確率の不思議 - 4. 議論が噛み合わないときは
2022年7月29日 (金) 投稿者: メディア技術コース
4日間続けて確率の話をしてきました。昨今は、パンデミックや気象変動、原子力発電など、ものごとのリスクを科学的に評価して考えなければならない社会問題が数多くあります。そんなときに、我々科学者は、データに基づいてリスクを確率化して考えることが多いのですが、その結論と異なる考え方をする一般の人に対して、「確率をちゃんと考えられなくて困った人だなあ」というような対応をしてしまうことがあります。
でも、こんなときに科学者が見落としている重要な要素があります。それは、確率の元となるデータを、どれぐらい信じられるかということです。「〇〇の値が××だったら、事故が起きる確率は△△%」みたいな話をするとき、「〇〇の値は××」の部分が、どれぐらい確かなのかは必ずしも自明ではありません。
科学者といえども、すべてのデータを自分で実験して求めているわけではありません。多くの場合、どこの学会で発表されたからとか、どの研究者が発表したからとか、そういうことをもとに、データの信頼性を判断しているというのが実情です。つまり、科学者が頭が良いからデータの真贋がわかるというわけではなく、単にそういう業界に長くいるからわかるという側面が大きいです。
科学者のコミュニティの外にいる人から見れば、議論の前提のところで誰が嘘を言っているかもわからないのですから、いろんなリスクの見積もりが難しいということになります。モンティ・ホール問題の司会者が、意地悪な人かもと心配になってしまうようなものです。そうすると、どんな現象も「確率が著しく小さい」とは言いにくくなり、全体的に安全志向になってしまうのもやむを得ません。
ということで、今回の結論は、
- 科学者は、科学者が信頼できると思っている前提部分について疑っている人もいるということに自覚的になろう。
- 誰もが科学的議論を理解することも大事だが、「誰が言っていることなら信じてもいいか」を見る目を養うことも同じくらい重要だ。
ということです。この夏も、いろいろ心配なことがありますが、誰もが納得できる科学的結論で、社会が良い方向に進んでいくといいですね。
(大淵 康成)
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