第9回シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点(あな)
2022年1月14日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点」として、定期的に私が何度も遭遇してきた「シナリオの欠点(あな)」について書いていこうと思います。今回取り上げるトピックは・・・
「セリフに注力しすぎたシナリオの欠点(あな)」です。
シナリオについて学ぶ際、最初に知るであろう情報の一つはシナリオのフォーマットでしょう。同じ文章という点で共通している小説は、映画やドラマの原作になることもあるため、シナリオと混同されることも多いですが、小説とシナリオの違いを明確に示すなら、小説にはフォーマットがなく、シナリオにはフォーマットがあることです。
映画、ドラマ、アニメなど、メディアの違いや、制作スタッフの違いによって多少違いは出ますが、シナリオのフォーマットは基本的に「柱(はしら)」「セリフ」「ト書き(とがき)」の3つです。
「柱(はしら)」には、場所と時間帯を、「セリフ」には、発言者名と発言内容を、「ト書き(とがき)」には、登場人物の動き、起きた出来事、状況の変化をそれぞれ記述するフォーマットになっていることが、シナリオの特徴です。
そして、このフォーマットで記述できないことは、原則として書いてはいけません。特に「文学表現」と「抽象表現」は決して書いてはいけない情報です。
たとえばシナリオに「ほっぺたが落ちそうなくらい美味しいご馳走が運ばれてきた」と、書いてしまった場合、そのシナリオを読んだ人は、その内容を適切な映像にすることができません。なぜなら「ほっぺたが落ちそう」も「美味しい」も「ご馳走」も個人個人で判断基準が違うからです。シナリオに書くのなら「ハンバーグが運ばれてきた」など、具体的に映像化できるように書かねばなりません。
また「決して書いてはいけない」とまでは言われませんがシナリオにおいては「心理描写」にも気をつける必要があります。
前述の「美味しい」にも共通することですが、人間の心情は基本的に目に見えないものなので映像化ができません。しかし、表現することが不可能というわけではありません。では、どうすればいいかというと「セリフ」にすればいいのです。セリフで「これはほっぺたが落ちそうなくらい美味しいご馳走だ!」と、登場人物に言わせれば、その心情は伝わります。
しかし、それはとてもリスクの伴う表現になります。
他の表現が映像によって示されているにも関わらず、わざわざ登場人物が口に出さないと伝わらない要素を突きつけられる観客は、それをとても「説明的だ」と感じやすいのです。
以前、私は「シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その31」で、映画「リーサル・ウェポン」を取り上げ、こんな一節を書きました。
http://blog.media.teu.ac.jp/2021/10/post-2d2943.html?fbclid=IwAR2lQNQ_b-zR0tMoqiJWa61rn7E6sSj5qj2o_HkkwZBH63qd8vNbnf_wGro
『バディムービーは、このリーサルウェポンシリーズに限らず人気があるジャンルでもあることから、新規にシナリオを書いてみようとするシナリオライターが多いジャンルでもありますが、単に「ふたりの主人公」を用意すれば良いわけではありません。「対照的なふたり」を実現するためには、明確な意図をもって対比するポイントを考えておくべきであり、さらに付け加えるなら、その対比が興味深いもので、視聴者側が楽しめるだけの魅力があることを示せなければなりません。』
リーサル・ウェポンに代表される「バディムービー」の魅力の一つは、対象的な登場人物ふたりが、ときにまったく噛み合わないが、ときにびっくりするほど噛み合った掛け合いを繰り広げることです。そしてそのかけあいにおいて「セリフ」が重要であることは言うまでもありません。
実際、バディムービーのシナリオを書いてきた数多くの皆さんが、バディふたりのセリフに力を入れていることは、読めばすぐわかります。その熱意は素晴らしいものがあります。しかし、あまりに力を入れすぎた結果、なにもかもセリフで説明させることになり、かえってバディふたりの個性を潰してしまうこともよくあるのです。これはセリフの記述によって生じたシナリオの欠点(あな)と言えます。
「柱」「セリフ」「ト書き」というフォーマットにバランス良く情報を記述して、映像化されたときのイメージを適切に、制作関係者に伝えられるシナリオを書きたいものです。
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