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脳活のためのパラドックス(2):無限と分割が生み出す不思議な論理

2022年8月23日 (火) 投稿者: メディア社会コース

有名なパラドックスとして、アキレスと亀の競争の話があります。健脚・俊足のアキレスが足の遅い亀に追いつけないというものです。足の速いアキレスは、ハンディとして亀の後方100mからスタートするとします。ここでは話をわかりやすくするため、アキレスは秒速10m、亀は秒速1mで走るとしましょう。ちょっと亀が速すぎますが…。この設定で、用意ドンで両者はスタートします。アキレスが亀が最初にいた地点に到達するのは10秒後ですが、そのとき亀はアキレスの前方10mの位置にいます。その亀がいる10m先にアキレスは次の1秒後に到達しますが、そのとき亀はアキレスの前方1mの位置にいます。その亀がいる1m先にアキレスはさらに0.1秒後に到達しますが、そのとき亀はアキレスの前方10cmの位置にいます。つまり、アキレスが亀のいた位置に到達したときには、亀は距離を縮められながらも常に僅かながらアキレスの前方にいます。… アキレスは永遠に亀に追いつけない???

これは古代ギリシャの哲学者ゼノンが作ったパラドックスです。ゼノンは他にもいくつかのパラドックスを作っています。次の例は、ある意味で先のアキレスと亀のパラドックスに通ずるものがあります。二分法による不思議な論理で、永遠に目的地には到達しないというものです。ある場所に行くためには、必ずその中間点(目的地まで残り1/2の位置)に到達しなければなりません。続けて残りの半分に歩みを進めても、いずれその中間点(残り1/4の位置)に到達しなければなりません。さらに歩みを進め、残り1/8の地点、残り1/16の地点、…に到達する必要があります。こう考えると、無限の歩みの行程があり、果たして有限の時間で目的地に着くのであろうか、という話です。

さて、アキレスと亀のパラドックスに話を戻しましょう。もちろん、アキレスは亀に追いつけます。もともと追いつく時間は決まっているのですが、先の説明は、その時間までを徐々に細かく刻んで永遠に考えていることによる誤謬です。所用時間を加算していくと、1010.1+…(秒)となりますが、これは初項10、公比1/10の無限等比級数です。細かな説明は省略しますが、アキレスが亀に追いつくまでの時間は10/(11/10)100/911.11…(秒)です。少し難しい数学を持ち出しましたが、実は、中学生でも方程式を使って解けます。アキレスがt秒後に亀に追いつくとすると、アキレスの進む距離は亀の進む距離に100mを加えたものに等しいので、10tt100という方程式が得られ、t11.11…が得られます。

ゼノンの後者のパラドックスも,無限等比級数の考え方で目的地に到達できることが示せます。目的地までの全体行程を1としましょう。1/2進み、1/4進み、1/8進み…と続くわけですが、1/21/41/16+…は、初項1/2、公比1/2の無限等比級数なので、(1/2)/(1-1/2)1となり、目的地に到達したことがわかります。

文責: メディア学部 松永

2022.08.23

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