個数を回答・提出(177名)。
 (2)第5回授業[5月21日]:
    授業内課題「名前に含まれる音名」で作られる音列を選ぼう!(音列の投票)
    ➡︎一覧表に示された177名の回答(音名の並び・個数)を見て、
     作曲に使ってほしいと思う音列を選択[複数可]。
 (3)第6回授業[5月28日]:
    前回の授業内課題で得票数が多かった5つの音列を紹介。
    (各音列の得票数の発表)

    ➡︎177名の中で得票数が特に多かった5つの音列をピアノを弾きながら紹介。
 (4)第7回授業[6月4日]:
    得票数の一覧表と音列の楽譜の配布。(作曲に用いる音列の確定)
    ➡︎177名全員の得票数・得票率を一覧に示し、5つの音列を楽譜化。
     各音列を使ったメロディとハーモニーの一例を紹介。
 (5)作曲[7月23日〜25日]:
    各音列によるメロディとハーモニーおよび楽曲構成を確定させ
    楽譜(手書き)を作成。
(楽曲完成)
 (6)第14回授業[7月30日]:
    作品発表/授業内課題「名前に含まれる音名」で作られた曲の
    タイトルを考えてください!(演奏/曲名の考案)
    ➡︎メディアホールのステージで演奏。演奏後に楽曲解説/
     曲を聴いた印象を踏まえて曲名を各自で考案・提出(148名)。
 (7)曲名決定の発表/楽譜公開[9月19日]:
    ➡︎148名それぞれが考案した曲名および考案理由を一覧にまとめ、
     その中から伊藤が検討した結果、「Sunny Day」が
     曲名に決定したことを発表。曲名が記載された楽譜を公開。


今回の曲に用いられている「5つの音列」(※そのうちの1つは「休符」)と、それぞれの音列から作られたフレーズを以下にまとめました。
Sunny-day__
何となく予想はしていましたが、音名数が10個と最も多い【音名②】が49名の投票を得て第1位となり、全く音名を含まない【音名⑤】も第3位に入りました。【音名②】はご覧の通りEs(ミ♭)とA(ラ)を中心として似た動きが多く、和音づけにかなり苦労しました。無音となる【音名⑤】もどのように扱うか非常に悩みました。試行錯誤の末、【音名④】のフレーズを分断する休符としての役割を持たせることでその存在をアピールできたかと思いますが、皆さんは聴いていかがでしょうか? 曲の冒頭で【音名①】【音名②】の順で現れたフレーズが、Endingでは逆に【音名②】【音名①】の順で組み合わさり、最後は【音名①】のAの音で締め括られるアーチ的な構成に仕上げられたのは、個人的に気に入っている点です。

曲全体の構成は以下の通りです。
Sunny-day_
このように全体は「A(急)-B(緩)-A'(急) 」の大きく3つの部分から成ります。Bの部分はテンポが遅くなるだけでなく調性も変わり、それまでの明るい曲調から雰囲気が一変します。各音列がどのようなフレーズやメロディになっているかだけでなく、そうした曲調の移り変わりも感じながら聴いていただければと思います。

過去の「音楽入門」のブログ記事では音名に関する詳しい説明を行っていますので、興味のある方はそちらもご覧ください。

 ■音名のはなし【その1】:
  「ドレミ」は何語?[2014年8月19日]
 ■音名のはなし【その2】:
  Aが「アー」でEが「エー」?[2014年8月21日]
 ■音名のはなし【その3】:
  人の名前から音楽をつくるって?[2014年8月26日]【音源あり】
 ■音名のはなし【その4】:
  人の名前から音楽をつくってみました[2014年8月27日]【音源あり】
 人の名前から音楽をつくってみました(その2)[2020年8月30日]【動画あり】


私は、この後期は講義科目の「音楽創作論」と演習科目の「作曲演習」を担当しています。どちらの授業もメロディにおける「モティーフ(動機)」を手がかりに、そこからいかに楽曲が作られているか、あるいは楽曲を作るかを学生と一緒に毎回考えています。特に「音楽創作論」では「音楽入門」と同様、毎年、学生にアイデアを出してもらい、それをもとに作曲を行っています。

それらの授業の報告もどうぞお楽しみに!


(メディア学部 伊藤 謙一郎)

シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その32後編

2021年10月23日 (土) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の32本目「ラストサムライ」について、どこに注目すべきか述べていきます。

今回取り上げる「ラストサムライ」は2003年に公開された、アメリカの歴史スペクタクル映画です。アメリカの映画ですが、モチーフは日本の明治維新まもない頃が舞台で、旧武士たちが政府に反旗を翻した西南戦争を思わせる内容になっています。面白おかしく取り上げられやすい海外の「サムライ」とは異なり、かなりシリアスに「武士道」をテーマとして取り扱っていることでも話題となった作品です。

この作品でシナリオライターとして注目すべき点はどこかといえば、それは「世界観設定の扱い方」です。

冒頭でも軽く触れましたが、海外の映画において日本の「サムライ」「ニンジャ」はとても人気があり、いろいろな形で登場してきます。その多くは、ヒロイックなもので、超能力や人間離れした身体能力をもつキャラクターとして描かれ、特にニンジャの扱う「忍術」は、炎や水や電気を操ることもあり、もはや魔法といってもいい強力な技になっていたりします。

日本人から見ると、こういった要素はとても違和感のある光景に見えたりするのですが、逆に日本人が似たようなことをしているジャンルがあります。剣や魔法やドラゴンが大活躍する世界観設定をもつ「西洋ファンタジー作品」の分野です。映画よりもマンガやゲーム、最近だとライトノベルでよく見受けられるでしょうか。

企画書の段階で、作品のおおまかな設定として「中世ヨーロッパで、騎士道を重んじる主人公が・・・」という説明の書き出しをよく見ます。ただ、実際の中世ヨーロッパについて調べると、前述した「剣や魔法やドラゴン」が登場する作品のキャラクターたちに近い外見を持った人々が登場する時代はもっと後の時代です。しかしながら魔法や武器が物語や伝承で取り上げられている時代としては間違っているわけでもなく、わりとちぐはぐな設定をしているということになります。

海外の作品で、時代と場所をかまわず登場して大暴れするニンジャを見た日本人が思わず笑ってしまうような感覚を、おそらくヨーロッパの方々は日本の「西洋ファンタジー」作品から感じていることでしょう。

少し話がそれましたが、シナリオライターとしては、そういった設定情報が史実や事実と合致しているかどうかは、いちばん大事なことではありません。もしかすると2番目くらいには大事かもしれませんが、それより大事なことがあるのです。

まずなにより大事なことは「その世界観設定を用いて何を伝えたいのか」を明確にすることです。

ニンジャやサムライが大好きになった人には、ニンジャやサムライが大好きになったきっかけの作品があり、「剣や魔法やドラゴン」が大好きになった人には、「剣や魔法やドラゴン」が大好きになったきっかけの作品があるはずで、それらの作品は何の意味もなくニンジャ、サムライ、剣、魔法、ドラゴンが出ていただけでは無いはずなのです。それらの設定を用いることでしか伝わらないテーマやメッセージがあったはずです。そしてそれがあったからこそ、ニンジャ、サムライ、剣、魔法、ドラゴンが大好きになったはずなのです。

「ラストサムライ」は「武士道」の考え方を伝える目的でサムライを世界観の設定に組み込んでいます。「武士道をテーマにしたシナリオを書くぞ」というハッキリとした目的でサムライを出しているので、海外でよくみるような「とにかく強い」「とにかくカッコいい」という、一般的なイメージだけで設定が作られていないことがよくわかります。(余談ですが、この作品において「ニンジャ」にはそういった意図が無いので、わりとステレオタイプなニンジャが登場します。)

シナリオを執筆する上で、最初のきっかけはとても大事なので、「ニンジャを大活躍させたい」や「剣と魔法の世界を描きたい」というきっかけから書き始めることも、なんら問題の無いことです。しかし、結局はそれらを用いて、そのシナリオは何を伝えたいのか、問われることになります。

