第7回シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点(あな)
2021年11月10日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点」として、定期的に私が何度も遭遇してきた「シナリオの欠点(あな)」について書いていこうと思います。今回取り上げるトピックは・・・
「恋愛モノのヒロインに関するシナリオの欠点(あな)」です。
映画やテレビに代表される昨今の映像コンテンツと、その制作のために書かれるシナリオが生みだされるよりも前から「恋愛」は定番のテーマであり、ギリシャ演劇はもちろん、場合によっては神話の伝承まで遡ることができます。
当然、現代の人々にとっても「恋愛」は定番のテーマであり、我が東京工科大学メディア学部でシナリオの執筆に取り組む学生さんたちも、それは同じです。
特に、ライトノベルやライトノベルを原作としたアニメや漫画が気軽に楽しめるようになった最近は、「自分もまた魅力的なキャラクターの登場する恋愛ものを執筆してみたい」と考える人は少なくないようで、毎年少なくない数の恋愛シナリオをチェックしています。
それだけに、恋愛モノのシナリオによくある欠点(あな)があります。その中でも特に重大な問題といっていいのが「ヒロイン」についてです。
「ヒロイン」というと女性をイメージしがちですが、今回の記事で言う「ヒロイン」は、厳密には女性に限りません。
男性、女性、さらにいえば異性、同性関係なく、恋愛モノの主人公にとっての恋愛対象を全て「ヒロイン」として扱いますが、特にシナリオ執筆未習熟者はこの「ヒロイン」の魅力がシナリオ上で明確に記述されておらず、恋愛モノとして致命的な欠点(あな)になっているケースが多いです。
ストーリーの内容上、結末において意中の「ヒロイン」と、なんらかの形で結ばれることがゴールになっている点はわかりすくて良いのですが、「そもそもどうして主人公がヒロインと結ばれたいのかわからない」シナリオを執筆する人がとても多いのです。
一応、おおまかな登場人物設定を考えている人がほとんどではあります。外見設定、性格設定、能力設定など、質問すれば答えてくれるのですが、それはあくまで執筆者の好みを反映した情報でしかなく、それらがどう恋愛に結びついているのか説明できなければ、シナリオ上の欠点(あな)になってしまいます。
以前、私は「シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その27後編」で、映画「美女と野獣」を取り上げ、こんな一節を書きました。
http://blog.media.teu.ac.jp/2021/09/post-4fec83.html
『ヒロインのベルが狼の群れに襲われた際、危険を顧みず野獣が助けにきて来てくれたことをきっかけに、ふたりは惹かれ合い恋仲になっていく、という点は共通なのですが、実写版ではかなり冒頭から「ベルはとても読書好きだが周囲に理解されていない」という情報が強調されています。
この「読書」に関する設定は、後半でベルと野獣が共通の趣味を持っている、という点で、互いに親近感を抱くきっかけとして機能しており、見た目で奇異的な扱いをされてきた野獣と、趣向面で奇異的な扱いをされてきたベルが、互いを理解し合うという意味で、かなり機能的に働いている登場人物設定です』
作品タイトルが「美女と野獣」なので、少なくとも女性(ベル)側の外見設定が「美女」であることは明らかですが、恋愛モノとしてのストーリーにおいて重要なのはその設定ではなく「読書」という趣味が相手と共通していたことや、今まで理解されなかった趣味を共有できたことです。
もちろん、これだけで恋愛感情を抱いた、といわれても納得のいかない人も多いとは思いますが、少なくとも「相手が美女なのだから恋愛感情を抱いて当然である」と押し付けるよりは、恋愛に発展する過程が論理的です。
アニメや漫画などで、わりとインスタントに恋愛関係に発展する登場人物たちを見かける機会も多いが故に、あまり深く考えずシナリオライター自身の好みや設定を持ったキャラクターであれば「好きになってくれるだろう」と考えてしまう部分はあるかもしれませんが、百歩譲って別な達成目的を持ったメインストーリー(巨悪を倒すとか、何かに優勝するとか)があって、サブストーリー的に恋愛要素を組み込むならまだしも、恋愛をメインストーリーとしたシナリオを執筆するのであれば、恋愛関係が発展していく過程は、決しておろそかにしてはいけない部分と言えるでしょう。
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