江戸の和算のたしなみ(2):娯楽としての和算と算額
2023年2月28日 (火) 投稿者: メディア社会コース
まず前回の問題1の答え合わせから始めましょう。様々な解法が考えられますが、相似の性質を上手く利用すると、意外とあっさり解けてしまいます。ここで、問題の図に次のようにA~Mの頂点ラベルを振ってみます。すると、△ABC∽△EJC∽△KGC(※ ∽は相似の記号)であることにすぐに気付きます。さらに、三角形ABCにおける大正方形と大円の位置、三角形EJCにおける中正方形と中円の位置、三角形KGCにおける小正方形と小円の位置まで含めて相似であることがすぐに確認できます。したがって、中円の直径をd cmとおくと、9:d = d:4より、d = 6が導かれます。
さて、江戸時代における和算の位置づけですが、最初の頃は和算の専門家(現在の数学者)の研究対象に過ぎなかったものの、徐々に一般の人々の娯楽になっていきました。先の問題のような幾何パズルは楽しいものです。大名や藩主などの比較的階級が上の人から農民や商人などの階級の低い庶民まで、その階級の垣根を越えてパズルマニアが増えていきました。そして、既存の問題を解くに飽き足らず、新しい問題を作って他人に解かせるといったことが、日常生活の中に根付いていったのです。
そして、独特の風習も生まれました。難しい問題を解いたり作成したりすると、それを神社やお寺に奉納し、飾ってもらうというものです。その多くは劣化しないよう額縁のようなものに納められていたことから、算額と呼ばれるようになりました。この神社仏閣への算額奉納の風習には、いくつかの理由があるようです。そのうち最も多いとされる理由は、数学の腕が上がったことを神様、仏様に感謝することです。その他には、自分の流派(次回話す予定)を宣伝するという理由が挙げられます。
実は、前回の問題1は、岩手県大船渡市の五葉神社に奉納されたものです。問題文は、漢文では(本来は縦書きですが…)「今有鈎股如図容大中小方及甲乙丙円、只云甲円径九寸丙円径四寸、問乙円径幾何」となります。先の問題1は現代風の表現に置き換えて記しています。問題の意味を理解していれば、この漢文表現も部分的には何となく想像できますね。
次回は、著名な和算家とその業績について話をしたいと思います。
文責: メディア学部 松永
(2023.02.28)
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