シナリオライターとしては「ラストサムライ」から、世界観設定に「何を伝えたいのか」を乗せる術を学びたいところです。

シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その32前編

2021年10月22日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品」を紹介します。
前編とのなるこの記事は、あらすじのまとめが中心です。
後編ではその内容をもとに注目すべきポイントを述べますので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。
取り上げる映画は次のタイトルです。
『ラストサムライ (2003)』
[監督]
エドワード・ズウィック
[脚本]
ジョン・ローガン
エドワード・ズウィック
マーシャル・ハースコヴィッツ
[参考URL]
https://movies.yahoo.co.jp/movie/240096/
[あらすじ]
ネイサン・オールグレンは、アメリカ南北戦争時代に活躍した大尉である。戦争終結後は重製造を手掛けるウィンチェスター社に努めつつも、戦争時に政府の命とはいえ、自ら手をかけた先住民たちの姿が脳裏を離れず、酒浸りの日々によって紛らわせていた。そんな彼に上司から依頼が持ちかけられる。明治維新を迎えて間もない日本で、銃の普及もかねた訓練指揮官を務めるというものだった。気の進まない話ではあったが、巨額の報酬ということもあり、これを引き受けたネイサンは日本へ向かった
さっそく日本の軍隊の指揮を開始したネイサンだったが、兵のほとんどは農民出身の希望者が殆どで、まともに銃を扱うことすら難しいありさまだった。そんな中で、日本政府に不満を抱く旧武士たちが鉄道建設を妨害すべく襲撃してきた。ネイサンたちの部隊は、まともな戦いが出来ないにもかかわらず、この戦いに投入されることが決まり出兵することになる。この戦いには当然のごとく惨敗し、最後まで奮闘したネイサンも捕らえられてしまった。
敵軍の大将である勝元とその妹・たかは、ネイサンを手厚くもてなし、怪我の治療までしてくれた。それはネイサンにとって全く理科の出来ないことだった。たかの夫を殺したのはネイサンであり、自分は殺されるものと思い込んでいたからである。そしてネイサンは捕虜として勝元の村で暮らすことになり、はじめこそ「蛮人」扱いされていたものの、徐々に勝元や村の人々と打ち解けていく。そんな折、勝元が刺客に襲われる事件が起きた。ネイサンはとっさのこととはいえ、本来敵であるはずの勝元を守って刺客を撃退したことで、自身にも勝元たちと同じ武士道精神がめばえていることを自覚する。
やがて年が明け、春になった頃、勝元は天皇の命により江戸へ向かうことになった。ネイサンもこれに同行したが、この招集は新政府側の策略で、大将である勝元を旧武士たちから引き離し、その隙に旧武士勢力を討ち滅ぼそうとするものだった。家臣たちによって、なんとか勝元は江戸の脱出に成功するも、勝元の息子・信忠が犠牲になってしまった。ネイサンは、息子の死にショックを受ける勝元を思いやりながらも、共に村へ戻ると、数日のうちには襲撃をしかけてくる政府軍を迎え撃つため、体制を整えた。
ネイサンたちは、少人数でもなんとか勝利を掴むべく「新兵器がある」と油断する政府軍を突く作戦を立て決戦当日を迎える。最後の降伏勧告に対して、これに首を縦に振らなかった勝元たち、そして彼らと共に戦う決意を固めたネイサンは、戦いに突入していった。旧武士勢は、ありとあらゆる手を尽くして激戦を繰り広げ、ときには政府軍の兵たちを撤退に追い込む奮戦を見せた。思わぬ抵抗に苦戦を強いられる政府軍だったが、新兵器「ガトリング砲」のもつ力はすさまじかった。勝元たちは、やがて押しかえされ、そして最後には勝元自身も重傷を負ってしまった。
結果をみれば大敗だったが、自らの武士道に殉じ、敵の手にかかって死ぬことを良しとしない勝元は、最後の介錯をネイサンに頼み、その生涯を終えた。その気高い最期は、敵である政府軍の兵士たちも目の当たりにすることになり、天皇にも伝えられ、武士のいない新しい時代になっても語り継がれることになった。
・・・次回は、この作品でシナリオライターとしてどこに注目すべきか、について述べていきます。
どうぞお楽しみに。

授業紹介:「音楽入門」(1年次開講科目)での作曲【演奏編】

2021年10月21日 (木) 投稿者: メディアコンテンツコース

メディア学部の伊藤(謙)です。

私はメディア学部で音楽系の講義や演習を担当しているのですが、そのうちの一つに1年次開講科目の「音楽入門」があります。この授業では、楽譜の読み方や書き方をまとめた「楽典」をもとに、それぞれの単元にまつわるトピックを盛り込んでいます。

楽典で学ぶ単元に「音名」があります。音名とは「個々の高さの音につけられた名前」で、皆さんもよくご存知の「ドレミ…」のことです。音名の表し方は言語によって異なり、私の授業ではドイツ語をメインに、英語、日本語での表記法を扱います(ちなみに「ドレミ…」は日本語ではなくイタリア語ですよ)。毎年この単元の回では履修生に対し、自分の名前をアルファベットにして、その中に含まれるドイツ語表記の音名を探す課題を出します。そして、履修生の中から選ばれた名前に含まれる音名を「音列」として扱い、それをもとに私が作曲し、さらに最終回の授業でお披露目(演奏)するのが毎年の恒例行事(?)となっています。

本日はまず、今年度の授業で作曲した楽曲「Sunny Day」を、楽譜の動画で皆さんにお聴きいただこうと思います。(※楽譜に記載されている名前については、それぞれの学生から公開の承諾を受けています)

動画】2021年度「音楽入門」制作曲 (5名の履修生の名前による):
「Sunny Day」/作曲:伊藤 謙一郎


授業(7月30日)で演奏したときの様子も一部分をご覧いただきましょう。

【動画】「Sunny Day」/演奏:伊藤 謙一郎


この授業は、400人以上を収容できる「メディアホール」という場所でハイブリッドで開講していましたが、演奏した日は4度目の緊急事態宣言下で、ほとんどの履修生がオンラインでの参加となりました。この動画の映像は、オンラインで参加した学生が実際に視聴したものです。

この次の私のブログ(10月24日)では【解説編】と題して、この曲がどのように作られているか、作曲までの経緯も交えてご説明しますので、ぜひこちらもご覧ください!


(メディア学部 伊藤 謙一郎)

ADADA Japan 2021 運営を通じて

2021年10月20日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん,こんにちは.メディア学部助教の兼松です.

10月8日にADADA Japan 2021が開催されました.50件近くの発表があり,100名以上の方が参加してくださいました.ご参加いただいた皆様,ありがとうございました.
今大会は参加者の大多数が学生という面白い会になったとおもいます.私も色々な発表を見せていただきましたが,様々な大学・研究室からバリエーション豊かな発表があり,とても楽しませていただきました.

その一方で運営側としては反省点もいろいろありました.
私は幸いなことに母校である工科大で教員を勤めさせていただいていますが,同じ場所にいても学生と教員では違うことがたくさんあります(あたりまえですが).その1つが,学生のころは参加者として参加することが主だった学会などに,運営側で参加する機会が多くなったことですね.今大会のように運営側で参加していると,今まで快適に発表などができていた裏には,様々な先生方のご尽力があったのだと身に染みています.

・・・と,これはちょっと暗くなっちゃう系の後悔の話ですが,いい意味?での後悔もありました.

今大会にはメディア学部からも多くの発表がありました.メディア学部の学生の研究は,もちろん自分が所属している研究室以外の学生研究も,様々なところで触れる機会があります.ただやはり,ゼミなどで日々見ているわけではないので,こういった学会があると「あの研究室はこんなおもしろいことやってるのか!」と改めて発見することも多いです.
そうなると,ある意味学生気分が抜けない?私としては,「しまった・・・・僕もあの先生の研究室に行けばこんな面白いことができたかもしれない」と,ふと思ってしまうのです.もちろん,私が所属していた研究室に不満があったわけではないですよ(笑)

学会発表のいいところは,自分の研究を色々な人に知ってもらい,様々な意見をもらったりディスカッションができることが主たるところかなと思います.そのため,学生の参加者というと卒業研究をやっている学部4年生や大学院生が多いと思います.ただ,上記のように,様々な研究室でどんな研究をしているのかを知る良いチャンスでもあります.
メディア学部では創成課題や先端ゼミをはじめ,4年生以外の学生も研究に触れるチャンスが増えていますので,ぜひ自分の進路を考える上でも,1,2年生のうちから積極的に研究や学会に触れてほしいなぁと思います.

