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用語発明術

2024年2月14日 (水) 投稿者: メディア技術コース

 卒業論文や修士論文の審査の時期です。研究は何らかの新しいことを行い、最終的にはその内容をほかの人に伝えるための論文を書きます。このときに大事なのは、新しく考案した物事や概念に新しい名称を付けることです。
 
 今の時期いろいろな研究論文を読む機会があり、そのことを改めて感じています。「これに何か名前を付けた方がいいなあ」と思うことがしばしばあります。
 
 名前を付けた方がいい対象は大きな研究の名称だけに限りません。研究の中では、ほかの人がやっていない調査・実験やさまざまな道具やちょっとした考え方の工夫などが行われたり使われたりします。そういったことがらにも独自の名称を付けることによって、他の人にうまく内容を理解してもらうことができます。
 
 研究発表のときだけではなく、研究室の中で研究を進める際にも、よく使う概念に名前を付けておくことで議論の効率が高まります。
 
 良い名前を付けるのは大変です。条件として、
 
(1) 短い
(2) 対象物の特徴を具体的に表す
(3) そもそも何の一種なのかの前提を示している
(4) 対象物の利点ができればわかる
(5) 検索しても出てこない
(6) 誤解を生じさせない
 
などがあります。これら条件を満たす切れ味のある名前は時間をかけ、できれば複数人で議論して決めるといいでしょう。
 
 一つ事例をあげます。ある学生の研究論文の中で、2つの調査実験に「第1回実証実験」「第2回実証実験」という名称が付けられていました。この名前そのものを論文中でその後ほとんど使わないのであればそのままでいいでしょう。ところが実際には実験結果の記述や考察で何回もこれらの名称が呼ばれています。
 
 読む方としては「第1回ってどういうやつだっけ?」とか「あれ、どっちがどっちだっけ?」という混乱が生じます。議論の効率が悪くなるということになります。上記条件でいうと(2)が満たされていない名称です。
 
 「第1回」と「第2回」は同じ内容の実験だけど被験者が違っていました。「第1回」は若い世代で、実験で行う行動に慣れている人がほとんどという被験者グループで、「第2回」はもっと広い世代でその行動に慣れていない人たちも多いグループでした。
 
 であればその特徴を示す単語あるいは四字熟語を「第1回」や「第2回」の代わりに付けるといいでしょう。単に世代の違いだけでなく慣れているかどうかも示せる単語を使いたいですね。ただし、あまり説明的になると上記条件(1)を満たさなくなります。
 
 もう一つ事例があります。この文章の表題です。上記条件を概ね満たしています。
 
 良い用語を発明することで理解や効率が高まるのは研究だけではありません。専門性を含む活動全般でしばしば当てはまります。次回はそのような話をします。
 
メディア学部 柿本正憲

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