【多様性について考える②】聞こえる子どもたちと一緒に学ぶことを選択した娘のケース
2022年6月21日 (火) 投稿者: メディア社会コース
聞こえる子どもたちと一緒に学ぶことを選択した娘のケース
私の娘は難聴で、両耳に人工内耳をつけて聞こえるようになり、地域の小学校に通っています。このように障害児とそうでない子どもたちを一緒に教育することをインクルーシブ教育といいます。
生まれてくる子どもの1000人に1人が先天性難聴児とされています。娘が通う学校はこの地域では児童数が多い方なので1学年に150名ほどいます。同じ規模の学校7校の中に難聴児は1人しかいない計算になります。そのため、聞こえる子どもたちが難聴のある子どもに出会う確率はとても低いことになります。
障害がある子どもは適切な教育を受けるために、入学前に地域の教育委員会に就学相談を申し込む必要があります。難聴児の場合、特別支援学校のいわゆる"ろう学校"、地域の小学校に特別支援学級があればその学級、ない場合は近隣の学校に設置されている特別支援教室に通うという選択肢があります。ちなみに、我が家から一番近いろう学校はバスと電車を乗り継いで45分くらいのところにあります。同じ学年の児童数は2、3名です。丁寧な教育を受けるにはとても良い環境ですが、多様な子どもたちがいることを知るためには、もう少し人数の多い学校に行かせたいという気持ちがありました。
我が家の場合、長女と一緒に学校に通わせたかったのが第1の理由ですが、社会に出た後のことをイメージすると、聞こえる子どもたちと一緒に過ごして欲しいと考え地域の小学校に通うことにしました。娘は人工内耳が有効なタイプの難聴で音が良く聞こえているので、このような選択が出来たのでしょう。とはいえ、難聴であることには変わりませんので、聞こえにくい場面がありますから、学校ではいろいろな配慮をお願いしています。
また娘は週に1回、別の小学校に設置されている「聞こえの教室」に通っています。そこでは、発音の練習、言葉の勉強、音声言語でのやりとりなど、難聴児が苦手なことを個別指導してもらいます。詳しくは先日取材して頂いた「手話を知ろう! (知ろう!あそぼう!楽しもう!はじめての手話①)」で4ページ使って紹介されていますので、学校の図書室などで探してみて下さい。
通常の授業では、席を前から2番目にしてもらったり、なるべく黒板に文字を書いてもらったり、ディスプレイを使って視覚情報を使ってもらったりといった情報保障をお願いしています。複数の人が同時に話していると、いくら人工内耳をしていても聞き取りにくくなります。そのため、発言は一人ずつしてもらうように先生を通じてクラスの子どもたちにも伝えています。
娘も聞こえにくいながらに頑張っており、それを受け取ったのか周りの子どもたちはとても理解を示してくれています。聞こえやすいようにゆっくり話してくれたり、発言を繰り返してくれたり、子どもたちは自然と難聴について学んでくれています。
娘が聞こえる社会に飛び込んだことで、化学反応のように多様性のある環境が生まれているのを肌で感じています。一番仲の良い友だちは娘が教えた指文字を覚えてくれたので、先生の言葉が通じなかった時は指文字を使って通訳してくれることもあるそうです。友だちは毎年増え続け、とても楽しく学校に通っていますから、私たちの選択は間違っていなかったのだと確信しています。
一人がほんの少し勇気を持って一歩前に出ることで、波紋のようにその輪が広がっていくのですね。
メディア学部 吉岡 英樹
略歴:バークリー音楽院ミュージックシンセシス科卒業後、(有)ウーロン舎に入社しMr.ChildrenやMy Little Loverなどのレコーディングスタッフや小林武史プロデューサーのマネージャーをつとめる。退社後CM音楽の作曲家やモバイルコンテンツのサウンドクリエイターなどを経て現職。1年次科目「音楽産業入門」を担当。現在は聴覚障害支援を専門としており、メディア専門演習「聴覚障害理解とコミュニケーション支援」、聴覚障害支援メディア研究室 を担当している。
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