第21回シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点(あな)
2022年11月 2日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「シナリオ執筆未習熟者の作品に共通して発生する欠点」として、定期的に私が何度も遭遇してきた「シナリオの欠点(あな)」について書いていこうと思います。今回取り上げるトピックは・・・
「既存ジャンルの前提知識に依存しすぎたシナリオの欠点(あな)」です。
インターネットの普及や、SNSの浸透によって、個人の創作物を簡単に発信できるようになった昨今、完全オリジナルジャンルの作品を主張するのは難しくなったというか、ほぼ不可能で「たまたま目にしていないだけで、すこし探すと、どこかに似たような作品がある」となるくらいには、自分の作品の独自性を示すのが困難だったりします。
ただ、裏を返せば、それだけたくさんの人が気軽に創作活動ができるようになった、ということですし、独自性を示すのが難しい、というのも、考えようによっては、好むジャンルを明確に持ったファンをターゲットにしやすい、ということでもあります。
今でこそ気軽に楽しめるようになった「ライトノベル」なども、かつては「ファンタジー小説」などと呼ばれていた時期があり、そもそもアニメや漫画のタッチを活かした表紙や挿絵が用いられるのが珍しく、それらに適した内容が「中世ヨーロッパ風の舞台で展開する剣と魔法の物語」ぐらいしかジャンルとして存在していませんでした。
今となってはアニメタッチ、漫画タッチの表紙で刊行された小説は書店にずらりと並んでいますし、「剣と魔法」のようないわゆるファンタジー要素は特に珍しいものでもなく「定番」の要素として、広く認識されています。
しかし「定番」となったからこそ陥りやすい「シナリオの欠点(あな)」があります。
ここまで「定番」と何度も言っていますが、実のところ何をもって「定番」なのかは、明確な定義がありません。「定番」を認定する機関なんてありませんし、そもそも誰か特定の人(達)が「我々が認めたものが『定番』である」などと主張しても、世間は認めてくれないでしょう。
ゆえに、定番の作品を書く人も、書かれた作品を享受する人も「定番」の前提知識によって、作品の認識が大きく変わってきます。
いまや剣と魔法のファンタジー要素は珍しくない、と前述しましたが、これも「前提知識」がどのような情報なのか、によってそれらを用いた作品は受け取られ方が変わってきます。
例えば「魔法」と聞かされた人は、どんな事象を思い浮かべ、どんなことまで許容できるものでしょうか。
RPGに代表されるゲームなどの影響もあって「魔法」使いが、炎や冷気、風や雷を自在に繰り出し、敵とバトルを繰り広げる様は「定番」と認識されているかもしれません。
しかし、仮にそういったゲームをプレイしたことのない人が、そういった場面をシナリオから読んだとき、炎や冷気、風や雷を自在に操る登場人物を瞬時に「魔法」使いとして認識し、理解して、さらにはその登場人物の言動に共感できるか、というと、かなり難しいでしょう。
「そんな前提知識もない人は、そのジャンルの作品に触れようとしないだろう」と思うかもしれませんが、まさにその認識が「シナリオの欠点(あな)」となりがちなのです。
「炎や冷気、風や雷を操る魔法」は、とても単純かつ極端な例で、冒頭でも述べたように、自分の作品の独自性を示すことが難しくなった昨今、「炎や冷気、風や雷を操る魔法」をあつかうだけでは、なかなか注目を集めるのが難しく、評価も得にくいため、今や「魔法」と一言でいっても、どんどん多様化、複雑化しています。
そこで『あれもこれも「魔法」としておけば、どんな能力だろうと伝わるだろう』と油断すると、読者や観客はおいてきぼり感、疎外感を食らって、一気に作品全体への興味が失せてしまいます。
現実には存在し得ない力や能力が展開される作品に人気があることは、今さら言うまでもないですが「このくらいは前提知識としてあるだろう」と勝手に思い込んで、不親切な作品にならないよう、気をつけたいものです。