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2024年5月

点群データの問題と見せかけて透視投影の問題(続き)

2024年5月31日 (金) 投稿者: メディア技術コース

 前回記事の続きです。
 
 実世界を計測してxyz座標を得た点群データに対し、これを直接CG画像として描画する研究事例を授業で紹介しました。
 
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 この画像を見ると描画時の視点に近い方は点群がまばらに分布しています。一方遠くの方は密に分布し、画面上で一定サイズに設定した円盤状の点はすき間なく描画されています。なぜそのように見えてしまうのか、という問題でした。
 
 レーザーを照射した計測点の位置に対して、描画時の仮想視点が前方にありその視野角が計測時の視野角より大きいから、というのがその答えです。これを図示して考えてみます。
 
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 左の図のうち、白く描いたのはレーザー計測時のレーザー光線です。一定範囲の視野角の中で多数のレーザー光を照射しますがここでは6本だけ模式的に示しています。赤く描いたのは描画時に設定したカメラ(視点)位置から視界が拡がる様子です。長短の水平線は視界を区切るために設定する必要のあるクリッピング面です。
 
 右の図は描画時にシステムが実行する投影変換(透視投影)の結果です。ちょうど左図の視界の台形(逆台形)部分が正方形になるような空間の変換が行われます(もちろん実際には3次元空間でのことで、台形は四錐台に、正方形は立方体になります)。左の赤い線は「カメラ座標系」での視界で、右の赤い四角は「正規化デバイス座標系」(あるいはクリッピング座標系)での視界です。
 
 正規化デバイス座標系の図に付記した小さな矢印は視点からの視線の向きです。視点に近い方ではレーザー光線の間隔が大きく、遠い方ではその間隔が小さいことがわかります。
 
 各点群は必ずどれか1本のレーザー光線上の1点に位置します。視点からの距離によってレーザー光線の分布間隔が狭くなっていくことが、近くの点群はまばらに見え遠くの点群が密に見える理由です。
 
 点群の性質に関する問題のように見えて実は透視投影を理解しているかを判定することができる問題です。研究としての意味は薄いですが、3次元CG技術の教育上はたいへん興味深い問題と言えます。
 
メディア学部 柿本正憲

点群データの問題と見せかけて透視投影の問題

2024年5月29日 (水) 投稿者: メディア技術コース

 メディア学部3年次前期の専門科目「3次元コンピュータグラフィックス論」では毎週の授業で事前に履修生から質問を募り、授業時間ではその回答に時間を割いています。その質問の中で面白いトピックがあったので紹介します。
 
 その日の授業テーマは「モデリングシステム」です。その中で実物を直接計測してCGモデルを作成する技術をいくつか紹介しました。計測した点群情報を直接CG表示する事例として、メディア学部の演習講師でもある渡邉賢悟先生の研究を紹介しました。以下はそのスライドです。
 
 1_20240521164801
 
 これに対して次のような質問がありました。
 
『画像を見ると、端の方が中心に比べて点群の間隔が広くなっているように見えるのですが、レーザー計測には近い距離ほど計測しづらいという特徴があるのでしょうか?』
 
 私の回答は以下の通りです。
 
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 いいえ。
 
 計測点から一定間隔でレーザー照射向きの角度を変えながら計測します。むしろ遠くなるほど範囲が拡がり点群の間隔も広くなります。
 
 ではなぜ近い所がまばらになって見えるのか。ちょっと考えてみてください。
 
 これがわかった人は空間把握と分析の感覚が鋭いと思います。
 
 私も考え付くのに少し時間がかかりました。その理由はおそらく「計測した際のレーザー発生点よりも描画の際の視点がより前方にあり視野角も広いから」だと思います。描画時の視点に近い場所はより強く拡大され、結果的にまばらに見えてしまうのでしょう。
 
 授業中に板書で図示して説明します。
 
 この質問は、点群に関する知識や性質を問うというより、透視投影を理解しているかを問うクイズのようなものですね。興味深いです。
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 長くなりますのでこれの解説は次回とします。
 
メディア学部 柿本正憲

用語発明の重要性(続き)

