脳活のためのパラドックス(1):言語メディアの不完備性?
2022年8月22日 (月) 投稿者: メディア社会コース
二十四節季では、すでに立秋に入っていますが、明日から処暑(暑さが和らぐ節季)に移ります。ただ、まだまだ猛暑が続きますね。そのような猛暑の中では、思考力が低下しがちです。そこで、本日を含めて一週間、シリーズものとして脳活のためのパラドックスについて綴りたいと思います。言語メディアの不完備性を、遊び感覚で感じ取ってもらえればと思います。
もとより、皆さんはパラドックス(paradox)という用語をご存じでしょうか? 対比されるオーソドックス(orthodox)という用語は、どこかで聞いたことがあると思います。この2つは一緒に理解するとよいでしょう。いずれも、論理学が発展した古代ギリシャの時代に生まれたものです。共通の語尾“dox”は“doxon”の略で、意見や陳述を意味します。これは、現在の文書やドキュメントという用語の原型で、MS-Wordの“docs”という拡張子からピンと来るかもしれません。語幹部分ですが、オーソ(ortho)は“正規な(/まっとうな)”を意味します。一方、パラ(para)は“並ぶ”あるいは“異なる”という意味を持ち、対比表現に用いられます。そのような解釈もあり、オーソの“真理”や“定説”に対して、パラドックスは“逆理“や“逆説”と表現されます。
さて、パラドックスの具体例として、“嘘つきのパラドックス”を紹介しましょう。古代ギリシャにおいて、クレタ島出身の賢人エピメ二デスが放った「P:すべてのクレタ人は噓つきである」という主張にまつわるものです。エピメニデスは当時、高貴な哲学者として知られていました。その彼が放ったこの一言を信じようとすると、当人がクレタ人なのでこの主張は噓となり、「Q:すべてのクレタ人は嘘つきではない」という解釈が可能で矛盾が生じるように感じます。ただ、ここには実はカラクリがあり、完全な矛盾があるわけではありません。Pの裏返し(否定)は「~P:クレタ人の中には嘘つきでない者がいる」となり、エピメニデスがその嘘つきでない者の1人であれば、Pの主張は嘘には当たらないことになります。
この種のパラドックスは自己言及パラドックスと呼ばれています。自己言及パラドックスは、身近なところでも見出すことができます。看板に貼られた「張り紙禁止!」というビラ、会議中の「静粛にしなさい!」という注意、試験中の質問に対して「その質問には答えられません」という回答などです。
明日以降も、頭の体操のためのパラドックスを紹介していきます。
文責: メディア学部 松永
(2022.08.22)
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