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シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その35後編

2021年12月 3日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。


プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の35本目「用心棒」について、どこに注目すべきか述べていきます。


今回取り上げる「用心棒」は1961年に公開された日本の時代劇映画です。まだモノクロ映像の時代に撮影された作品ですが、その完成度から世界中で高い評価を得て、日本の映画監督・黒澤明の名前は一気に知れ渡りました。


この作品でシナリオライターとして注目すべきは「映画シナリオに不可欠な機能をこの当時既に満たしていた点」です。


シナリオの歴史は映画の撮影が発明された少し後から始まっており、最初は撮影の段取りを書いたメモ程度だったものが、やがて劇作などストーリー性のある映像を撮影するための仕様書、設計書に発展し、より適した書式が整えられていきましたが、今に至るまでの時間を多く見積もってもせいぜい100年ほどの歴史しかありません。


海外では、映画がビジネスとして大きな市場を形成していく事になったことで、より完成度の高いシナリオを執筆するための研究が進んでいくのですが、その研究成果が日本に伝わるのはだいぶ後のことです。日本で映画が撮影されるようになった当時は「映画を撮影するためには脚本(シナリオ)が必要」ぐらいの認識しかありません。とにかく一本の映画としてまとめることはできても、見終えた観客が支払った代金に見合った楽しみと満足を得られるとは言い難い作品がほとんどででした。


そんな時代が続いた日本で、黒澤明監督は「用心棒」を完全な娯楽作品として楽しめる映画として作りました。撮影された映像の斬新さもさることながら、シナリオの面から見て特筆すべきは、そのストーリーです。


のちにアメリカのハリウッドでは、神話や民話の内容を複数の機能と順序で分類して映画シナリオのストーリーに取り入れることで、映画を幅広い観客に楽しませる手法が広まることになり、その代表作が「スター・ウォーズ」なのですが、この「スター・ウォーズ」を作ったジョージ・ルーカス監督が特に影響を受けたとされるのが黒澤明監督の作品であり「用心棒」もその一つです。


東京工科大学メディア学部でのシナリオ研究で「映像作品において満足を得るためには3幕構成13機能が必要』と定義していますが、この研究や前述したハリウッドの先行研究の成果が世に出る前から、「用心棒」はその要件をクリアしていたことになります。そして時系列上からも明らかですが黒澤明監督は、それら条件を満たそうと思って映画をつくったわけではなく、あくまで自分たちが目標として掲げた「娯楽映画」を作ろうとしただけです。


映画「用心棒」が世界で得た高い評価は、黒澤明監督の圧倒的な才能があればこそのものです。しかし当時の日本では、おそらく全てが手探りと挑戦の連続であり、簡単にこの映画を作ることができたわけではないでしょう。


これからシナリオを書くシナリオライターの皆さんは、そんな黒澤明監督の実績を手本にすることが出来るというメリットを最大限に活用するためにも、一度「用心棒」を見てみて欲しいと思います。

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