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シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その41後編

2022年7月23日 (土) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の40本目「忍びの国」について、どこに注目すべきか述べていきます。

今回取り上げる「忍びの国」は2017年に公開された日本の映画です。現在の三重県にあたる伊賀で、天正6年(1578年)に起きた伊賀軍と織田軍の間で起きた戦い『天正伊賀の乱』をモチーフにした作品です。ジャンルとしては「忍者モノ」といっていいですが、衣装などに「忍者らしさ」を多少加えているものの、魔法や超能力のような忍術は登場せず、各種アクションシーンの強調によって「忍者らしさ」を表現しています。

この作品でシナリオライターとして注目すべきは「歴史的背景のある作品の魅力を伝える難しさ」です。

本作は「忍者」を題材にしていますが、どちらかというと忍者発祥の地として最も有名な土地のひとつ「伊賀」に注目した内容で、当時の伊賀の領民が忍者として各国に傭兵として出向いていた背景や、その当人たちの価値観、思考などを中心に描いています。主人公の無門は確かに無類の強さを持っており、その活躍ぶりは超人的といっていい描かれ方をしているものの、物語上あまり正統派のヒーローとは言えない立ち振るまいが目立ちます。

ある意味、無門は主人公らしからぬ、これといった信念の無い、いい加減な人間で、ただただ金のために動く男です。しかし、それは当時の伊賀の国の状況を考えれば、特におかしなことではなく、そもそも作中において敵対勢力となる織田軍が織田信長に仕えているように、明確な君主が伊賀にはいません。そうなるとなおさら、伊賀の人間が自分の食い扶持を得るためだけに動くことは、とても自然なことになるのです。

もっと言うなら、最終的に主人公の敵となる伊賀の首脳陣「十二家評定衆」は、主人公と同じ伊賀の人間の中でも更に利己的であったがゆえに反感をかっているわけですが、同じ打算的な思考の中でも微妙な差異があることを理解して楽しむには、歴史の予備知識が必要になります。残念ながらそれをすべて説明するには、この映画の125分という長さは短すぎるのです。

この「忍びの国」は、物語の大筋を理解する上で本当に大事な情報はしっかり盛り込み、何も歴史的知識がない人でも楽しめるシナリオにはなっているとは思います。しかし、前述した伊賀の人間の打算的な考え方にかぎらず、例えば本作のキーアイテムである「小茄子」という茶器がどうして国ひとつに相当する価値を持っていて、しかしながらパッと見は小ぶりで脆い器でしかなく、それをラストシーンであっさり砕いてしまうことに、どれだけ重大な意味があるか、は予備知識の有無で大きく印象が変わるでしょう。

もちろん、基本的にはどんなシナリオも初めて見る人が理解できるように書くべきです。ただ「理解が深まるとより楽しめる」という要素をシナリオに組み込むことはとても難しく、またどの程度まで作中で触れて表現するのか、はとても悩ましい部分です。やりすぎてしまうと、観客を楽しませるどころか、映画の進行テンポの悪さを感じさせてしまうからです。

「忍びの国」は、何も知らずに観ても十分楽しめる作品でありつつも、歴史の予備知識があれば、より楽しめる作品になっています。そのバランスが絶対正しいというわけではありませんが、自分がシナリオライターなら何を強調して、何を切り捨てるだろうか、と考える上でもたいへん参考になる昨品です。ぜひ一度見てみてほしいです。

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