2024年5月27日 (月) 投稿者: メディア技術コース

 2024年の正月は元旦に能登半島地震が起き、正月2日には羽田空港で航空機同士の衝突事故が起きました。
 
 直接の原因は海上保安庁の航空機が管制の許可が出ないうちに滑走路に進入したことです。そのため着陸してきた日航機と衝突しました。海保機が滑走路に進入した理由はその後のボイスレコーダー解析などで究明が進められ、対策も関係各方面で行われています。
 
 本稿は、この事故について報道を読むうちに、運航規則で使われる用語について私が持った違和感を述べるものです。当初はこの違和感が1月2日の事故の原因の一つではとも考えましたが、よく調べると関連は薄いと思い至りました。そもそも機長と管制官の交信は英語だし、訓練されたパイロットであれば用語の意味を誤解することは考えにくいです。しかしながら、重要な用語に違和感があることには変わりありません。ここでは、概念に名前を付けるという一般的な知的作業にまつわる一事例として考察してみます。
 
 私が違和感を持った用語は「滑走路停止位置」です。これは"滑走路の中にある停止位置"だという誤解を招く可能性があるのでは、という疑問です。
 
 国土交通省による航空保安業務処理規程によれば「滑走路停止位置(Runway-holding point)」は以下のように定義されています。
 
 『航空機又は車両が滑走路手前で停止及び待機する場所であって、当該滑走路に接続する誘導路上における位置。』
 
 滑走路「手前で」停止する場所であるにもかかわらず、「手前」が省略された用語になっています。初めて聞けば滑走路の中にある場所と誤解してもおかしくはないです。頻繁に声に出し安全にとって決定的に重要な用語が、第一印象として反対の意味を与える可能性を持つのは筋が悪いと言わざるを得ません。
 
 もちろん徹底的な訓練を受けた人たちは「滑走路停止位置」と聞けば反射的に滑走路手前であると認識することは疑いないことです。しかし、何らかの状況で集中が途切れているときに「滑走路停止位置」に対して、初めて聞く一般人と同じ誤解をして運航してしまう可能性はゼロとは言えません。交信は英語でも、runway-holding pointと聞いて日本語の用語を想起して誤解することも、集中が途切れた状態であれば考えられます。
 
 そのようなことを考慮すれば「滑走路停止位置」ではなく「滑走路進入停止位置」あるいは「滑走路手前停止位置」の方がよいかもしれません。用語が長くなるデメリットはあります。頻繁に使う用語であることを考えるとこのデメリットは大きいでしょう。それにも増して誤解を招く余地を皆無にすることを優先するのであれば、「進入」や「手前」という単語を挿入することは検討に値すると思います。
 
 前回のブログでは概念に付ける良い名前の条件として
 
(1) 短い
(2) 対象物の特徴を具体的に表す
(3) そもそも何の一種なのかの前提を示している
(4) 対象物の利点ができればわかる
(5) 検索しても出てこない
(6) 誤解を生じさせない
 
を挙げました。今回注目した「滑走路停止位置」は、上記(2)については「滑走路」「停止」という明確な単語が盛り込まれています。そして(3)については「位置」という単語で終えておりこれも明確です。(1)の短いというのは7文字なのでやや当てはまらないかもしれません。ただ(2)(3)の利点が大きいなかでは短く収めています。(4)(5)に関しては航空保安業務のマニュアルで使う用語であれば考慮の必要性が小さい条件です。
 
 問題は(6)の誤解を生じさせないという条件です。用語利用者は訓練を受けた専門家なので定義を明確にして繰り返し教育すれば誤解は生じない、という趣旨でしょう。しかし、言葉は常に理詰めで解釈されるという前提は危険な場合があることも事実です。もし上記で私が提案したように「進入」あるいは「手前」を挿入すれば(6)の条件もクリアします。ただし(1)の条件を棄損するため、検討時には(1)と(6)のトレードオフをよく考える必要があります。
 
メディア学部 柿本正憲

参考記事:
用語発明術(2024年2月24日)
用語発明術の重要性(2024年2月25日)

研究紹介:登場人物間の絡み可視化における変身や変装を伴う事例の分析

2024年5月24日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース

助教の戀津です。
昨日に引き続き、芸術科学フォーラムでの発表について報告です。

もう一件の発表は同じく絡みの可視化における、情報抽出時に迷う場面についての分析です。
タイトルにある通りですが、作品によっては登場人物が変身したり変装したりすることがあります。
変身する登場人物の変身前と変身後の姿は、あらかじめ変身について聞いていたり変身する瞬間を目撃したりしない限り、他の登場人物にとっては違う登場人物という認識になります。