(文責:兼松祥央)

専門演習「空間インタラクティブコンテンツ」2021後期

2021年10月19日 (火) 投稿者: メディアコンテンツコース

コンテンツコースの椿です。こんにちは。

専門演習「空間インタラクティブコンテンツ」では,今週はLeapMotionを使いました。

LeapMotionは,Ultraleap社が販売しているハンドジェスチャを認識するセンサです。小さい箱状で,中に赤外線LEDと赤外線カメラが入っています。持ち運びやすいし見た目もシンプルでおしゃれな感じ,と言えるかもしれません。ソフトウェアは時々アップデートされてきましたが,ハードウェアは2012年の発売以来,変わっておらず,ロングセラーの商品です。

演習では,UnityでLeapMotionを使ったアプリを作成しました。シーン内に置かれた箱を倒すだけのアプリです。LeapMotionの上で手をかざしていると,Unityのシーン内で前方に進み,箱にぶつかると倒れるというものです。手の向きで進む方向を変えることができます。


受講者の半分はUnity初心者ですが,全員完成できたので一安心しました。今週は練習として,全員が同じ課題に取り組みましたが,期末には各自でオリジナルの作品を作って頂く予定です。

学生時代の演習作品、もう一つ発見

2021年10月18日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース

コロナ禍のため外出を控えていることもあり、家の中の古いモノを整理整頓していたら学生時代の演習作品らしきものを発見!という内容について先日このブログで紹介しました。

先週、もう一つ発見!たぶん同時期の演習での作品の模型だと思います。当時、美大だと1年次での演習対象でしょうか。私は工学系だったので2年次あたりの演習作品だと思います。私事ではありますが、また少し紹介します。

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コレはたぶん整髪料とかのボトルですね。親指でポコッと押して蓋をあける当時としてはユニークなボトルデザインだと勝手に思いますし、ボディも手にもよくなじみます。自画自賛はダメですけどね。

アイデアスケッチや図面・レンダリングまでは見つからず、やはり造形探索のプロセスまでは分かりません。当時、整髪料のボトルの基本形態は原則円柱で、蓋の開閉は回すか引くかしかなかったと思いますので、たどり着いた整髪料のボトルデザインとしては、自分なりに満足度は高かったと思います。担当の先生の評価は知りませんが(笑)。40年以上前のことなので、覚えていませんし。

前回紹介させていただいたシェーバーの基本形態は相貫体で、このボトルの基本形態はサイクロイド曲線の定規をベースにブーリアン演算の結果で構成したと推測します。全く覚えていませんが。曲面が合わさる部分などはそれなりに高度な曲面設計が必要です。今ならCADやCGですぐに確認できますね。当時は手作業なので模型制作にあたり、実寸の製図に合わせながらのんびり削り出したのだろうと思います。覚えていませんが。

今回もコンピュータの普及でデザインのための道具がどんどん便利に進歩するものの、プロダクトデザインの魅力には通底するものがあるなあ、と感じながらしばらく模型で遊び、結局、まだ捨てずに机上に転がっています。これでは整理整頓が進みませんね。

メディア学部 萩原祐志

デジタルトランスフォーメーションについて その7

2021年10月17日 (日) 投稿者: メディア社会コース

みなさんこんにちわ。メディア社会コースの進藤です。今週は7回にわたりデジタルトランスフォーメーションについてお話します。では今日もよろしくお願いします。

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 この項ではデジタルトランスフォーメーションに必要な組織について述べる。

 デジタルトランスフォーメーションに成功している企業の組織は、まず、デジタルトランスフォーメーションを引き寄せる組織文化を持っている。組織文化は、規範、集団の信念などを意味し、組織の人が容認された行動パターンだと信じているものであり、行動の基本的過程、価値観などを示すもの(ケイン他,2020)であり、デジタルパーパスやビジョンの策定と共有が前提となる。

 デジタルな組織は、また、デジタル環境の変化とスピードに対応することができる体制となっていなければならない。組織をモジュール化(部品のようにばらばらにしておき、組み合わせ可能な状態にしておく)して、必要に応じてすばやく動くことができるクロスファンクショナルチームを作っておき、階層を可能な限り排除することで、外部の人材や組織も含めた、オープンなエコシステム、もしくは、コラボレーションのためのプラットフォームやネットワークを作っておくことが望ましい(ケイン他,2020)。このような、オープンで分散型の組織は、イノベーションを起こすのには向いているが、意思決定に時間がかかったり、モジュール間でのすりあわせ、調整コストが必要な場合もある。そうしたデメリットもあることを意識して、必要に応じて、トップダウン型の意思決定を組み合わせる必要があろう。

 

参考文献

ジェラルド・C・ケイン、アン・グエン・フィリップス、ジョナサン・R・コバルスキー、ガース・R・アンドラス(著)、三谷慶一郎、船木春重、渡辺郁弥(訳)(2020)『DX経営戦略―成熟したデジタル組織をめざして』NTT出版

デジタルトランスフォーメーションについて その6

2021年10月16日 (土) 投稿者: メディア社会コース

みなさんこんにちわ。メディア社会コースの進藤です。今週は7回にわたりデジタルトランスフォーメーションについてお話します。では今日もよろしくお願いします。

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 この項ではデジタルトランスフォーメーションに必要な人材について述べる。

 まず、必要なのはデジタルトランスフォーメーションを推進するデジタルリーダーである。デジタルリーダーのスキルとして重視されるのは、まずは、前項でのべたデジタルパーパスとデジタルを策定する能力だ。そして、これらを社内で共有するとともに、社内外のエコシステムを動かして、迅速なコラボレーションを実現するプラットフォームを作る。一連の作業をおこなうためには、市場とトレンドの知識、ビジネス的慧眼、高い問題解決能力、前向きであること、先見の明などが求められる。テクノロジーの理解をデジタルリーダーに求めるのは、以上のようなことが満たされた後での話だ(ケイン他、2020)。

 デジタルリーダーは、CDO(チーフデジタルオフィサー)と呼ばれることもある。情報システムを統括してきたCIO(チーフインフォメーションオフィサー)の役割は、技術を活用してプロセスを最適化し、リスクを低減し、既存の事業を改善することであったのに対して、CDOの役割は、より戦略なものであり、技術を活用して、事業そのものを再考し、改革することである

 

参考文献

ジェラルド・C・ケイン、アン・グエン・フィリップス、ジョナサン・R・コバルスキー、ガース・R・アンドラス(著)、三谷慶一郎、船木春重、渡辺郁弥(訳)(2020)『DX経営戦略―成熟したデジタル組織をめざして』NTT出版

デジタルトランスフォーメーションについて その5

2021年10月15日 (金) 投稿者: メディア社会コース

みなさんこんにちわ。メディア社会コースの進藤です。今週は7回にわたりデジタルトランスフォーメーションについてお話します。では今日もよろしくお願いします。

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デジタルトランスフォーメーションに必要なパーパスについて述べる。

パーパスとは、企業の社会的存在意義や目的を意味する。「我々は何者か」、「我々が充足すべき世界のニーズは何か」という2つの問いの重なる領域としてパーパスは定義できる(BCG,ブライトハウス,n.d.)。デジタルトランスフォーメーションを実現するという文脈で考える場合でも、企業の本業や社会的存在意義、目的は変化しないという場合もあるだろう。しかし、通信会社の例でいえば、その企業の社会的存在意義がアナログの固定電話の敷設であると定義してしまうと、デジタル時代には、既に存在意義を失うことになる。しかし、人々のコミュニケーションを促進すると定義すれば、デジタル時代においても、大きな存在意義がある。あなたの会社のパーパスは、デジタルに対して耐性があるだろうか。そのことを検証するために、デジタル時代のパーパス、すなわち、デジタルパーパスを、書き起こしてみることをおすすめしたい。

 

参考文献

BCG,ブライトハウス(n.d.)「パーパス(存在意義)」

URL:https://www.bcg.com/ja-jp/capabilities/business-organizational-purpose/overview

デジタルトランスフォーメーションについて その4

2021年10月14日 (木) 投稿者: メディア社会コース

みなさんこんにちわ。メディア社会コースの進藤です。今週は7回にわたりデジタルトランスフォーメーションについてお話します。では今日もよろしくお願いします。

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 現実の企業で、デジタルトランスフォーメーションを実行しようとしても、様々な障害から困難であるという問題が発生している。だが、デジタルトランスフォーメーションは起こるかどうかではなく、いつ、どのようにして起こるかという問題である。企業にとっては、行うべきかどうかという問題ではなく、いつ、どのように行うかという問題である(ウェイル,2018)。

では、明日から、企業がデジタルトランスフォーメーションを実現するためには、どのような事柄を実行していけばよいのだろうか?日本経済新聞(2019)は、デジタル変革に不可欠な6要素として、変革への意欲、変化に強い現代的な基幹系システム、組織と人、経営層の覚悟、ITパートナー、国の支援をあげている。IDC Japan(2017)は、内部エコシステム (組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用することが重要だと述べている。

