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授業紹介:1980年代のハードシーケンサーへのデータ入力[準備編]

2021年11月30日 (火) 投稿者: メディアコンテンツコース

メディア学部の伊藤(謙)です。

私の先端メディア学/ゼミナール「ミュージック・アナリシス&クリエイション」には現在、1年生2名と2年生1名の計3名が受講しています。今期の学生たちは、映像コンテンツ・舞台演出などで用いられる音楽の効果に関する研究や、既存楽曲の分析を踏まえた音楽制作に取り組んでいます。毎回の授業で自身の研究・制作の進捗状況を報告し、その内容について全員でディスカッションすることで、さまざまな研究手法や作曲のアイデアを共有し合い、相互にスキルアップを図っています。

こうした普段の活動とは別に、私が毎学期、受講生に必ず課すのが「ハードシーケンサーへのデータ入力」です。今はソフトシーケンサーが主流で、PCやタブレット、スマホにソフトが入っていれば誰でも気軽に音楽を作ることができます。いわゆる「打ち込み」というものですね。メディア学部でも、メディア専門演習やプロジェクト演習で専用の機材とソフトを使って音楽制作を行っています。

しかし、どんなに新しいテクノロジーを用いても、メディア学部は基本や原理を大切にしています。先端的で高度な知識やスキルを単に駆使するだけでなく、どのような発想と歴史的な流れによって今日の数々のメディアとして形作られているかを知ることは、自身の立ち位置を客観的に把握し、未来を展望するのに不可欠と言えるでしょう。

「『打ち込み』って何で『打ち込み』って言うと思う?」と学生に聞くと、多くが「PCのマウスや鍵盤のキーボードで音楽のデータを入力すること」と答えます。この答えは決して間違いではありません。でも、もともとは「数値化された音の高さと長さをテンキーで入力すること」なんですね。1980年代のはじめにデジタルのハードシーケンサーが普及し始め、音の高さは鍵盤から入力(ステップライト入力)できるようになり、演奏した通りに入力(リアルタイム入力)できるようにもなりましたが、それまでは楽譜に書かれた音の高さと長さを数字に置き換えて「高さ」と「長さ」をそれぞれ別々に入力していました。この時点で、気が遠くなるような手間と時間がかかることが容易に想像できるでしょう。

でも、それ以前には、8〜16音程度のフレーズを自動演奏するアナログのハードシーケンサーしかなかったので、それに比べれば数百〜数千音を入力・再生できるデジタルのハードシーケンサーは夢のような「マシン」でした(ちなみに価格も夢のように高額で、容易に購入できるようなものではありませんでした。当時、中学生だった私はカタログの写真を見て、自分が使っている姿をいつも想像していました)。何より、入力したデータを本体に記憶でき、しかもカセットテープ(その後はフロッピーディスク)にセーブして持ち運べるのは夢のようでした。

・・・といったいくつもの「夢のよう」なことが今は当たり前になり、価格も安くなって(ソフトであれば無料もあり)、専門知識やスキルがなくても簡単に音楽が作れるようになりました。多くの人が思い思いに音楽制作を楽しめる時代となったのは素晴らしいことですね。しかし逆に言えば、誰もが音楽を作れて、配信などでたくさんの人に聴いてもらえる時代だからこそ、「自身の音楽」を客観的に見つめることがより大切になってくるでしょう。

こうした考えのもと、この授業では過去の技術についても実際の体験を通して先人の苦労に思いを馳せるとともに、そうした中でも創意工夫を重ねた姿勢を学ぶことを重視しています。「ハードシーケンサーへのデータ入力」はその一つです(2年前にもこのブログで紹介しています。こちらもぜひご覧ください)。

ちょうど先週、そのためのセッティングと基本操作の練習を行いましたので、今回は「準備編」として写真と動画でその様子をご紹介します。なお、今週の授業では楽譜を見ながら入力する作業を行います。こちらは「実践編」として別途ご紹介する予定です。お楽しみに!

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  今回は無造作に置かれたこの状態から機材の接続を開始   1年生の2人はMC-4の入力準備を

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   この機種のマニュアルを読むのも、もちろん初めてです    電源を切るとデータが消えてしまうのでカセットテープに保存

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MC-4体験済みの2年生はMC-500を使用  フロッピーディスクで起動させます

【動画:その1】MC-4 (1981年発売) の入力練習[2:20]
 音高を数値化したデータを先に入力します。途中で入力ミスがあったようですね。

【動画:その2】MC-500 (1986年発売) の入力練習[0:41]
 こちらは鍵盤で音高を、本体で音の長さを入力しています。


(メディア学部 伊藤謙一郎)

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