つまり、変身前の本体とだけ絡みのある人物、変身後の姿とだけ絡みのある人物、両方の姿と絡みのある人物がありえます。
更に細かく考えると、両方と絡みがあってもその二つの姿が変身前後の同一人物だと知らない、という場合も考えられます。
(絡みの可視化においては会ってさえいれば絡んでいると考え、同一人物という認識の有無は問題にしませんが・・・)

この場合、可視化結果で〇で描かれる登場人物をどうするかが問題になります。
例として、仮面ライダーアギトの第一話・第二話を分析した結果を使い説明します。
主人公の津上翔一は仮面ライダーアギトに、警察官の氷川誠は仮面ライダーG3にそれぞれ変身します。
G3の方は警察組織としての動きで、基本的に変身前後で絡みはあまり変化しません。
しかしアギトの方は、翔一としての絡みとアギトとしての絡みは全く別になっています。

この場合に、翔一とアギトを同じ一つの〇で表すのは絡みの可視化上問題になります。
しかし、別の登場人物として扱い、二つの〇を出すと今度は別の問題が発生します。
次の図は翔一とアギト、氷川とG3を別の登場人物として可視化した場合の結果です。

Karami2

当人による変身という都合上、津上翔一と仮面ライダーアギト、氷川誠と仮面ライダーG3には絡みが全くないのです。
先ほど書いた通りG3の方はあまり絡みに変化がないので比較的近くに配置されていますが、翔一とアギトはかなり離れた配置になってしまいました。
これでは主人公の翔一が作品の本筋の一部である戦いに全く関わっていないような結果になってしまいます。

そこで、変身等複数の姿が登場する作品においては、それぞれを別の〇としながら、距離としては常に密着させるという方法をとってみました。
次の図は翔一とアギト、氷川とG3を繋げている場合の可視化結果です。

Karami3

翔一としての絡みとアギトとしての絡みを両立しつつ、それが同一人物であることもわかるような配置になりました。
現在は2人(4人)分しか密着させる処理を書いていないので(&変身後の姿で誰とも絡んでいないため)仮面ライダーギルスが浮いてしまっていますが、これも変身前の本体である葦原涼と密着させるとより正確な結果になると思います。

今後は任意の人数について変身前後の姿を密着させられる処理にする予定です。
近年の仮面ライダーシリーズやマーベル系の作品等、変身する人物が多くなっても対応できる必要があります。

現状困っているのは、三つ以上の姿がある場合です。コナンの登場人物で多重スパイをしている方々とか・・・
二つの姿は単純に距離を〇の直径まで縮めるだけですが、三つ(またはそれ以上)となるとどうやってつなげればよいか・・・
まだまだ研究することはいっぱいです。進展があり次第報告します。

研究紹介:登場人物間の絡み可視化における分類困難な事例の分析

2024年5月22日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース

助教の戀津です。
遅ればせながら、3月に行われた学会の芸術科学フォーラムでの発表について報告です。

今回は2件の発表をしてきました。どちらも登場人物の絡みの可視化に関する内容です。
絡みの可視化は、以前に発表してから期間が開いてしまいましたが、少しずつ改良を重ねてきた内容です。

アニメや映画などの作品において、登場人物同士が一緒に居た場面の抽出をします。
俗語的ですが、登場人物同士が一緒に居たり何かをしていることを「絡む」と表現することがあります。
冒頭のシーンから順番に、登場人物のうち誰が描写されているかを記録していくことで、「よく一緒に居る人物」を抜き出す試みです。

そして抽出した絡みの情報を、力学グラフという方法を使って可視化していきます。
よく一緒にいる登場人物同士、つまり絡みの多い登場人物同士が近くになるような可視化結果が得られます。
次の図は『美女と野獣』の絡み可視化結果です。

Karami1

ベルと野獣を中心に、ルミエール・コグスワースをはじめとする家臣達が近くに集まっています。
家臣たちの中でも特に絡みの多い上記二人が近くに来て、ポット婦人とチップは少し離れた位置になっています。
町の人たちは、終盤では城に集まり交戦しますが、それまでは町の人たち同士の絡みが中心のため城のメンバーとは離れた位置に来ています。

