シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その34後編
2021年11月13日 (土) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の34本目「天使にラブソングを」について、どこに注目すべきか述べていきます。
今回取り上げる「天使にラブソングを」は1992年に公開された、アメリカのコメディ映画です。教会の聖歌隊メンバーを中心に歌を披露するシーンが印象的な作品でレンタル店などではミュージカル映画の棚に置いてあったりもします。公開後の人気はすさまじく、当時のアメリカでは異例の6ヶ月間というロングラン作品でした。
この作品でシナリオライターとして注目すべき点は「優れたシナリオ構成」です。
注目すべき点が「優れたシナリオ構成」などと言われると、そんな作品はたくさんあるだろう、と思われるかもしれませんが、「天使にラブソングを」は、このブログでもいくつか取り上げている「シナリオの教則本にタイトルが載ることが多い作品」の中のひとつで、まさにシナリオのお手本のような作品なので、そう評します。
実際にシナリオ構成上で優れているポイントを3つ挙げます。
1つ目は「セントラルクエスチョン」です。これはシナリオ全体を通して解決する問題や目的を指すもので、観客が最初から最後までその作品を視聴しようと思わせるために最も大事な要素です。この作品においては「殺人現場の目撃者として逃げ切れ」というもので、コメディやミュージカルのジャンルとして分類されがちなこの作品においてサスペンス要素をもった部分でもあります。作品全体としてコメディや歌が印象に残るという結果を出しつつも、それらを最初から最後まで飽きずに見てもらうため、つねに「敵から追われている」という緊張感を視聴者に与え続けるポイントになっている点が素晴らしいです。
2つ目は「ミッドポイント」です。人によってはターニングポイントとも呼びますが、作品放映時間上の折返し地点ではなく、シナリオの構成上の中間地点なのでこう呼びます。物語の中盤において主人公のデロリスは、前述したセントラルクエスチョンである「殺人現場の目撃者として逃げ切れ」を解決せねばならない状態でありつつも「聖歌隊を成功に導け」という新たな目的を抱くようになります。しかも、それに執心するあまり、自身が追われている身であることを忘れてしまうほどで、その危うさは視聴者をハラハラさせることに一役かっています。
3つ目は「マルチプルソリューション」です。これも人によってはクライマックス、と呼んだりしますが、特に近年のシナリオ構成は何かひとつだけ問題や目的を達成して終わる作品は少なく、複数の目的達成を実現するシナリオ構成になっているため、こう呼びます。「天使にラブソングを」であれば、ラスト間際の「聖歌コンサートを成功させる」シーンが該当します。この「聖歌コンサートを成功させる」ことには、前述したふたつのポイントである「殺人現場の目撃者として逃げ切れ」と「聖歌隊を成功に導け」の両方を解決した、と観客に示す意味があります。「ああ、もう敵に追われなくていいんだな」「聖歌隊はこんなに立派になったのだな」という満足感を得て、観客は映画を見終えることができます。
シナリオ構成の他にも優れているポイントはたくさんあるのですが、映画の流れに沿って上記の3つのポイントが満たされていくことで、観客がとてもリズムよく映画の内容を理解できるため、今回は「優れたシナリオ構成」をもった作品として「天使にラブソングを」を取り上げました。主人公デロリスが指揮する聖歌隊の歌を聞くだけでも楽しいので、ぜひ一度見てみてほしいです。
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