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江戸の和算のたしなみ(3):著名な和算家

2023年3月 1日 (水) 投稿者: メディア社会コース

以前説明しましたが、和算は江戸時代を中心に発展した日本独自の算術です。では、どのような人が先導していったのでしょう。次の図は、江戸時代初期~中期の代表的な和算家の系譜です。この図を参照しながら説明します。

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和算の道を切り開いた人は、毛利重能と言われています。彼は江戸幕府が開かれる少し前に明(中国)に行き、算術を学ぶとともにそろばんを持ち帰りました。そして、そろばんの計算の簡便さに魅了され、江戸時代初期に京都でそろばん塾(天下一割算指南所)を開いたのです。当時はまだ、今の京都や大阪の方が文化の中心でした。戦乱のない安定した江戸時代は商いが盛んになり、様々な商売計算(今でいう代数計算)が必要でした。そのような事情も相まって、毛利重能のそろばん塾は活況を呈しました。毛利は1622年に「割算書」を出版します。ここには、そろばんによる割算や測量などについて記されていて、現存する日本最古の数学書と言われています。

次に第2世代です。毛利重能には、吉田光由・高原吉種・今村知商という3人の優秀な弟子がいました。いずれもその後の和算の発展に大きく貢献したのですが、ここでは吉田光由について紹介します。彼の最たる業績は、1627年に当時の数学の教科書ともいえる「塵劫記」を執筆したことです。この本は、かな交じりで記されていて、また実用性を重視していることからベストセラーとなりました。ある復刻版の大まかな構成は次のようになっています(現代風の表現にしています)。実際には、この上中下巻に計48個の学習単元があります。

  • 上巻:数量と度量衡、そろばん算術、米に関する計算、両替・利息、…
  • 中巻:売買(商売)、求積(面積・体積・容積)、普請関係、…
  • 下巻:測量、積(つもり)算、日常諸算、開平算・開立算、…

続いて第3世代です。この世代になると和算家も増えてきますが、和算初期の最大の功労者である関孝和を取り上げます。毛利や吉田・高原・今村が築き上げた和算(文化)を学問体系にまとめ上げたのが関孝和と言っても過言ではありません。彼は数多くの和算の名著を残しています。最初の著書は「発微算法」(1674年)で、ここでは代数方程式の解法を紹介しています。のちに一部ミスが指摘されましたが、関の弟子が修正したとされています。次なる著書は「解伏題之法」(1683年)で、代数のレベルが一段上がり、現代私たちが学ぶ行列式のようなものも出てきます。関の代数処理は、それまで用いていた算木(次回話す予定)による計算をかなり簡便にしました。また、彼は代数のみならず解析にも多くの成果を残していて、楕円の面積や周の長さを求める方法などを発見しています。ちなみに、関孝和はヨーロッパで微積分学を確立したニュートン(イギリス)やライプニッツ(ドイツ)と同時期の生まれです。異国の地にありながら、同世代の3人が解析を研究していたというのは興味深いところです。

次回は、算木とそろばんについて話をしたいと思います。

文責: メディア学部 松永

2023.03.01

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