これらをまとめると、企業がデジタルトランスフォーメーションを実現するためには、(1)デジタルパーパスとデジタルビジョン(2)人材(3)組織(4)戦略(5)ITシステム を変革していく必要があることがわかる。

 

参考文献

ピーター・ウェイル、ステファニー・L・ウォーナー(著)、野村総合研究所システムコンサルティング事業本部(訳)(2018)『デジタル・ビジネスモデル 次世代企業になるための6つの問い』日本経済新聞出版社

日本経済新聞(2019)「デジタル変革に不可欠な6要素」2019年3月19日

グラムコ(n.d.)「パーパスブランディング」

IDC Japan (2017)「Japan IT Market 2018 Top 10 Predictions: デジタルネイティブ企業への変革 - DX エコノミーにおいてイノベーションを飛躍的に拡大せよ」IDC Japan報道発表資料、2017 年 12 月 14 日

 

デジタルトランスフォーメーションについて その3

2021年10月13日 (水) 投稿者: メディア社会コース

みなさんこんにちわ。メディア社会コースの進藤です。今週は7回にわたりデジタルトランスフォーメーションについてお話します。では今日もよろしくお願いします。

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デジタルトランスフォーメーションとは、単に企業内の局所的なデジタル化ではなく、全社のビジネスモデルを変革する、非常に大きな取り組みであることがわかる。

 だがすべてを同時に実行することはむずかしいので、企業が着目するポイントによって、いくつかの類型がデジタルトランスフォーメーションにはある。市川(2021)は、デジタルトランスフォーメーションを、新サービス・市場創出型DX(ビジネスモデル改革型)、すなわち、デジタル技術を利用して、新たな製品・サービスを提供して顧客への付加価値・市場を創出すべく新たなビジネスモデルを構築するDXと、事業プロセス改革型DX(ビジネストランスフォーメーション型)、すなわち、新たなデジタル技術を利用して、既存の社内外の事業プロセス(バックエンド)全体の改革・効率化を行うパターンのDXと、組織・業務改革型DX(フューチャーオブワーク型)、すなわち、デジタル技術を利用して、組織の働き方や業務のプロセスの改革を行うパターンのDXの、3つに分類している。

 

参考文献

市川類 (2021)「イノベーション論からみたデジタルトランスフォーメーション (DX) 」(No. 21-02). Institute of Innovation Research, Hitotsubashi University

デジタルトランスフォーメーションについて その2

2021年10月12日 (火) 投稿者: メディア社会コース

みなさんこんにちわ。メディア社会コースの進藤です。今週は7回にわたりデジタルトランスフォーメーションについてお話します。では今日もよろしくお願いします。

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デジタルトランスフォーメーションとは何だろうか。定義は非常にたくさんあるので、それらを紹介することからはじめよう。まず、デジタルトランスフォーメーションという言葉を最初に使ったのは、Stolterman(2004)は、デジタルトランスフォーメーションを、「人間の生活のさまざまな面において、デジタル技術が引き起こし、影響する変化」とした。彼はデジタルトランスフォーメーションを企業のデジタル戦略の一形態としてではなく、社会のデジタル化の視点で定義している(市川,2021)。

 日本でよく利用されている定義は、IDC Japan(2017)によるものであり、デジタルトランスフォーメーションを、「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム (組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。この定義は、経済産業省(2018)によるDXレポートに用いられ、ビジネスにおけるデジタルトランスフォーメーションの定義として広く用いられることになった。

 一方、ウェイドら(2019)は、デジタルトランスフォーメーションを、「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」と定義している。

 

参考文献

Erik Stolterman, Anna Croon Fors(2004)“Information Technology and The Good Life”, Umea University, Information Systems Research Relevant Theory and Informed Practice, IFIP TC8/WG2 2004

市川類 (2021)「イノベーション論からみたデジタルトランスフォーメーション (DX) 」(No. 21-02). Institute of Innovation Research, Hitotsubashi University

IDC Japan (2017)「Japan IT Market 2018 Top 10 Predictions: デジタルネイティブ企業への変革 - DX エコノミーにおいてイノベーションを飛躍的に拡大せよ」IDC Japan報道発表資料、2017 年 12 月 14 日

経済産業省(2018)『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』2018年9月7日

URL:http://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010.html

経済産業省(2018)「DX推進ガイドライン」2018年12月URL:https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html

マイケル・ウェイド、ジェフ・ルークス、ジェイムズ・マコーレー、アンディ・ノロニャ、ジョエル・バービア(著)、根来龍之(監訳)、武藤陽生、デジタルビジネス・イノベーションセンター(訳)(2019)『DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織を作る』日本経済新聞出版

デジタルトランスフォーメーションについて その1

2021年10月11日 (月) 投稿者: メディア社会コース

みなさんこんにちわ。メディア社会コースの進藤です。今週は7回にわたりデジタルトランスフォーメーションについてお話します。ではよろしくお願いします。

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近年、社会のデジタル化が驚異的に進み、デジタル技術を基盤とした企業(デジタル企業)の時価総額が大幅に増加していることなどから、デジタルトランスフォーメーションへの関心が高まっている(今井,2020)。また、2020年から2021年にかけては、世界的にコロナ禍に見舞われたため、予想外のかたちで、デジタルトランスフォーメーションが進展した。

では、そもそもデジタルトランスフォーメーションとは、いったい、なんのことだろうか?

そして、あなたの会社でそれを起こす必要はあるのだろうか?

起こしたいと思った場合、まず、何から考えればよいのだろうか?

今週は、そうしたことについて、記していく。

 

参考文献

今井紀夫(2020)「デジタルトランスフォーメーションとその背景の理解」マーケティングジャーナル, 40(2), 65-73.

9月20日(月・祝)バーチャルオープンキャンパス「オンライン見学会」開催報告とオンデマンド配信(10月31日(日)まで)のお知らせ

2021年10月10日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース

皆さん、こんにちは!

さる9月20日(月・祝)にバーチャルオープンキャンパス「オンライン見学会」が開催されました。それからだいぶ間が空いてのご報告となってしまいましたが、本日はメディア学部の見学会の様子をご紹介いたします。

今回の見学会では、3つの研究室が以下のテーマで研究紹介を行いました。

吉岡研究室(聴覚障害支援メディア) [メディア社会コース
 「アプリで多様性を実現」
柿本・戀津研究室(ビジュアル&コンテンツインフォマティクス) [メディア技術コース]
 「作品に潜む構造と技術」
川島研究室(次世代 CG クリエイション) [メディアコンテンツコース]
 「最新CG技術と作品紹介」

当日は大学職員がカメラを手に各研究室を訪問し、教員の説明や研究室の様子をLIVE配信しました。この方式での見学会は、8月8日と8月22日のバーチャルオープンキャンパスでも行われましたが(こちらのブログ記事をご覧ください→ 8/88/22)、そのときは片柳研究所棟から研究棟C(メディア学部の研究室がある建物です)までキャンパス内を歩きながら各施設を紹介し、見学コースの中で研究室を訪問する趣向でした。

今回は研究室の紹介がメインで、それぞれの研究室での取り組みに関する説明やデモンストレーションのための時間をたっぷり取りました。また、教員の説明中に視聴者からの質問をチャットで受け付け、その場で教員が回答するなど、配信映像をご覧になっている方々とリアルに近い形でコミュニケーションが取れたのも大きな特長と言えるでしょう。そして何よりも、研究室で実際に行われている研究や制作活動をじっくりとご覧いただき、メディア学部の魅力をさらに感じていただく機会になったかと思います。

それを裏付けるように、参加された方々からは「HPやパンフレットだけではわからない研究室の内容がよく理解できて良かった」「学生の研究や作品を見ることができてさらに興味をもった」「質問に丁寧に答えてもらえたので悩んでいた点が解消された」「先生の熱意が伝わった」といった声が寄せられました。これを機にメディア学部への入学の気持ちをより強く持ったというコメントも多かったです。一方、「他の研究室も見てみたい」「オンライン授業の様子や雰囲気を紹介してもらえると良い」「普段、学生が使用する施設や設備も見られたら嬉しい」といったご要望もありました。今後のイベント開催の参考にしたいと思います。

ここまでお読みになって、9月20日のLIVE配信を見逃して残念と思われている方もいらっしゃることでしょう。そのような方に朗報です!