このように、絡みの情報を入力として力学モデルでの可視化を行うと、登場人物間の距離感のようなものを出力できます。
ただし、絡みの情報を抽出するという分析過程において迷う場面が生じることがあります。
前置きが長くなってしまいましたが、それが今回発表した研究のテーマです。

私の担当している先端メディアの科目で、色んな作品で絡みの可視化をしてみようと学生さんと共に分析をしてみました。
その際に、「このシーンはどうしよう・・・」という場面がいくつかあったので、そのような作品・場面についてまとめてみました。
例として、次のような場面では絡み情報の抽出で困りました。

・登場人物同士が入れ替わってしまった作品の場合
・登場人物がアバター等別の姿を持ち、アバター同士の絡みがある場合
・スター・ウォーズのストームトルーパー等、同じ姿で複数回登場するが実際には同一人物でない場合
・同行はしているけど一言も会話をしない場合

それぞれ色んな難しさがあります。
最後の例であれば寡黙な登場人物など、集団内にはいるけど孤立しているような描写があると「絡んでる」と言えるのか迷うところです。
そういった状況も含め、可視化のための情報抽出をどううまく行っていくかが課題となっています。
引き続き研究を進め、また進展があれば報告します。

AES “Audio for Games” 参加記

2024年5月20日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース

こんにちは。伊藤彰教です。

去る4月27日からの3日間、ゲームと音響に関する国際会議 “Audio for Games”が開催されました。数年前にLondonにて開催されて以降「次は日本で!」という企画はあったものの、世界的な感染症の影響で延期に延期が繰り返され、2024年の今年、ようやく東京藝術大学千住キャンパスにて開催されました。

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欧米・アジアなど世界各国から、ゲーム制作者、音響研究者など多様な背景を持つ方々が150名ほど集まり、国際色豊かな環境の中で活発な意見交換が行われました。

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「世界に発信する絶好の機会!」ということで、わたしたち東京工科大学メディア学部のゲーム研究・教育に関する取り組みを、音楽・音響面を中心に発表しました。英語ではありますが発表内容は論文としてオープンとなっていますので、ご覧いただければと思います。

さらにありがたいことに、東京藝術大学の先生方にお誘いをいただきまして、わたくしを含めて3名の先生方にて「大学におけるゲームサウンドの教育」というラウンドテーブルにも参加しディスカッションを行いました。 
 
わたし自身、本当に久しぶりの国際会議ということで緊張もありましたが、国際会議らしく会場からの質疑も盛り上がり、充実した発表となりました。特に、メディア学部の特色のひとつでもある「プロジェクト演習による実践教育」と「実技経験をもとにした高度研究への発展」という仕組みは、海外の教育機関からも注目を集めることができました。さらに「音楽・音響がゲーム教育・研究の中にしっかり組み込まれている」という事例は国際的にも珍しいとのこと。
 
三上先生・安原先生をはじめとする先生方と「国内にとどまらず国際的にも特色あるカリキュラムと教育環境の実現を!」ということを目指して日々努力しておりますが、その成果を海外の専門家の方々にも認めていただけることとなり、たいへん充実した発表機会となりました。
 
東京藝術大学では、数年前からゲームに関する教育・研究を徐々に深化させていることは知っておりましたが「数年後にさらに本格化させる大きな動きがある」との興味深い発表もなされました。そのような中で「東京工科大学が20年来継続している教育プログラムも大変参考になる」というありがたいコメントをいただくこともできました。
 
次回の “Audio for Games”が、いつ、どこの国で開催されるかはまだ未定ですが、次回は学生の研究発表の実現も目指して、ゲームサウンドの研究・教育をより一層深めていきたいと、決意を新たにする国際会議となりました。

