ビブリオバトルで考える
2022年12月21日 (水) 投稿者: メディア技術コース
1年生のフレッシャーズゼミの授業でビブリオバトルをやるというので、最近自分も昔読んだ本を読み返している。本は「トウモロコシ畑の子供たち」(扶桑社ミステリー文庫)。
授業の中でVR(バーチャル・リアリティ)の話をしたこともあって、ふと古い映画の事を思い出した。1992年に公開された「バーチャル・ウォーズ(The Lawnmower man)」という映画で、ピアース・ブロスナンが007に抜擢される前に出演をしていた。大まかなあらすじはこうだ、〝博士が良かれと思ってした施術で、ある男がバーチャル空間で何でもできるようになり、現実までその力が及んでさあ大変〟そんな感じ。なお、映画は字幕なしであればYOUTUBEで観られるので興味ある人は原題で検索してみると良い。原作は有名どころのスティーヴン・キングで、この人は現在にいたるまで沢山の映画化作品がある(例えば「キャリー」「シャイニング」「ショーシャンクの空に」とか)。
話を本に戻すと、この映画「バーチャル・ウォーズ」(1992)の原作が『芝刈り機の男』という短編で、前述の「トウモロコシ畑の子供たち」という本に収録されているのだ。この本自体は“ナイトシフトII”という副題が付いて、短編集の分冊の二冊目。
さて、この「バーチャル・ウォーズ」の原作である『芝刈り機の男』を読むと、バーチャルのバの字も出てこないのに面食らう。簡単なあらすじをネタバレ承知で書くと〝芝刈り機を手放したので業者に頼んだら、変な男が丸裸で芝刈り機を操ってた〟みたいな話。先ず、なぜ映画化しようと思った?と企画担当を激しく問い詰めたい。
SF原作が映画化された場合、結構な確率で原作の内容からズレる。原作では厳密な法則を守っているプロットが、映像化された時点で勢いと情が支配するファンタジーに変化する事も多い。映画「トータル・リコール」や「ブレードランナー」「アジャストメント」「NEXT」「ペイ・チェック」「マイノリティ・リポート」あたりのフィリップ・K・ディック原作の作品も構想だけ拝借して元の筋から離れ、別種作品になっている(まともにやったのは「クローン」「スクリーマーズ」あたり?)、『あなたの人生の物語』の映画化「メッセージ」も壮大な盛り上げを図ろうとプロットが少し変質し、膨大な理詰めなひとりごと作品『火星の人』も映画化「オデッセイ」になると科学的興味な詳細が削られ、いらない無謀スペクタクル演出が追加されている。これは、映像作品が時間をかけた思索を許容しない点と、過剰に余計なエンタメを要求するために、盛られる危機と回避が大げさになる点に起因するのではないかと思う。要は色々が瞬間的にわかるように単純な方向に変更されて概念的部分は削られてしまう場合が多いのだ。
まあ、それはそれで映像作品としては成立しているので、メディアのそれぞれの表現できる特質が違うということだろう。プロットだけに注目すれば原作の方が一本筋が通っている事が多い。だから映像化された作品でも、親しむ場合は原作も比べて読むと良い。
さて、話をビブリオバトルに戻すと、本の面白さを人に伝えるのは至難の業だと思っている。だいたい、
①自分が面白いことを他人が面白いと思うだろうか?
②そもそも自分の面白いと思うことを人に伝えるのは、恥ずかしくないか?
という疑念がまず渦巻いてしまう。②は①の派生である。面白いと思うものが、とても乙女ちっくなものだったり、思いのほか幼稚だったり、はたまた良識を疑うような内容だったりすると、それはそれで他人に〝面白かった想い〟を伝えるのに躊躇してしまう。
…と、筆を進めて、これは古臭い概念で、文化の多様性の否定だろうか?とも、いぶかしむ。元来どのような趣味嗜好であろうとも、否定されるべきではなく、堂々と、きのこの山もたけのこの里もどちらが好きだと主張しようが、胸を張っていいはずである(筆者はきのこの山派です)。人は人、自分は自分。
なのだが…である、それでも本の紹介は難しい。自分が本を楽しむ場合、実はあらすじなんか結構どうでも良く、表現が好きなのだ。なので、本などの紹介には非常に困る。この文章が面白い、という紹介は、実際に全部読んでもらわないと伝わらない。というか、面白かった作品でも、あらすじの紹介だと、「王子が復讐しようとしたら、結局みんな死んだ」とか「喧嘩した両家に巻き込まれて、勘違いで勢いカップルが死んだ」くらいの無味乾燥なことになってしまって、伝わらない。困った。
………
ということで、映画化された短編小説の範疇で言うとダフネ・デュ・モーリア著の『鳥』は傑作です。機会があったら読んでみてください。
(以上文責 永田)
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