大学HPから「9月・10月八王子オンラインキャンパス見学会(オンライン型[9月20日~10月31日]※ライブ配信[9月20日])」をお申し込みいただくと、当日の見学会のLIVE配信映像がオンデマンドでご覧いただけます ぜひ多くの方にメディア学部の魅力と特徴を感じていただきたいと思います。10月31日(日)までの期間限定ですので、お申し込みはお早めに! そのほか、以下のオンデマンド配信コンテンツも視聴できます

【メディア学部 オンデマンド配信コンテンツ】
 ①「メディア学部長による学部紹介」(大淵教授)
 ② 研究(室)紹介 羽田研究室[メディア技術コース]/メディア学部の研究室とは?
  「五感を操るテクノロジー」(羽田教授)
 ③ 模擬授業「視覚でデータを分析する」[メディアコンテンツコース] (竹島教授)
 ④ 模擬授業「AIが創る顔写真」[メディア技術コース] (藤澤講師)
 ⑤ 模擬授業「メディアとSDGs」[メディア社会コース] (吉岡講師)


最後に「オンライン見学会」の一部を写真でご紹介しましょう。

まずは、見学会開始前と開始直後の様子から。

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   開始前にカメラと音声を入念にチェック       それでは、研究室見学に出発!


・吉岡研究室(聴覚障害支援メディア) [メディア社会コース]

 「アプリで多様性を実現」

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    吉岡先生の手前にあるモニタ画面に注目    吉岡先生が話している内容が自動的に文字に!

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  開発したアプリはテレビ番組でも紹介されました    こちらは学生が開発中のアプリです


・柿本・戀津研究室(ビジュアル&コンテンツインフォマティクス) [メディア技術コース]

 「作品に潜む構造と技術」

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  最初に研究室の研究分野に関する紹介を      作品中での過去・現在・未来の配置を可視化

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  こちらは登場人物の関係性を描画したもの    視聴者からの質問にも丁寧に答えて下さいました


・川島研究室(次世代 CG クリエイション) [メディアコンテンツコース]

 「最新CG技術と作品紹介」

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 まずは先生の研究室の特徴と活動の目的を説明  学生が考案したゲーム系の映像表現方法を紹介

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  これがCGで描かれた風景とは驚きですね!  学部でのCG関連科目についても説明されました



各研究室の見学時の様子は、オンデマンドで公開されている映像でぜひご覧ください!


(メディア学部 伊藤謙一郎)

チューリング賞

2021年10月10日 (日) 投稿者: メディア技術コース

皆さん、こんにちは。

現在、今年のノーベル賞の受賞者が順次発表され、話題になっています。日本人や日本に関係の深い人が受賞するとやはりうれしいですね。ところで、私の専門分野のコンピュータやコンピュータネットワークはノーベル賞の対象分野とはなっていません。数学も同様です。数学にフィールズ賞があるように、コンピュータの分野にもノーベル賞に匹敵するとされる「チューリング賞」があります。

チューリング賞(A.M. TURING AWARD)は、ACMというコンピュータ分野の世界的な国際学会により選出される、最も権威ある賞です。賞の名前になっているチューリングはイギリス人のアラン・チューリングにちなんでいます。チューリングは2014年の映画『イミテーション・ゲーム』(アカデミー賞脚色賞を受賞)でも描かれた天才で、第2次世界大戦中、イギリスによるドイツ軍の暗号解読に大きく貢献しました。2021年末に発行される新しい50ポンド紙幣にも描かれるそうです。計算機科学の分野で大きな功績を残し、「チューリング・マシン」や「チューリング・テスト」にもその名を残しています。

先日、授業で2016年の受賞者 Sir Tim Berners-Lee(ティム・バーナーズリー)を紹介しました。彼はWWW(World Wide Web)を開発した人でその功績によりチューリング賞を受賞しています。その前に2003年に英国女王からKBE(ナイト)を授けられています(だからSir)。HTML (Hyper Text Markup Language)、HTTP (Hyper Text Transfer Protocol)、URL (Uniform Resource Locator) というWebの基本要素が標準化されるのにも貢献しています。彼は1990年に最初のWebブラウザとサーバのプログラムを開発しています。ちなみに、この時使用されたのは、NeXT(スティーブ・ジョブズがいったんAppleを離れて創業した会社)のワークステーションでした。今に至るインターネットの発展はWWW抜きには考えられません。彼の貢献がいかに大きいかがわかります。

チューリング賞受賞者は当たり前ですがコンピュータ界のビッグネームそろいです。業績はACMのサイトを見てもらうこととして、名前を挙げるとすれば、リチャード・ハミング、マービン・ミンスキー、ジョン・マッカーシー、エドガー・ダイクストラ、ドナルド・クヌース、ハーバート・サイモン、ケン・トンプソン、デニス・リッチー、ニクラウス・ヴィルト、アラン・ケイ、ヴィントン・サーフ、ロバート・カーン、チャック・サッカー、レスリー・ランポート、ジョン・ヘネシー、デイビッド・パターソン、ジェフリー・ヒントン、パット・ハンラハン、アルフレッド・エイホ、ジェフリー・ウルマンなど(好みが偏りましたが)。私も彼らの書いた教科書で勉強しました。2021年の受賞者はこれから発表されるようです。日本人の受賞者はまだいませんが、いずれ登場してほしいですね。

(メディア学部 寺澤卓也)

インターネットシステム入門

2021年10月 9日 (土) 投稿者: メディア技術コース

皆さん、こんにちは。

9月末から新学期が始まりました。今学期、私は講義科目の「インターネットシステム入門」を担当します。履修登録の結果、130名弱の学生さんが履修してくれることになりました。この科目は1年次の開講科目ですが、約半数が1年生、残りは上級生です。

インターネットは私たちの生活にとってすでにインフラと言ってよい存在です。現在の大学生の皆さんは生まれた時にはすでにインターネットがありました。もちろん、より若い皆さんもそうですね。スマートフォンを日常的に使い、勉強や仕事でインターネットを利用したり、オンラインショッピングなど様々なサービスを利用している私たちは、これからもインターネットから切り離された生活をすることは考えにくいでしょう。メディア学部の学生の皆さんは、それぞれ興味を持って深く学ぼうとする分野も卒業後の進路も多種多様です。そのような皆さんに、インターネットの単に仕組みの話だけにとどまらず、インターネットはだれのものなのか、大切にされていることは何か、なぜどのように発展してきたのか、その過程でどのような技術開発やパラダイムシフトがあったのか、これから何が起きそうなのか、それにどう対応していけばよいだろうか、このようなことを講義、あるいはディスカッションしてく授業としたいと考えています。

多くの皆さんは利用者としてインターネットを使っているので、インターネットがどのようなものかはなんとなくわかっていると思います。でもそれは、普段目にしたり利用したりしているインターネットの一部の側面を見ているにすぎません。この科目が、皆さんがより深く広くインターネットのことを知り、活用していく、あるいはエンジニアなどとしてインターネットにかかわっていく助けになるよう、授業を運営していきたいと思います。

(メディア学部 寺澤卓也)

カメラマン不要論!?(メディア学部の授業もDX その3:カメラマン編)

2021年10月 8日 (金) 投稿者: メディア技術コース

新しい研究テーマを始めた健康メディアデザイン研究室の千種(ちぐさ)です。人体を健康メディアとしてとらえメディアをつかって自らの健康をデザインするための研究を行っている研究室です。

今回は先の2回のブログに引き続き、「メディア学部の授業もDX!!その3」として話をつづけさせていただきます。去年の5月から1年5か月の間に相当数のオンライン授業とオンライン会議をやってきました。その状況も落ち着きつつあり、オンライン授業の回数は減っていくと思われます。

ところで、メディア学部のS教授は、まるでサンデル教授の白熱教室あるいはTED Conferences LCCみたいに教壇やステージを左右に歩きながら授業を実施するパフォーマンスでとても人気あります。このスタイルをオンライン授業で実施しようと考えると、どうしてもカメラマンが必要になります。東京工科大学のメディアホールや片柳研究所棟の地下大教室ではスタッフが常駐して、必要に応じてカメラマンとしてカメラワークをしてくれるのでオンライン授業であってもスムーズにできます。しかし、一般的なオンライン授業でこのように教員以外にカメラマンスタッフを別に雇用することは経費的に難しいです。

