シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その36後編
2021年12月21日 (火) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の36本目「ターミナル」について、どこに注目すべきか述べていきます。
今回取り上げる「ターミナル」は2004年に公開されたアメリカの映画です。コメディ色が強いですが、ラブロマンスの要素も含むシナリオになっています。タイトルに有るように「空港(ターミナル)」が舞台で、アメリカ、ジョン・F・ケネディ国際空港をモチーフにしているものの、すべて新規に作られたセットである点は圧巻のリアリティがあります。
この作品でシナリオライターとして注目すべきは「場所がほぼ変化しない点」です。
前述しましたように、この映画は「空港(ターミナル)」の名の通り、基本的に主人公は空港から移動しません。ラストに主人公がニューヨークにたどり着く描写こそありますが、基本的に作中で起きる出来事はすべて空港内でのことです。
シナリオの執筆において、理論とまでは言いませんが、ノウハウ的に言われていることの一つに「縦(時間)の動きと、横(場所)の動きをテンポよく変化させる」というものがあります。観客というのは意外と飽きを感じやすいもので、一つのシーン時間が長く経過することも、場所が切り替わらないことも「飽き」の大きな要因となります。この傾向は日本よりも海外のほうが顕著で、日本では「間(ま)」として情感を抱かせたり、余韻に浸らせたりするシーンが、海外では「冗長だ」と評されたりします。
その点で「ターミナル」は、場所を変えにくい、という制限を最初から背負った作品といえるわけで、他の要素をうまくシナリオに組み込まないと、観客はすぐに飽きてしまうということになります。
もっとも、実際のところ空港というのは、それなりに広いので視覚的に変化に乏しいとは感じないのですが、それでもストーリー上「空港から出られない」という軟禁状態は窮屈で窒息感を抱かせるには十分なので、かなりのハンデがあるシナリオにならざるを得ないです。
ではそんな制約をこの映画のシナリオではどう工夫して処理しているか、というと、まずは主人公が作品全体を通して解決する中心的課題「セントラルクエスチョン」の設定が見事です。空港という舞台を先に考えたのか「母国にも帰れないしアメリカにも入国できない」を先に考えたのかは、シナリオライターに確かめるしかありませんが、少なくとも、「空港から脱出できるのか?」という問題は、観客が直感的に理解しやすいセントラルクエスチョンです。観客は何度となく「自分だったら、この危機を乗り越えられるのか?」と思うことでしょう。そう思わせることは、飽きさせないために、とても重要なことです。
そして、そのためには徹底して他の要素をサブ要素にする優先順位をつけています。そもそも常識的に考えも悪役ディクソンの対応は入国管理のプロとは思えないものですが、彼が登場人物にいることによって、常時危機的な状況が生まれ、観客は緊張感を感じることができます。とても効果的な存在です。
また、アメリアはとても魅力的なヒロインであり、主人公が鬱屈した状況に置かれ続けるなかで、前向きかつ積極的に行動するモチベーションを与えてくれる存在として、これまた効果的に機能する登場人物ですが、この作品のセントラルクエスチョンは「彼女との恋を成就させられるか?」ではないので、主人公は彼女と結ばれず、あくまで空港からの脱出に協力してくれた存在でしかありません。
他にも、主人公がセントラルクエスチョンを解決するために散りばめられた要素はたくさんあるので、ぜひ一度実「ターミナル」を見て欲しいと思います。
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