江戸の和算のたしなみ(6):算額よもやま話
2023年3月 4日 (土) 投稿者: メディア社会コース
算額についてはすでに説明しましたが、今回は算額の雑学的なことをお話します。
まず、日本の算額数についてです。現存する算額の数は、900~1000面(面:額の単位)と言われています。しかし、江戸期の文献に記録されていて現存しないものも合わせると、2500~2600面が作られていたものと見込まれています。
では、現存する算額の日本全国での分布はどうなっているのでしょうか。様々な資料に基づくと、都道府県のくくりでは福島県が最も多く、100~110面ほどあるとされています。2番目に多いのは岩手県、3番目に多いのは埼玉県で、ともに約90面です。それに群馬県、長野県と続きます。
上位だけ取り上げると一見東高西低ですが、日本全国津々浦々に算額は存在します。それでも、関東北部から東北にかけて現存するものが多いことが窺えます。これにはいくつかの理由が考えられていますが、一番の理由は和算文化の東方移動です。江戸の初期こそ上方(京都・大阪を中心とする近畿圏)が文化の中心でしたが、和算が庶民に定着するのはもう少し後の時代で、その頃には江戸を含めた東日本が文化の中心になりました。
では、なぜ江戸(東京)が算額の所蔵数で上位に来ないのでしょう。これは容易に想像が付くと思いますが、震災や戦災で失われたものが多いからと考えられています。一説には、失われた算額を加えて集計すると、東京には380~400面の算額があったと見込まれています。このデータからも、算額の分布が東高西低という傾向がより窺われますね。
次に、算額と世界遺産との関係についてです。算額を神社仏閣に奉納する風習があったわけですが、日本の世界遺産に登録されている場所にも算額は保存されています。
2011年に世界遺産に登録された“平泉の文化遺産”の一部である岩手県の中尊寺には3面が確認されています。次の図はその中の一枚です。画質が粗く見づらいかもしれませんが、幾何の問題が出題されていることが見て取れますね。
(出典:http://www.wasan.jp/iwate/chusonji3.html)
その他に、広島県の厳島神社や京都府の清水寺などの世界遺産にも、原本あるいは復刻版が飾られています。今後、神社仏閣を訪れるときには、算額があるかを尋ねてみるとよいでしょう。写真撮影が許されれば、結構インスタ映えするような写真が撮れると思います。
次回はこのシリーズの最終回ですのですので、明治維新後の和算の歩みについて話をしたいと思います。
文責: メディア学部 松永
(2023.03.04)
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