シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その31後編
2021年10月 3日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の31本目「リーサルウェポン」について、どこに注目すべきか述べていきます。
今回取り上げる「リーサル・ウェポン」は1987年に公開された、アメリカのアクション映画です。対象的な性格をした二人の人間が、ときに反発しつつも協力して問題や事件を乗り越えていく様を描いた、いわゆる「バディムービー(バディもの)」の一つとして大変人気があり、続編も複数本作られています。
この作品でシナリオライターとして注目すべき点はどこかといえば、それはもちろん「ふたりの主人公の対比」です。
スタッフクレジットやポスターや各種メディアのパッケージには、マーティン役メル・ギブソンの名前が先に表記されがちですが、実際の作中においてはロジャー・マータフ(ダニー・グローヴァー)を軸にストーリーは進み、マーティンはどちらかというと要所要所で活躍や見せ場が用意された、いわゆる「美味しい役」です。
その扱いのどちらが良いか悪いかや、ましてやどちらが好きか嫌いか、はシナリオライターとして注目すべきポイントではありません。重要なのは、この二人を以下に対比させ、魅力的に描いているか、という部分です。
本作品においては、かなり「家族」に関する描写に時間を使っていますが、その点でもかたやロジャーには元気で優しい妻(とその間にたくさんの子供)がいるのに対して、マーティンは早くに妻を亡くしており孤独で精神を病んでいるほどです。
また、同じ刑事という職についているものの、仕事に対する取り組み方も対照的で、真面目かつ慎重なロジャーに対して、マーティンは思いつきと勢いだけで行動する気分屋です。
刑事としての単純な身体能力や戦闘能力ではマーティンが上で、それを示すシーンもたびたび出てきますが、人間性や精神面での余裕と安定感はロジャーに軍配があがるでしょうし、ロジャーと組んでいなかったらいくらマーティンが強かったとしても自殺願望者の評判どおり、どこかで自殺していたのだろうな、と思わせるフシがあります。
バディムービーは、このリーサルウェポンシリーズに限らず人気があるジャンルでもあることから、新規にシナリオを書いてみようとするシナリオライターが多いジャンルでもありますが、単に「ふたりの主人公」を用意すれば良いわけではありません。
「対照的なふたり」を実現するためには、明確な意図をもって対比するポイントを考えておくべきであり、さらに付け加えるなら、その対比が興味深いもので、視聴者側が楽しめるだけの魅力があることを示せなければなりません。
まったくタイプの違う人間を組ませれば視聴者が楽しめる、とも限りません。アイディアとしては個性的な二人の登場人物が思いついたとしても、対比として成立しておらず、楽しませるどころか噛み合わなくてイライラさせるだけ、なんてこともありえます。思いついた構想をなんとか反映させようとする意欲が悪いとは言いませんが、思いついたから全部組み込もうとしても、魅力的なバディムービーのシナリオにはならないのです。
「リーサル・ウェポン」はバディムービーの中でも古い作品なので、最近の作品に比べるとコメディ要素は少なめで、どちらかというとシリアスなシーンの方が多いため、時代を感じる作りになっているとは思います。しかし、だからこそ参考になる「比較要素」のポイントはわかりやすいので、一見の価値はあります。是非一度見てみてほしいと思います。
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