そこで登場するのが新しい高機能なウェブカメラです。つい最近、IOデータ社が発売した「TC-MSC200」はAI顔追尾機能を搭載したWebカメラで、会議の参加者全員が映るようAI機能により自動的に構図を決めてくれるので、人の移動に合わせてカメラの向きを調整する必要がありません。これって凄いですよね。ただ価格が2万5千円ほどで、オンライン授業で普通に使用する感じではありません。また個人利用にしてもちょっとハードルが高いです。

https://www.iodata.jp/news/2021/newprod/tc-msc200_add.htm

そして、このカメラが発売される少し後の7月にamazonでたまたま見つけたウェブカメラが、中国製のウェブカメラ『 1080P HD Webカメラ 知能的なモーショントラッキングカメラ』でした。価格はなんと1099円でした(2021年10月現在は品切れ中)。図の上の段中央の写真はamazon.co.jpのブランド: ZasLukeの商品写真です。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/B08L62GZ6W/

早速購入して授業で使用してみました。その時の映像・画像は残っていないので、説明用の資料を作成しました。人物を自動認識してくれるので、カメラの前に座った状態で体を動かすと、きっちりとトラッキングしてくれますし、授業中では教室を左右に歩いてもきっちりとトラッキングしてくれました。つまりカメラマン不要で、サンデル教授の白熱教室のような演出やTEDのような講演ができるようになりました。もっとも千種はそのようなパフォーマンスに富んだレクチャーはできませんが(笑)

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以下、本件も併せて過去の3編のブログになります。

・メディア学部の授業のDX(オンライン授業もDXその1)
http://blog.media.teu.ac.jp/2021/09/post-190ac7.html

・女優ライトって知ってますか?(メディ学部の授業もDXその2:照明編、外付けウェブカメラと照明によるDX)

http://blog.media.teu.ac.jp/2021/10/post-a97078.html


〇カメラマン不要論!?(メディア学部の授業もDX その3:カメラマン編、賢い外付けウェブカメラによるDX)
http://blog.media.teu.ac.jp/2021/10/post-68450e.html



・ジェスチャーを自動認識するウェブカメラのDX


丸暗記ではなくつなげて憶える一例

2021年10月 7日 (木) 投稿者: メディア技術コース

 昨日のブログで「CG数理の基礎」での質問と回答を紹介しました。その中で「丸暗記を推奨することがらはあまりない」と言いました。とはいえ、原理あるいは理由を踏まえた上で結果的に暗記状態になるべきことがらならたくさんあります。というか、大学での勉強ってほとんどそれかもしれません。
 
 同じ授業の中での別の質問とその回答を今日は紹介します。RGBは色を表現するディジタルデータとして基本中の基本ですが、HSV(色相Hue・彩度Saturation・明度Value)というのも重要な数値表現の一つです。
 
質問:
 RGBの値を丸暗記するよう書かれていましたが、HSVで覚えておいたほうがいい数字などはありますか? 今までの授業でHSVを使う機会があったので気になりました。
 
回答:
 HSVについて暗記しておきたいこと(人が設定したことなので科学的理由から導けるものではない)は、H(色相)だけは数値の意味が「角度」(0°~360°)であること、「赤」が0°であることです。
 
 あと、強いて言えば、順番に「緑」が120°、「青」が240°ですが、これは私自身は暗記しておらず、自分でこの場で導きました。
 
 イエロー、マゼンタ、シアンのHの値はどうなるか、暗記しなくても導けるようになるといいですね。
 
(質問・回答は以上)
 
 上記回答での「H(色相)だけは数値の意味が角度である」という事項が「原理あるいは理由を踏まえた上で結果的に暗記状態になるべきこと」です。丸暗記(理由を考えずに憶える)すべきことではないです。
 
 「人が設定したことなので科学的理由から導かれるものではない」のに理由を踏まえるというのは少し矛盾めいた感じがします。でもHを角度とした人為的理由はあります。つまり人が考えるのに都合がよい尺度だからです。
 
 ではなぜ角度だと都合がよいのか。
 
 色相の変化は明度や彩度のように一方的に大きくなって最大値まで至るような変化ではなく、色の種類の緩やかな移り変わりです。色の種類の間にはどちらの方が一方的に尺度が大きい、という関係は人間の感覚的にはありません。しかも、赤から黄、緑、シアン、青からマゼンタを経て赤に戻ってくる循環する変化をします。
 
 そのため、色相の尺度としては角度が合理的(科学的というより人間にとって)なわけです。「色相は角度」と丸暗記するのではなく、このように考えて納得して、理由からつなげて憶えれば自然と記憶は定着します。
 
 ここで疑問が生じます。物理的には色は光の波長として数値化されます。確かに赤から青、そしてそのちょっと先の紫(マゼンタのちょっと手前)に至るまでは、波長700nmから380nmという可視光です。
 
 一方向の尺度ですね。
 
 物理的には一方向の尺度なのに、なぜ人間の感覚だと色相は循環するのか。またの機会に考えてみることにします。
 
メディア学部 柿本正憲

原理重視の講義であえて丸暗記指定

2021年10月 6日 (水) 投稿者: メディア技術コース

 メディア学部2年次生向け講義「CG数理の基礎」を担当しています。なるべくCG技術の原理を理解することを重視する講義です。
 
 この講義ではスライド資料を前の週に公開し、履修生は予習をします。そして質問がある人は事前提出してもらう方法を取っています。私が回答を付記し、授業中にも説明し、回答付き資料を授業後に配布しています。
 
 この記事では、第1回授業での「色の数値表現」スライドについての質問と回答を紹介します。
 
 Cg

質問:
 
 「丸暗記すること!!」でページに載っているもの以外に暗記しておくと便利なものはありますか?
 
回答:
 
 「丸暗記」を推奨することがらは実はあまりありません。「丸暗記」という言葉には、「理由(原理)は知らなくていいから憶える」という意味があります。「原理を知らなくても」という姿勢は本講義ではなるべく避けたいことだからです。
 
 実際、この質問に対する率直な回答はNoです(本講義の範囲内では)。もちろん「暗記しておくと便利なもの」はあるはずです。ただ、それらの事項には必ず理由があるわけです。皆さんには、その理由を理解して結果的にその事項が導かれる、という憶え方をしてほしいのです。
 
 つなげて憶えて欲しいです。その方が重要事項の記憶も定着するし、たとえ忘れても自分で考えて導き出せます。
 
 ではなぜこの数値と色の関係を丸暗記と指定したのか。
 
 それは、数値から憶えることで、画像の色の表現原理である「加法混色」の理解を促進すると考えたからです。導き方が前述と逆ですね。具体的結果から原理という方向です。こういう考え方は「帰納的」といいます。
 
 画像の色の表現については帰納的に理解した方がいい、と考えてこのスライドを作りました。
 
 ちなみに「帰納的」の逆は、前述した、原理から具体例を導く考え方です。言葉として何と呼ぶか、知らない人は「帰納的」と逆の意味の言葉を自分で調べてみてください。
 
メディア学部 柿本正憲

メディアプログラミング演習「ウェブアンケートの実施とデータ解析」

2021年10月 5日 (火) 投稿者: メディア技術コース

メディア学部の大淵です。

メディア学部では、今年から、3年次後期向けの新科目として「メディアプログラミング演習」が始まりました。いくつかのテーマが並行して開講されていますが、その中で私は「ウェブアンケートの実施とデータ解析」を担当しています。

この科目は、卒業研究を始める直前に、実践的なプログラミング技術を身に付けようという主旨で作られました。私の研究室では、人間が音を聴いてどう感じるか、あるいは音と画像を比べてどう感じるかなどを調べる研究が多いので、必然的に評価実験をアンケート形式で行うことが多くなります。被験者を一室に集めて行うアンケートもありますが、簡単なものであれば、ウェブアンケートの形式にすることで、大勢の人に回答を頼みやすくなります。

アンケートを準備するには、音や画像のデータを比較しやすい形に整理する必要があります。アンケートそのものも、簡単なものであればGoogle Formで済みますが、自作すればいろんな形式に対応させることができます。そして得られた結果を整理するときにも、ちょっとしたプログラミングの知識が役に立ちます。そうした様々な場面で役立つプログラミング手法を学んでいこうというのが、このテーマの狙いです。

開講初年度なので、いろいろ手探り状態ではありますが、来年の今頃に「あのときこの勉強をしておいて良かった」と言ってもらえるような授業になるよう、工夫していきたいと思っています。

女優ライトって知ってますか? (メディ学部の授業もDXその2:照明編)

2021年10月 4日 (月) 投稿者: メディア技術コース

新しい研究テーマを始めた健康メディアデザイン研究室の千種(ちぐさ)です。人体を健康メディアとしてとらえメディアをつかって自らの健康をデザインするための研究を行っている研究室です。

