卒業研究は何のため?
2022年2月13日 (日) 投稿者: メディア技術コース
助教の戀津です。
先日の記事で大淵先生が修士論文の意義について語っておられました。今回は大学における卒業研究が何のために行われるかをお話しします。
もちろん実際の意図は大学や研究室によってそれぞれと思いますので、「私はこう考えて学生さんと接している」というお話です。
キャッチーにするためあえて強い言葉を遣いますが、卒業研究の目的は研究をすることではありません。
卒業研究で取り組む内容は大学や学部、研究室によりますが当然それぞれの専門分野になると思います。
そこで行った研究やその成果は、専門的な内容であればあるほど活かす先がないと思います。
活かせる職業に就くことができたり、それこそ研究職になったりすれば別ですが、研究レベルで修めた専門分野が将来直接的に活用できる機会はなかなかないものです。
また、一年間でできることには限界があり、大した成果が期待できず無力感を覚えてしまうこともよくあるように思います。
そもそも大学生が世紀の大発見などできるわけがなく、過去の研究の隅をつつくようなテーマでお茶を濁すのが関の山・・・と、私自身も学部の卒業研究の際には思っていました。
適当に取り組んでいると実際にそのようになってしまいますし、逆に真面目にテーマと向き合うほどにこのような思考に陥りやすいかもしれません。
それでも、卒業研究をすることには大きな意味があります。
先ほど、卒業研究の目的は研究をすることではないと書きましたが、では卒業研究における研究活動が何であるかと言うと、「手段」なのです。
目的ではなく手段です。別の目的が存在し、それを達成するために研究活動を行います。
ではその目的とは何かというと、「教育」です。ごく当たり前のことなのですが、そもそもそれこそが大学の(少なくとも本学の)目的であり、四年生に卒業研究を課す理由です。
研究活動というのは、テーマの種類や大小を問わず、答えのない問題に取り組むことです。その過程で非常に多くの能力を必要とします。
新たなテーマならそもそも問い・テーマを立てる能力、テーマを引き継ぐならば既存のものを正確に把握し取り込む能力。
テーマについて深く調べ、現在できていることとできていない事を分ける能力、その理由や試行錯誤を含めた解決策を探る能力。
得られた解決策を実行する能力、そのスケジュールを立てる能力。一連の活動を網羅した文章化をし、次世代に伝える能力。
とりあえず思いつくままに書いてみましたがそれでもこれだけ思い当たります。
このうち、テーマについて調べることと解決策の実行・成果のあたりが卒業研究の本体として注目されがちで、確かにそこで得られる能力は分野の依存性が高く汎用性が低いかもしれません。
しかし、上で書いた各種能力はたまたま今回は研究テーマが対象であっただけで、他のことにも応用が利きます。
というよりも社会で求められるのはまさしくそういった能力です。テーマを仕事と読み替えても同じことが必要ですね。
これらの修得には独学では難しい事も多いので、一年間かけて何度もディスカッションしながら研究テーマを進めていく形を取ります。
研究活動を通してこれらの能力を一度に鍛え、身につけることができるというわけです。
テーマや成果そのものではなく、研究テーマに取り組む過程で得られる能力こそが卒業研究を行う目的になります。
大学や学部によっては卒業研究ではなく卒業制作であったり、また何か別のものを課していることもあると思います。
しかし、それもまたその大学にとっての目的や身につけてほしい能力を得るための手段として行われているものと思います。
私見ではありますが、これまで指導を受けた先生方や学会等で接した多くの先生方も同様のことを仰っており、今回はそれを自分の言葉で説明してみました。
大学生活の最後に卒業研究をすることの意義に疑問を感じてしまっている方の参考になれば幸いです。
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