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脳活のためのパラドックス(3):ヒルベルトの無限ホテルの運用

2022年8月24日 (水) 投稿者: メディア社会コース

前回、無限について触れましたので、今回も無限絡みの話をしましょう。ヒルベルトというのは、1920世紀に偉大な功績を残したドイツの数学者です。ただ、ご心配なく。今回の話に難解な数学は出てきません。中高生の数学の知識で、なんとなく納得できるはずです。この“なんとなく”にパラドックス感があるのです。

さて、このヒルベルトのホテルには1号室、2号室、3号室、…と無限の数の客室があり、無限の数の客が泊まれます(もちろん架空の話です)。無限の世界だけに、ホテルの支配人も何部屋が埋まっていて、また何人が泊っているのかがよくわからず、ホテルの前には念のため常に満室という看板を掲げています。それでも、どうしても泊めて欲しいという客はやって来ます。支配人は非常にお人好しで、そういう客もなるべく泊まらせてあげたいと考えていました。そこで、そういう事態に備え、宿泊客には「緊急の場合には、部屋を移ってもらうことがあります」と事前に一応断っています。

ある晩、どうしても泊めて欲しいという一人の客がやって来ました。このとき支配人が悩んだ末に取った対応は、全宿泊者に対する次のようなアナウンスでした。「誠に恐縮ですが、緊急の事態が発生しましたので、いまご利用いただいている部屋番号より一つ大きい番号の部屋にお移りください」という依頼です。これで、1号室の客は2号室に、2号室の客は3号室に、3号室の客は4号室に、…というように部屋の移動が行われます。その結果、1号室が空き、新たな客を迎え入れることができました。現実のホテルでは、絶対にありえない対応ですが…。

翌晩、支配人は難題に出会うことになります。どうしても泊めて欲しいという無限数の客からなる一つのツアーグループがやって来ました。客が有限数であれば、その人数分だけ既泊者に部屋を移動することをお願いするだけで済みますが、無限数の客に対してはその手法は用いられません。そこで支配人が悩んだ末に取った対応は、全宿泊者に対する次のようなアナウンスでした。「誠に恐縮ですが、緊急の事態が発生しましたので、いまご利用いただいている部屋番号の2倍の番号の部屋にお移りください」という依頼です。これで、1号室の客は2号室に、2号室の客は4号室に、3号室の客は6号室に、…というように部屋の移動が行われます。その結果、奇数番号の部屋が空くことになり、無限数のツアー客を迎え入れることができました。ここまで来ると、非現実性の度合いが高まりますね。

翌々晩、支配人はさらなる難題に出会うことになります。どうしても泊めて欲しいという無限数の客からなる無限数のツアーグループがやって来ました。支配人は、前晩の経験から、ツアーグループが有限数であればやりようがあることにすぐに気づいたのですが、無限数のツアーグループに対してはその手法は用いられません。そこで支配人が悩んだ末に取った対応は、全宿泊者に対する次のようなアナウンスでした。「誠に恐縮ですが、緊急の事態が発生しましたので、いまご利用いただいている部屋番号をnとして、2^n(2のn乗)の番号の部屋にお移りください」という依頼です。これで、1号室の客は2号室に、2号室の客は4号室に、3号室の客は8号室に、…というように部屋の移動が行われます。ここで、2が(最初の)素数であることを意識しましょう。その部屋移動が終わった後に、最初の無限数客のツアーグループには「3号室、9号室、27号室、…(3^n3n乗))の部屋をご利用ください」と案内し、次の無限数客のツアーグループには「5号室、25号室、125号室、…(5^n5n乗))の部屋をご利用ください」と案内します。このように素数を用いると、部屋の重複は起きません。次の無限数客のツアーグループにあてがわれる部屋番号はわかりますよね。

現実世界の話ではないですが、狐につままれたような感じで納得できてしまいますよね。無限という概念は奥(/懐)が深く、パラドックスの詭弁や誤謬としてしばしば用いられます。

文責: メディア学部 松永

2023.08.24

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