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「音楽創作論」での作曲 〜最終版ついに公開!〜

2022年2月21日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース

皆さん、こんにちは! メディア学部の伊藤(謙)です。

早速ですが嬉しいご報告です。前回の私のブログ記事で予告した最終版の曲がようやく出来上がりました! その楽譜と、演奏を視聴できる楽譜動画を本日公開いたします。

楽譜はこちでご覧いただけます。演奏は以下の【楽譜動画】をクリックしてご視聴ください。

【楽譜動画】「雪月夜」


曲名は「雪月夜 」(ゆきづきよ) に決まりました。このタイトルを考えた方は曲を聴いたときに「降り積もった雪に月の明かりがさし込んでいるような夜」をイメージしたそうです。私自身は特定のイメージを持たずに作曲しましたが、「雪月夜」の言葉とその幻想的なイメージが曲にマッチしていると感じて曲名に選びました(私が絶対に思いつかない素敵な曲名が付けられて非常に満足しています)。そのほかにも魅力的なタイトルが数多くあったので選定までとても悩みました。曲名案を寄せてくれた学生諸君に感謝します。曲作りのアイデア募集から曲名決定までの一連のプロセスは、こちらのブログ記事をご覧ください。

さて、楽譜を見ると、どの小節も音符に色が付けられていることに気づかれるでしょう。それぞれの色の意味は次のとおりです。

 ・赤色:Mさんが作った部分動機(第1小節)、およびそれに類似のフレーズ。
 ・青色:K君が作った部分動機(第2小節)、およびそれに類似のフレーズ。
 ・オレンジ色:Mさんが作った部分動機を変化させたフレーズ(反行形や断片の反復など)。
 ・水色/緑色:K君が作った部分動機を変化させたフレーズ(反行形や拡大形、断片の反復など)。

つまりこの曲は、「どの小節にもMさんとK君が作った部分動機に関連したフレーズを入れる」ことをテーマに作られています。音楽要素の「反復と変化」を講義の軸に置いているため、講義したことを実際に作曲を通して示そうと考えました(※実際にはこんなに何度も反復させる必要はありませんが)。学生の感想には講義内容との結びつきを実感してくれたものが多く、苦労して作った甲斐があったと授業担当教員として喜びを感じています。

ところで、音の強弱やテンポの微細な変化などの音楽表現を加味していない前回の演奏に比べると、上の【楽譜動画】での演奏は格段に表現の幅が広がり、実際に人が演奏しているようなニュアンスが感じられたかと思います。

その秘密もちょこっと公開しましょう。

この曲は最後の部分を除き、全体がBPM=52のテンポとなっています。しかし、人が演奏するときの微細なテンポの揺れを表現するために、ここではかなり頻繁にテンポを細かく変えています。

例として楽譜の1ページ目を示しましょう。うっすらとグレーで表示されているのが強弱の設定です(※楽譜では見えない設定にしています)。

【楽譜】強弱とテンポの設定(1ページ目)

テンポほどではないものの、強弱も随所で変えていることがおわかりいただけるかと思います。

また、メロディが引き立ち、伴奏がそれを支える演奏になるよう、ト音記号とヘ音記号のパートで強弱を変えています。例えば、第1小節は「P(ピアノ)」の強弱記号が設定されていますが、それは実はヘ音記号のパートのもので、メロディが鳴らされるト音記号のパートは「mp(メゾピアノ)」を設定しています。

そして、ここにはBPM=52のテンポ指示が記載されています。でも、その横に薄く「49」の文字が見えますね。メロディの始まりの「ミソ」は「49」、それに続く「シ」(1拍目の裏)から「52」になるようにしています。このように、弾き始めに僅かな「タメ」(感じられるか感じられないかの本当にごく僅かの差ですが)を入れることで、曲の始まりが単調で機械的な印象とならないようにしています。

次は、第24小節の終わりから第25小節の頭にかけての部分です。

【楽譜】強弱とテンポの設定(第24〜25小節)

第24小節の4拍目裏拍から「P」、第25小節の1拍目ではヘ音記号のパートの「ラ」の音のみ「mp」(※ト音記号のパートは「P」のまま)、そしてすぐに「P」に変化しますが全体的に弱く演奏されます。しかし、赤色の◯印で囲ったテンポをご覧ください。「47」「43」「42」と、かなり遅いテンポになっています。これは、音の強さはほぼ一定でも部分的にテンポを落とすことで、新たなフレーズの始まりに心理的な「重み」や「アクセント」を与えることを意図したものです。

単に音を「強くする」「弱くする」だけでなく、どのようなテンポで鳴らされるかも意識してエディットを行うと、生演奏を想定した曲では、より人間味のある演奏のように聴かせることができます。MuseScoreは楽譜作成ソフトであるため、繊細な音楽表現を行うにはどうしても限界があります。より生演奏らしい表現を目指すのであればDAWを用いるべきかもしれません。それでも工夫次第で、ある程度の表現はMuseScoreでも可能であることがおわかりいただけたのではないでしょうか?

このブログを読んでいらっしゃる高校生の皆さんの中にも音楽制作を楽しんでいる方がおられると思います。それぞれの機材・ソフトウェアが持つ機能を少しずつ覚えながらいろいろな試行錯誤や創意工夫を重ねることで、楽曲制作や音楽表現の幅が大きく広がっていくことでしょう。そのプロセスの中で、思いがけない創作のアイデアがひらめくこともあるかもしれません。


(メディア学部 伊藤謙一郎)

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