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授業紹介:1980年代のハードシーケンサーへのデータ入力[実践編]

2021年12月 4日 (土) 投稿者: メディアコンテンツコース

メディア学部の伊藤(謙)です。

前回の「準備編」に引き続き、今回は「実践編」として実際の楽曲のデータ入力をご紹介しましょう。曲は、バッハ作曲「インヴェンション 第1番」で、ト音記号のパートの第2小節までの入力を課題としました。

下の写真は、一昨日(12/2)の先端メディア学/ゼミナール「ミュージック・アナリシス&クリエイション」での様子です。
Mac_advance2021_09

写真の手前は2年生でMC-300(1988年発売。前回授業ではMC-500を使用しましたが、今回不調のため機材を変更)を、奥の2人は1年生でMC-4を使って入力を行います。どちらも鍵盤を使った入力が可能ですが、MC-4のほうは本当の「打ち込み」を体験してもらうべくテンキーでの入力としました。この入力では、楽譜に書かれている音符の「音高」と「音の長さ」の数値化が不可欠です。そこで1年生2人には音符を数値化する宿題を出していたのですが、下の写真のようにしっかりと書き込んできてくれました。
Mac_advance2021_10

それぞれの音符の下に数字が並んでいるのがおわかりいただけると思います。上の数字(24, 26, 28, 29…)が「音高」、下の数字(30,60など)が「音の長さ」を示します。

それでは、この日のMC-4とMC-300の入力の様子をご覧ください。


【動画:その1】MC-4 の入力(音高のみ)とデータチェック[1:18]
入力後に再生して音高を確認しています。入力ミスの音がありますが、これはあとの作業で修正します。

【動画:その2】MC-4 の入力(音高+音の長さ)とデータチェック[0:09]
ひとまず第2小節まで入力が完了しました。前回授業での練習のおかげで早く入力が済み、ここまでかかった時間は20分ほどです。

【動画:その3】MC-4 の入力(第3〜6小節の入力作業)[1:07]
時間に余裕があったので、第3小節以降も入力することにしました。音高の数値を楽譜に書き込むことなく、マニュアルに掲載されている対応図の数値を読み上げて入力しています。

【動画:その4】MC-4 のデータチェック[0:21]
第6小節まで入力が完了しました(楽譜よりも1オクターヴ高くなっているのは、シンセサイザーの設定によるものです)。このあとカセットテープにデータを保存しました。保存されているのは「音そのもの」ではなく「データ」で、再生すると「ピーヒョロヒョロ〜」という音がします。

【動画:その5】MC-4 へのデータの読み込み準備[0:16]
次はカセットテープの保存データを本体に読み込み作業に移ります。読み込みの作業に向けて一旦電源を落とします。電源を切ると作業で作った本体のデータは全て消えてしまうので、カセットテープ内のデータがまさに「命綱」です。(当時の音楽制作はこうしたデータ管理の不安と隣り合わせでした)

【動画:その6】MC-4 へのデータの読み込み[1:05]
カセットテープに保存したデータをロードしましたが、エラーが出て読み込むことができませんでした(涙)。先週の授業では読み込めたのに…。

【動画:その7】MC-4 へのデータの読み込み(再トライ)[0:25]
もう1本のカセットテープに保存したデータからのロードも試みましたが、やはりエラーが出てしまい駄目でした。その後、何度かおこなったロード作業もうまくいかず、これ以降、MC-4の再生ボタンで音が鳴ることはありませんでした…

【動画:その8】MC-300 の入力[0:34]
こちらはMC-300の入力の様子です。鍵盤を使って音高を入力しています。テンキーよりもはるかに入力が楽ですね。MC-4のようにテンキーのみで入力することもできますし、メトロノームに合わせてリアルタイムに入力することもできます。
ちなみに、鍵盤からMC-300に入力データを送るには、1本のMIDIケーブルで繋げればOKです(ここでは受信用にもう1本接続しています)。一方、MC-4は「CV」と「GATE」という2つの電圧制御の信号をシンセサイザーなどの電子機器とやりとりするので、2本のケーブルが必要です。「CV」は「音高」を、「GATE」は「発音のON/OFFのタイミング」をコントロールします。先の【動画:その1】「CV」の入力が終わった段階【動画:その2】「GATE」の入力が終わった段階とも言えます。