今、コロナ禍の中で様々な活動が変革している最中ですが、DXというキーワードがICT業界において注目されています。前回は「DXって流行ってますね!メディア学部の授業もDX!!その1」としてオンライン授業を導入したDXの事例を紹介しました。

今回はオンライン授業のDXの照明編をお届けいたします。
・メディア学部の授業のDX(オンライン授業)
〇外付けウェブカメラと照明によるDX
・賢い外付けウェブカメラによるDX
・ジェスチャーを自動認識するウェブカメラのDX

メディア学部では動画制作というコンテンツ制作も重要な柱となっています。では動画制作ではどのようなスタッフが必要でしょうか。

映像制作をしているシングメディア社( https://thingmedia.jp/3914 )では例えばニュース映像のスタジオ制作において
1.カメラマン
2.音声
3.照明オペレーター
4.音響オペレーター
5.ミキサー
6.スイッチャー
7.美術スタッフ
などのスタッフが必要です。

メディア学部の授業でも教員ひとりが授業を行ないます。オンライン授業の映像配信でも同様で上記のスタッフの役割をひとりでこなさなければいけません。東京工科大学では当初zoomを主としてオンライン授業やオンライン会議に導入しました。これは、音声の品質が他のツールより優れている、必要なネットワーク帯域が低くてもよい、ブレイクアウトルームという仮想的な小部屋機能(上記1と6)がある、仮想背景(上記7)が利用できる、などから選定されました。

今回のブログは上記の1~7の1,3,5,6について、特に1.カメラと3.照明について触れることになります。カメラについては常識的に想像の範囲内だと思われますが、番組制作の照明については、実際の映像をカメラ撮影をしている際にできるだけ影をつくらないような照明技術および映像全体の明るさを一様にする照明技術が必要になります。以上の理由から直接光を使用しないで間接光を使用することも多いです。

https://event.spacemarket.com/magazine/know-how/studio-point/

今度は実際のオンライン授業で映像配信する際、ウェブカメラの位置はPCの位置ですから、通常はディスプレイのフチの上部か下部に設置されています。私のPCではディスプレイの下部に設置されているのでどうしても顔を下側から撮影した状況になってしまい、飛車体映像としてあまりよくありません。また様々な場所で映像配信を実施するので照明が不十分であったり、偏った方向から光が届くなど好ましくない状況になってしまうことも多々あります。なのでスタジオでは照明オペレーターが必要になります。

https://telling.asahi.com/article/13325788

Photo_20211003095204

照明において最も顕著な問題は逆光問題です。カメラと照明の間に被写体・対象物がある場合で、被写体が真っ暗になってしまいます(下図①)。これではオンライン授業の映像としては使い物になりません。撮影場所を変更した方がよいです(下図②)。zoomでは最近、この逆光を自動補正する機能を追加して、逆光問題は多少なりと改善(下図③)されましたが、本質的には被写体に影ができるなどまだ十分ではありません。

https://note.com/kokolozashi/n/n4c1882224fe4

Photo_20211003095202

 

撮影の際の照明テクニックは、逆光(下図①)はもちろんNGで、「できるだけ影を作らない」+「明るさが一様」です。では逆光にスポットライトを当てるとどうでしょうか?(下図②)まだ周辺の明るさが一様でないので不十分です。さらに様々な方向からやってくる柔らかい照明と被写体をしっかりをライティングする照明の2段階(下図③)で実現すると好ましい被写体映像が配信できます。

https://photo-advice.jp/contents/archives/179

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そしていよいよ本題です。下図の外付けウェブカメラです。マイクもついていて、amazonなどで2~4千円程度で販売されています。付属のボリュームで照明の強さを調整できるようになっているので、被写体の明るさを周辺の明るさとほぼ同じに調整します。ポイントは通常のカメラとの違いはカメラレンズの周辺に配置された白いリングです。なぜこのようになっているのでしょうか?察しの早い皆さんはお判りだと思いますが、この照明+カメラの位置関係だと影がもっともできにくく、被写体を一様に照明する配置になっているのです。

Led

 

そしてイマドキのYoutuberでもこういったカメラやリング型の照明(リング照明)が多用されています。ではなぜこの「女優ライト」とも呼ばれるリング照明が重宝されているのでしょうか?ちょっと話がそれますが私の娘は化粧をするときに鏡の周りにLED照明がついた化粧鏡を使用していました。これは上述の影ができにくい、被写体を一様に照明する以外にもうひとつこだわりがあるのです。

それはなんと目にあるのです。この女優ライトを使用すると日本人ならではのこだわりの目の瞳がなんと「天使みたいな美瞳」になるんです。いやあ面白いですね。原型はハリウッドミラー、ハリウッドライトと呼ばれる鏡や照明にあり、美を追求するハリウッドならではの発明品ですね。ちなみに千種はその機能を有効に活かせていません(爆)

https://www.amazon.co.jp/dp/B08F77RRY4?ie=UTF8&linkCode=sl1&tag=bako550fb-22&linkId=69f22196084d25b0b7d42fcdcd9558f9&language=ja_JP&ref_=as_li_ss_tl

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この外付けのLED照明付きウェブカメラを使用すると、常にPCの前に座っている必要もなくなりますし、見知らぬ環境下でオンライン授業や会議をする際、最悪の照明環境の逆光時でもなんとかなりますし、スポットライトとしても有効なウェブカメラです。美を追求するあなたにもお勧めの逸品です(笑) ギア好きな人は是非!
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以下、本件も併せて4編のブログになります。

・メディア学部の授業のDX(オンライン授業もDXその1)
http://blog.media.teu.ac.jp/2021/09/post-190ac7.html

〇女優ライトって知ってますか?(メディ学部の授業もDXその2:照明編、外付けウェブカメラと照明によるDX)

http://blog.media.teu.ac.jp/2021/10/post-a97078.html

・カメラマン不要論!?(メディア学部の授業もDX その3:カメラマン編、賢い外付けウェブカメラによるDX)
http://blog.media.teu.ac.jp/2021/10/post-68450e.html

・ジェスチャーを自動認識するウェブカメラのDX



シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その31後編

2021年10月 3日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の31本目「リーサルウェポン」について、どこに注目すべきか述べていきます。

今回取り上げる「リーサル・ウェポン」は1987年に公開された、アメリカのアクション映画です。対象的な性格をした二人の人間が、ときに反発しつつも協力して問題や事件を乗り越えていく様を描いた、いわゆる「バディムービー(バディもの)」の一つとして大変人気があり、続編も複数本作られています。

この作品でシナリオライターとして注目すべき点はどこかといえば、それはもちろん「ふたりの主人公の対比」です。

スタッフクレジットやポスターや各種メディアのパッケージには、マーティン役メル・ギブソンの名前が先に表記されがちですが、実際の作中においてはロジャー・マータフ(ダニー・グローヴァー)を軸にストーリーは進み、マーティンはどちらかというと要所要所で活躍や見せ場が用意された、いわゆる「美味しい役」です。

その扱いのどちらが良いか悪いかや、ましてやどちらが好きか嫌いか、はシナリオライターとして注目すべきポイントではありません。重要なのは、この二人を以下に対比させ、魅力的に描いているか、という部分です。

本作品においては、かなり「家族」に関する描写に時間を使っていますが、その点でもかたやロジャーには元気で優しい妻(とその間にたくさんの子供)がいるのに対して、マーティンは早くに妻を亡くしており孤独で精神を病んでいるほどです。

また、同じ刑事という職についているものの、仕事に対する取り組み方も対照的で、真面目かつ慎重なロジャーに対して、マーティンは思いつきと勢いだけで行動する気分屋です。

刑事としての単純な身体能力や戦闘能力ではマーティンが上で、それを示すシーンもたびたび出てきますが、人間性や精神面での余裕と安定感はロジャーに軍配があがるでしょうし、ロジャーと組んでいなかったらいくらマーティンが強かったとしても自殺願望者の評判どおり、どこかで自殺していたのだろうな、と思わせるフシがあります。

バディムービーは、このリーサルウェポンシリーズに限らず人気があるジャンルでもあることから、新規にシナリオを書いてみようとするシナリオライターが多いジャンルでもありますが、単に「ふたりの主人公」を用意すれば良いわけではありません。

「対照的なふたり」を実現するためには、明確な意図をもって対比するポイントを考えておくべきであり、さらに付け加えるなら、その対比が興味深いもので、視聴者側が楽しめるだけの魅力があることを示せなければなりません。