デジタル時代のコミュニティ-3

2024年5月17日 (金) 投稿者: メディア社会コース

メディア社会コースの進藤です。

今週はデジタル時代のコミュニティについてお話をしていきます。

今回はその3回目です。

今回は,コンテンツファンのコミュニティについて述べます。

コンテンツビジネスを定義するならば,「人間の創作活動の成果,芸術作品として著作者が創作した著作物(たとえば,マンガの原稿,映像,ソフトウェア等)を核に,コンテンツ(たとえば,書籍としてのコミックス,映画,ソトウェア製品等),すなわち製品をコンテンツホルダ(出版社,映画会社など)がつくり,その製品を著作権法上の権利をもとに,戦略的に,様々な形態に変容させ,かつ,物語を拡張させて,多様なメディアに流通させること」ということができると思われます(進藤,2009)。インターネットやソーシャルメディアの発展により,コンテンツファンは受動的で孤立した存在ではなく,能動的で繋がりを持つ人々になりました。そして生活者のコンテンツに対する強い感情的愛着をうながし,そのことによって,さらに売上を増やす方向に考え方が重要になっています(ジェンキンズ,2021)。

<引用・参考文献>

進藤美希(2009)『インターネットマーケティング』白桃書房

ヘンリー・ジェンキンズ,渡部宏樹・北村紗衣・阿部康人訳 (2021)『コンヴァージェンス・カルチャー ファンとメディアがつくる参加型文化』晶文社

デジタル時代のコミュニティ-2

2024年5月15日 (水) 投稿者: メディア社会コース

メディア社会コースの進藤です。

今週はデジタル時代のコミュニティについてお話をしていきます。

今回はその2回目です。

今回はプロシューマーのコミュニティについて見ていきましょう。プロシューマー(prosumer)とはproducerとconsumerからなる造語で,生産と消費とを一体化し, 消費するだけでなく創造をも行う生活者のことを意味します(トフラー,1982)。

このプロシューマーのコミュニティの代表例として,フリー/オープンソースソフトウェアのコミュニティがあります。フリー/オープンソースソフトウェアは現代社会の重要なシステムに広く採用されているソフトウェアです。フリー/オープンソースソフトウェアは,企業のなかから生まれたものではありません。個人が生み出したものであり, ハッカーによる自発的な開発活動が,コミュニティを舞台にして行われています(井田・進藤,2006)。

<引用・参考文献>

アルビン・トフラー, 徳岡孝夫訳(1982)『第三の波』中央公論新社

井田昌之,進藤美希(2006)『オープンソースがなぜビジネスになるのか』毎日コミュニケーションズ

デジタル時代のコミュニティ-1

2024年5月13日 (月) 投稿者: メディア社会コース

メディア社会コースの進藤です。

今週はデジタル時代のコミュニティについてお話をしていきます。

今回はその1回目です。

コミュニティの形や役割は時代と共に変わってきました。20世紀半ばまでのコミュニティは,地理的に近くにいる人々と共に,食料の生産・獲得活動などを行うために形成するものでした。近くの地域の人々とコミュニティを形成していたのは,個人が自由に使えるメディアが未発達であったために,遠隔地にいる人々と連絡を取り合うことが難しかったためです。

しかし,インターネットの登場は,この状況を大きく変えました。インターネットほど,個人を一対一のみならず一対多,多対多でリアルタイムにつなぎ,多くの人が参加するコミュニティを円滑に運営可能にするメディアはありませんでした。インターネットは,コミュニティから場所の制約や古いしがらみをとりはらい,グローバルな広がりを与えました。

IVEC2024 榎本の発表

2024年5月10日 (金) 投稿者: メディア技術コース

さて、いよいよ発表のお時間となりました。

 

タイトルは、

Chronological Changes in the Form of Festival Preparation Works and their Influence on the Local Community Bonds

(祭りの準備作業の変遷が地域コミュニティの絆に及ぼす影響)

共著者は千葉大学の伝康晴先生です。

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お祭りの作業の簡略化が、コミュニティの結束も揺るがすのではないか?というお話です。

 

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11年間撮りためた膨大なデータを使って分析しますよ。

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  • 時間と労力のかかる作業
  • 辛くてしんどい作業

→ 「率先して自分が動く・手を抜かない・文句を言わない・おっさ(後輩)を慮る」ことをおっさ(後輩)が教わる

→ その後の生活でも、この気質が残る

 「祭りを終えて一人前の男」互いを思いやる心

→ 辛い裏方作業をこなした後に、祭りの爆発的な楽しさがある

ところが、

⇨ 作業の簡略化

⇨コミュニティ成員たちの絆や一人一人の心持ちを変えていくかもしれない

 

