シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その39後編
2022年5月20日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の39本目「ソードフィッシュ」について、どこに注目すべきか述べていきます。
今回取り上げる「ソードフィッシュ」は2001年に公開されたアメリカの映画です。ジョン・トラボルタ、ヒュー・ジャックマンの2大スターが繰り広げる、緊張感あるサスペンス・アクションと、何百台もの撮影カメラを用いた連続撮影によって実現した大爆発シーン映像が話題になった作品です。
この作品でシナリオライターとして注目すべきは「誰が主人公なのか」という点です。
基本的にエンターテイメント用の映画には、誰かしらの主人公が存在します。稀にドキュメンタリー映画のように、ストーリー関係なく史実をなぞるタイプの映画もありますが、観客が映像と物語を楽しむ上では、自身を作中に重ねられる対象として「主人公」が欠かせません。
作中の世界観、作中の出来事が繰り広げられる舞台を感じ取る上で、主人公の視点は重要です。別に観客自身が主人公と同じ性格や考え方をしている必要はありません。観客自身とは価値観や行動動機が正反対の主人公の作品を見ることもあるでしょう。
大事なのは、観客が作中で認知することになる情報を誰から、どれだけ得ることになるか、という点です。
この作品「ソードフィッシュ」は、作中の多くの時間をヒュー・ジャックマンが演じる天才ハッカー・スタンリーの視点で描いています。彼が95億ドルという大金をいかに手に入れ、娘を取り戻すか、という部分に注目して映画を見た人がほとんどでしょう。
しかし、エンディングクレジットやDVDパッケージ裏面を見ると、役名と俳優名で最初に挙がるのは非情なテロリストのガブリエルと、それを演じるジョン・トラボルタなのです。
単なる表記上の順番のことであり、最初に名前が挙がったら主人公というわけではない、と考える人もいるでしょう。しかし、映画の内容を考えると、ガブリエルが主人公として見ることも、決して間違いではないのです。
確かに凄腕ハッカーのスタンリーがいなければ、大金95億ドルを強奪することはできなかったので、キーパーソンなのは間違いないし、彼の奮闘ぶりと娘を取り戻したい気持ちは、観客が感情移入し易い存在です。
しかし、そもそもタイトルにもなっている「ソードフィッシュ計画」という、大金強奪を企て、実行して、さらに自身の死を偽装して、完全犯罪を達成する、という一連の流れを遂行した存在はガブリエルのほうで、スタンリーはそれに協力させられた存在にすぎない、と考えればガブリエルのほうが主人公、と呼ぶにふさわしいともいえます。
シナリオライターは、自身が誰を主人公にしたいか、自身がどんな主人公を望むか、よりも、最終的にそのシナリオを読む人、ひいてはそのシナリオをもとに作られる作品を享受する人が、どう感じるかを重要視して、シナリオを書く必要があります。
感情移入させるための存在としてスタンリー、ストーリーを構築する存在としてガブリエル、というふたりの主人公がいるとも言える、この作品、ぜひ見てみてほしいと思います。
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