まったくタイプの違う人間を組ませれば視聴者が楽しめる、とも限りません。アイディアとしては個性的な二人の登場人物が思いついたとしても、対比として成立しておらず、楽しませるどころか噛み合わなくてイライラさせるだけ、なんてこともありえます。思いついた構想をなんとか反映させようとする意欲が悪いとは言いませんが、思いついたから全部組み込もうとしても、魅力的なバディムービーのシナリオにはならないのです。

「リーサル・ウェポン」はバディムービーの中でも古い作品なので、最近の作品に比べるとコメディ要素は少なめで、どちらかというとシリアスなシーンの方が多いため、時代を感じる作りになっているとは思います。しかし、だからこそ参考になる「比較要素」のポイントはわかりやすいので、一見の価値はあります。是非一度見てみてほしいと思います。

シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その31前編

2021年10月 2日 (土) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

今回も「プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品」を紹介します。

前編とのなるこの記事は、あらすじのまとめが中心です。
後編ではその内容をもとに注目すべきポイントを述べますので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。

取り上げる映画は次のタイトルです。

『リーサルウェポン』

[監督]

リチャード・ドナー

[脚本]

シェーン・ブラック

[参考URL]

https://movies.yahoo.co.jp/movie/24802/

[あらすじ]

ロジャー・マートフはロサンゼルス市警のベテラン刑事。愛する妻と子供たちから先日50歳の誕生日を祝われた、家族思いの良き父親でもある。

そんな彼が新たに捜査することになったのは、高層ビルからドラッグを使用して飛び降り自殺をしたと思しき娼婦アマンダの事件。

実はアマンダの父親マイケルは、ロジャーとベトナム戦争で共に戦った戦友で、娘の飛び降り自殺が起きる数日前からロジャーに連絡を取ろうとしていたことや、アマンダの体内から毒物が検出されたことから、ロジャーは彼女が自殺したのではなく、なんらかのトラブルに巻き込まれて殺された、と睨んでいた。

そんな矢先にロジャーは、麻薬課から異動してきた刑事マーティン・リッグスとコンビを組むよう言い渡される。マーティンは特殊部隊の所属経験を持ち、「人間兵器(リーサル・ウェポン)」と呼ばれるほど高い戦闘力を持っていたが、妻を事故で亡くして以来、ことあるごとに自殺しようとする厄介な癖のある男で、ロジャーは体よく彼の世話を押し付けられたのだった。

コンビを組んで数日後のある日、緊急要請でロジャーとマーティンは自殺願望者の説得するべく向かったビルへ向かった。「任せてほしい」というマーティンにロジャーが了承したところ、程なくして相手と共に飛び降りてしまった。ビルの下で衝撃吸収マットの準備が出来ていたとはいえ、あまりにも危うい判断をするマーティンに対して、ロジャーは不安を覚えずにいられなかった。

それでもロジャーは根気よくマーティンのことを理解しようと努力を重ね、自身の家族にもマーティンを紹介するなど、親睦を深めていくと、マーティンも徐々に打ち解けていった。

アマンダの事件で重要参考人の情報を掴んだふたりは、直ちにその人物の家に向かったが、目の前で爆発が起き、口封じされてしまった。もはや一刻の猶予もないと考えたロジャーは、アマンダの父マイケルに迫り、隠し事をせず全てを話すよう詰め寄った。するとマイケルは観念して、ベトナム戦争時代の知り合いであるマカリスター将軍を中心としたヘロイン密輸組織が背後にいることを白状してきた。アマンダはそれが理由で殺害されたのだった。

ようやく真相にたどり着いたと思ったその直後。その現場を嗅ぎつけていたマカリスターの部下、ジョシュアによって襲撃を受け、マイケルは殺されてしまう。マーティンのアシストによってロジャーは助かったものの、秘密を知ったロジャーをそのまま生かしておくことはできないマカリスター一味は、ロジャーの娘リアンを誘拐し、開放の条件としてロジャーが単身で指定の場所に来るよう要求してきた。

どう考えても娘共々殺される罠でしかなかったため、マーティンが取引場所の近くで待機し、リアンの救出と脱出のチャンスを作る作戦を決行。少なからず敵組織に被害を与えたが、最終的にはマーティンも拘束されてしまった。警察側の把握状況を吐かせるため、拷問されることになったロジャーとマーティンだったが、マーティンの強さを甘く見た下っ端の隙をついてマーティンが反撃、ロジャーとリアンも連れて危機を脱し、マカリスターの打倒にも成功する。

残ったジョシュアがロジャーの家を狙ってくることは予想がついていたため、ロジャーとマーティンは先回りして警官たちと待ち伏せると、ほどなくしてジョシュアが姿を現した。もはや大勢は決していたが、マーティンはジョシュアとの一騎打ちに応じ、完全に圧倒して勝利を収めた。

この一件を通じてロジャーとの絆も深まり、自信を取り戻したマーティンは、亡き妻の墓参りにも出向くようになり、色々と吹っ切れた笑顔をみせるようになったのだった。

・・・次回は、この作品でシナリオライターとしてどこに注目すべきか、について述べていきます。

どうぞお楽しみに。

シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その30後編

2021年10月 1日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の30本目「マイノリティ・リポート」について、どこに注目すべきか述べていきます。

今回取り上げる「マイノリティ・リポート」は2002年に公開されたSFミステリー映画です。近未来の西暦2054年アメリカを想定した舞台に、犯罪予測システムという「殺人が起きる前に殺人事件を防ぐ」という架空の技術が採用された世界を描いた作品です。当時、有名映画監督のスティーブン・スピルバーグと、人気映画俳優のトム・クルーズの名前が目を引く注目作でした。

では、この作品でシナリオライターとして注目すべき点はどこかといえば「最後まで結末を明かさない点」です。

アメリカの著名なストーリー・コンサルタントの一人であるリンダ・シガーは、『ハリウッド・リライティング・バイブル』において『すべてのストーリーは、ある意味、ミステリーといえる。クライマックスで回答がなされるであろう問いかけをセットアップで行う。問題ごとや解決が必要な状況が紹介され、ストーリーを通し我々に問いかけてくるのだ』と述べています。

これは言い方を変えると、クライマックスで回答が示されるまで観客や視聴者は答えを予測し続ける、ということです。

ミステリー作品であれば、事件の真相や犯人の正体などが「答え」に相当するのでわかりやすいですが、『すべてのストーリーは、ある意味、ミステリーといえる』とあるように、ミステリー作品に限らなくても、基本的には同じことが言えて、例えばラブロマンスのジャンルだとしても「最終的にこの二人は結ばれるのだろうか?」という疑問に対する答えは、作品がラストを迎えるまで明かされない答えです。

一般的に「ネタバレ」が忌避されるのは、その部分を楽しみたい人の楽しみを奪うことになるからでしょう。

そういう点において、この「マイノリティ・リポート」は、作中で常時「回答の予測」を観客に求めてくるシナリオになっています。

実を言うと「シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その29前編」では、意図的にそのへんをぼかして「あらすじ」を記述しました。実際にこの作品を視聴するとわかることなのですが、作中における事件の黒幕(真犯人)は比較的早めに判明します。どちらかと言えば後半なので、冒頭からすぐに分かるというわけではありませんが、少なくとも最終盤でようやく判明する、というわけではないです。

「作中の事件を引き起こした真犯人がだれなのか!?」という疑問が、視聴者たちがこの映画を最後まで見たい、と思うモチベーションの大部分を占めていることは、間違いないと思うのですが、本作のシナリオが興味深いのは、それが判明したのちになお、主人公と真犯人の、言動と選択が気になるつくりになっている点です。

ミステリー作品の多くは、作品終了間際に真犯人と犯行の秘密が明らかになって終わりますが、本作は真犯人が明らかになったあとに主人公が一時的とはいえ、敗北して投獄されます。これは主人公の勝利を信じて見てきた観客(視聴者)の予測を裏切るショッキングな出来事です。しかし、これによって、作品の残り時間はわずかだというのに、その後の展開が気になります。

もちろん、すんなり終わって欲しいと思う人の好みには反するかもしれませんが、文字通り「予測がつかない」展開に喜びと楽しみを見出す人の欲求を満たせることはもちろん、作品を最後まで見てもらうための工夫としては、かなり興味深いアイディアの実践と言っていいでしょう。

どんなテーマの作品にでも使えるアイディアではありませんが、シナリオライターとして知っていて損の無い内容なので「マイノリティ・リポート」はぜひ一度見て欲しい作品です。

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