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シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その30後編

2021年10月 1日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の30本目「マイノリティ・リポート」について、どこに注目すべきか述べていきます。

今回取り上げる「マイノリティ・リポート」は2002年に公開されたSFミステリー映画です。近未来の西暦2054年アメリカを想定した舞台に、犯罪予測システムという「殺人が起きる前に殺人事件を防ぐ」という架空の技術が採用された世界を描いた作品です。当時、有名映画監督のスティーブン・スピルバーグと、人気映画俳優のトム・クルーズの名前が目を引く注目作でした。

では、この作品でシナリオライターとして注目すべき点はどこかといえば「最後まで結末を明かさない点」です。

アメリカの著名なストーリー・コンサルタントの一人であるリンダ・シガーは、『ハリウッド・リライティング・バイブル』において『すべてのストーリーは、ある意味、ミステリーといえる。クライマックスで回答がなされるであろう問いかけをセットアップで行う。問題ごとや解決が必要な状況が紹介され、ストーリーを通し我々に問いかけてくるのだ』と述べています。

これは言い方を変えると、クライマックスで回答が示されるまで観客や視聴者は答えを予測し続ける、ということです。

ミステリー作品であれば、事件の真相や犯人の正体などが「答え」に相当するのでわかりやすいですが、『すべてのストーリーは、ある意味、ミステリーといえる』とあるように、ミステリー作品に限らなくても、基本的には同じことが言えて、例えばラブロマンスのジャンルだとしても「最終的にこの二人は結ばれるのだろうか?」という疑問に対する答えは、作品がラストを迎えるまで明かされない答えです。

一般的に「ネタバレ」が忌避されるのは、その部分を楽しみたい人の楽しみを奪うことになるからでしょう。

そういう点において、この「マイノリティ・リポート」は、作中で常時「回答の予測」を観客に求めてくるシナリオになっています。

実を言うと「シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その29前編」では、意図的にそのへんをぼかして「あらすじ」を記述しました。実際にこの作品を視聴するとわかることなのですが、作中における事件の黒幕(真犯人)は比較的早めに判明します。どちらかと言えば後半なので、冒頭からすぐに分かるというわけではありませんが、少なくとも最終盤でようやく判明する、というわけではないです。

「作中の事件を引き起こした真犯人がだれなのか!?」という疑問が、視聴者たちがこの映画を最後まで見たい、と思うモチベーションの大部分を占めていることは、間違いないと思うのですが、本作のシナリオが興味深いのは、それが判明したのちになお、主人公と真犯人の、言動と選択が気になるつくりになっている点です。

ミステリー作品の多くは、作品終了間際に真犯人と犯行の秘密が明らかになって終わりますが、本作は真犯人が明らかになったあとに主人公が一時的とはいえ、敗北して投獄されます。これは主人公の勝利を信じて見てきた観客(視聴者)の予測を裏切るショッキングな出来事です。しかし、これによって、作品の残り時間はわずかだというのに、その後の展開が気になります。

もちろん、すんなり終わって欲しいと思う人の好みには反するかもしれませんが、文字通り「予測がつかない」展開に喜びと楽しみを見出す人の欲求を満たせることはもちろん、作品を最後まで見てもらうための工夫としては、かなり興味深いアイディアの実践と言っていいでしょう。

どんなテーマの作品にでも使えるアイディアではありませんが、シナリオライターとして知っていて損の無い内容なので「マイノリティ・リポート」はぜひ一度見て欲しい作品です。

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