【動画:その9】MC-300 の入力[0:34]
「TIE」(タイ)ボタンを使って、設定した基本音価(ここでは16分音符)よりも長く鳴る音を入力します。(右側の「REST」は「休符」を入れるときに使うボタンです)

【動画:その10】MC-300 の入力[0:13]
本体中央の「α-DIAL」というジョグダイヤルを回して音高の確認をしています。このジョグダイヤルは音高の確認だけでなく、入力データの細かい編集作業にも使います。こうしたインターフェースの違いからも音楽制作の変遷を辿ることができますね。

【動画:その11】MC-300 のデータチェック[0:21]
こちらも第6小節まで入力が完了しました!

【動画:その12】MC-300 のデータ保存の準備[0:29]
MC-300で作成したデータはフロッピーディスクに保存できます。空のフロッピーディスクをMC-300に入れて、フロッピーディスクのイニシャライズ(初期化)を行うことで、保存用ディスクとして使えるようになります。MC-300はMC-4と異なり、電源を落としても本体内部のメモリにデータが記録されるのでその点は便利ですが、本体のメモリ容量に限りがありますし、万一のためにフロッピーディスクに保存しておくほうが安心ですね。
私は高校時代、校内コンサートの本番で、ハードシーケンサーMSQ-700(1984年発売。準備編の最初の画像に写っているMSQ-700が当時実際に使用していた機材です)の再生ボタンを演奏開始に合わせて押したところ、「ピッ!」という甲高い音とともにデータが一瞬で消えた経験があります。当然その曲は演奏できず、バンドメンバーたちからかなり怒られました(今となってはそれも懐かしい思い出です)。このとき、データ保存の大切さを初めて痛感しましたね。

【動画:その13】MC-300 へのデータの読み込みと再生[1:30]
フロッピーディスクに保存したデータを本体に読み込んでみましょう。先ほどのフロッピーディスクは保存用としてだけでなく、MC-300にシーケンサーとしての機能をもたせるためのシステムディスクとしても使えるようフォーマットしたので(MC-300は本体があってもシステムディスクが無いと何もできないのです)、電源を入れてフロッピーディスクからシステムデータ、そのあと「LOAD」ボタンを押してデータを本体に読み込みます。そして無事に再生できました!(拍手)



本来であれば、どちらも第7小節以降と、ヘ音記号のパートも含めて楽曲全体の入力を完成させたいところですが、今回はここでタイムアップです。

MC-4の入力データが消えてしまって落胆の色を隠せない1年生2人から「もう1回、入力に挑戦したい!」と強い要望があったので、来週の授業で再度、MC-4を扱うことになりました。万全を期すため、カセットレコーダーの電池を交換し、新しいカセットテープを用意して準備を整えたいと思います。

また、MC-300の入力を終えた2年生は、次回授業でドラムマシンの入力に挑戦します。これまで紹介したハードシーケンサー同様、私が所有する機材で、RX5(1986年発売)というドラムマシンです。
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先端メディア学/ゼミナール「ミュージック・アナリシス&クリエイション」では通常の講義やディスカッションのほかに、このような過去の機材の操作を体験する場を設けています。実体験を通して、PCやタブレットを用いた現在の音楽制作に至る歴史や手法の変遷をより深く理解できますし、そうした方法で作られた過去の音楽作品に対する見方も変わることでしょう。「先端」に至るプロセス(過去)を知ることで、学生たちが今後の展望に向けての幅広い視野が得られるよう、私も努力していきたいと思います。


(メディア学部 伊藤謙一郎)

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