シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その38後編
2022年3月20日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の38本目「フック」について、どこに注目すべきか述べていきます。
今回取り上げる「フック」は1991年に公開されたアメリカの映画です。イギリス・スコットランドの戯曲「ピーター・パン」が原作で、自由に空を飛びまわり、永遠に大人にならない少年、ピーター・パンが大人になったら?という想定で映画内の物語は進行します。作中のピーターの浮遊シーンで用いられたSFXなども当時話題でした。
この作品でシナリオライターとして注目すべきは「結末まで観客の関心を引き続ける点」です。
この作品は、前述した原作「ピーター・パン」を、監督のスティーブン・スピルバーグが大好きだったことから実現した、とされているのですが、親子愛をテーマにした映画には定評のあるスピルバーグ監督が手掛けていることもあって、原作そのままではなく、親子愛を強く押し出す形の作品になっています。
なにしろ「永遠に大人にならない少年」のはずが、いきなり40歳の中年男として登場してくるので、もはや別物というか、妖精ティンカーベルが出てくるまでは本当にピーター・パンが原作なのかと疑いたくなります。
その後、おなじみの舞台ネバーランドや、タイトルにもなっている宿敵フック船長が登場してくることで「これは間違いなく『ピーター・パン』が原作なのだな」と確信できるようにわけですが、シナリオ上、巧みなのはそこまで確信ができても、主人公ピーター・パンの代名詞とも言える「空を飛ぶ力」がなかなか取り戻せないことです。
「あきらかに作中の世界は『ピーター・パン』原作の舞台だとわかっているのだが、主人公の中年男が本当にピーター・パンなのか?」という疑問がつねに尽きず、実際、主人公をとりまく人間たちはおろか、本人すらピーター・パンだと思っていないため、「ピーター・パンではない誰かなのではないか?だとしたら何者なのか?」という興味をもたせる作りになっています。
実際は間違いなくピーター・パン本人であり、それがきちんと作中で明かされ、ピーター・パンとしての力も取り戻すので、最後まで視聴すれば疑問は解消されますし、見終わってみれば全て杞憂だった、ということになるのですが、シナリオライターには、結末に至るまで観客の関心を引っ張り続けることが何より求められる仕事のひとつなので、それが実現できている、ということは高い評価ポイントなのです。
「フック」はそういった工夫をシナリオにうまく組み込みつつ、いざ空を飛ぶ力を取り戻したときに、見事なSFXによってインパクトのある映像に仕上げている作品です。ぜひ一度見てみてほしいと思います。
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