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シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その43後編

2022年9月23日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品の43本目「バイオハザード」について、どこに注目すべきか述べていきます。

今回取り上げる「バイオハザード」は2002年に公開されたアメリカの映画ですが、原作は日本のゲームメーカー「CAPCOM」が1996年に発売したビデオゲーム「バイオハザード」です。アメリカでの原題は『Resident Evil』で、原作ゲームのストーリーとは全く異なる展開をする内容ですが、生物兵器や細菌兵器の開発によって発生したウィルスによって人間がゾンビ化、人外の生物兵器が襲いかかってくるサバイバルホラーとしての共通点はあります。原作のゲーム同様にナンバリングの映画が何本も作られた珍しいシリーズの映画の1作目でもあります。

さて、この作品でシナリオライターとして注目すべきは「ホラージャンルならではの恐怖とストーリー作りの難しさ」です。

「バイオハザード」が原作ゲームとは異なるストーリー構成になっていることは前述しましたが「具体的にどのような点が違うのか」というと、最も大きな違いの一つは、ゲームのように明確な『ゲームクリア』が用意されたエンディングが無い、ということです。

ファミコンに代表される、黎明期の家庭用ゲームの中にはハイスコアを目指すだけの仕様しか組み込まれておらず、エンディングのないゲームも存在しますが、原作のゲーム「バイオハザード」はもともとプレイステーションが初出のゲームで、明確なゲームクリア目標が確かに存在し、プレーヤーがその目標をクリアしたときには、事件の黒幕や事件の解決が成されるストーリー構成になっています。

しかし今回取り上げた映画版「バイオハザード」にはそのような謎に対する「答え」が、最後になっても明らかにされません。確かに、事件を引き起こした犯人はストーリー途中で明らかになりますが、早々に死亡して作中から退場してしまいます。一方で、最大の脅威となるゾンビや生物兵器を作り出した企業「アンブレラ社」が、どのような目的でそのように危険な研究に手を染めることになり、その後どうなったのかも明らかにならないまま、この作品はラストを迎えます。ハッキリしているのは、主人公アリスが死なずに済んだという事実だけで、根本的な問題は残されたままなのです。

これは本来であれば、シナリオの制作上は問題となるのですが、これが許されるのは本作品が「ホラージャンル」のシナリオだからです。

基本的に観客は、その作品の時間、約90分~120分の拘束時間の果てに一定の「満足」が得られることを目的に映画館に足を運び、チケットを購入しています。観客ひとりひとりの好みは違うので、万人が「満足」を得られるとは限りませんが、それでも「起・承・転・結」や「発端・展開・結末」に代表されるストーリーのラスト、前述のストーリー構成でいえば「結」もしくは「結末」に該当するエンディングを期待して視聴します。

これが例えば「推理もの」のシナリオで、「発端で事件が起き」「展開で調査と推理がすすみ」しかし「結論はなかった」などということになれば、最悪の場合、返金騒ぎにすらなってしまいます。そのような作品が無いとは言いませんが、かなり奇を衒った作品でしかありえませんし、少なくとも、安定して興行収入を得られる作品のシナリオにおいて、そんなストーリー構成の作品は制作にGO決定がなされないでしょう。

しかし「ホラージャンル」のシナリオにはこれがしばしば見受けられ、観客にも好評を博す場合があり、本作「バイオハザード」もその事例のひとつなのです。

本来であれば明確にならない結末のストーリーは、観客の納得を得られず、シナリオの欠点(あな)となりますが、ホラージャンルにおいては「明らかにされない、あるいは明らかにすることのできない問題」が、観客に不安や心配や恐怖を植え付け、それを楽しむ観客は”納得”するため、問題とならないのです。むしろ、映画のラストで、なにもかも説明をしたホラー映画があまりヒットしなかった、という前例があるほどです。

人間は、説明のつかないことや不可思議な出来事に対して、不安をいだくことがあり、それはやがて恐怖の感情に繋がります。ホラージャンルの作品は、そういった人間の特性をたくみにつくことによって観客を楽しませ、満足させる昨品なのです。そのインパクトはたいへん強いものがあるため、やみつきになるコアなファンがいますが、理にかなったストーリー構成からは外れるタイプのシナリオになるがゆえに、かなり難易度の高いシナリオが求められます。

少しでも何か間違えただけで「嘘くさい」「ありえない」「馬鹿げている」と一蹴され、その評判は世間に広まって観客を劇場から遠ざけてしまうのです。

その点、映画「バイオハザード」は、ウィルス感染、遺伝子改造といった「科学的にありうる」要素をバックボーンにした「ホラージャンル」要素を散りばめて説得力を高め、観客の興味を最後まで引き続けることに成功したシナリオになっています。同じことを繰り返しても、うまくいくとは限りませんし、実際この作品のヒット後に「ゾンビもの」は、さらにたくさん制作されるのですが、話題にもならずに消えていきました。そういった影響力を考慮すればなお、一度は見ておくべき作品といえるでしょう。

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