というお話でした。

 

質問1(司会者の方)「virtual miseumを作ると原稿には書いてあるが、それは具体的にはどういうものか?」

答え:11年間のビデオをたとえば自動で3DCG化して展示する、祭りの準備作業の等身大のCGの中に見をおけば、当時の激しさや辛さや人々の気持ちを追体験できる。特に野沢はスキー観光が盛んで、オーストラリア人や中国人や韓国人など海外からの来訪者も多い。そういった人々が祭りの雰囲気を追体験できるようになる。また、いつか祭りが廃れてしまっても、この時代の人々はこうやって生きていたのだという歴史的資料になる。

質問2(大淵先生) 「コミュニティの絆が変化したことをどうやって証拠立てるのか?」

大淵先生の学生さんが同じ部屋で発表していたので、大淵先生にも聞いていただけました。

答え:単に準備作業を撮影しているだけでは精神的な変化を追うのは難しいが、インタビューも併用することで随時内面の状態をモニターする。また、祭りの最後に感動して泣いている人が何人いたかなど数えることでも具体的な証拠になるのではないか。

 

お二方ともとても的を得た質問をしてくださったので、学会全体から見ればアウェイ感のあったこの発表ですが、なんとか収まりがつきました。ご質問いただいたお二人に感謝です。

IEVC2024 会場 Electrical Engineering Bldg.

2024年5月 8日 (水) 投稿者: メディア技術コース

メディア学部の榎本です。

 

さて、いよいよIEVC2024 会場 Electrical Engineering Bldg.へ到達します。

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宿泊ホテルから会場までも200mぐらいです。

国立成功大学電機工程学系という建物です。(成功大学というのは「成功するための大学」という意味かと漫然と思っていましたが、鄭成功の成功だったんですね)

とても広々としていて、気持ちの良い校舎でした。

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ここが発表する部屋です。

 

事前にプロジェクターのテストをしようとしたら、すべてメニューが中国語で無理でした。

受付にいたアルバイトらしき大学生の人にお願いして、操作を手伝ってもらって、無事投射できることを確認できました。

手元の画面に、プレゼンテーションモードの画面(スライドと読み上げ原稿がパソコンモニターに表示され、会場モニターにはスライドだけが表示される)にできることを確認したので、後は読み上げ原稿を書くだけです。

それでは、また明日。

 

台南へ到着

2024年5月 6日 (月) 投稿者: メディア技術コース

メデイア学部の榎本です。

前回の続きです。台北から台南市街へは、高鉄(台湾の新幹線)で高鉄台南という駅へ行き(切符をみると1時間46分)、そこからさらに、台鉄(普通列車)に乗り換えて、台鉄台湾駅というところへ行く必要があります。これが全体で2時間ぐらいです。

さて、いよいよ台鉄台南へ到着しました。

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台南駅周辺の地図です。右下の縮尺を見てもらうと、台南駅自体が600mぐらいあることが分かります。

予約しているホテルは、赤枠で囲った場所です。直線でいけば、200mぐらいでしょうか。

ところが、我々は駅の左側に出てしまったのです。左側の方が市街地の中心地なので、電車を降りた人がみなそちらに出ていったのでそれに着いていってしまったのです。

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駅を迂回して歩きます。歩道もでこぼこしていて、スーツケースを引きずりながら、延々と歩きました。

ホテルに着いた時にはクタクタでした。時間も18時ごろになっています。学会には間に合いませんでした。

 

ホテルは、成大會館 <zendasuites@gmail.com>というところで、学会側が推奨してくれた宿です。

部屋はとても広く、シングル使用ではもったいないぐらいです。

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高層階で眺めも素晴らしい!

 

気を取り直して、夕飯を食べに行きたいと思います。「台湾といえば夜市、夜市といえば台湾」と言われるぐらい、毎日お祭りのような屋台がひしめく夜市が展開されています。曜日によって、どこの夜市が開催されているのかが変わってきます。行くときには検索してください。検索でひとつ注意点は、(私もやってみて初めて気づいたのですが)「台南 夜市 曜日」とか検索すると、台湾語(中国語)のサイトしか引っかかりません。中国のインターネットに繋がっているので、現地語が優先されるんですね。「台南 夜市 曜日 いつ 開く」とか、ひらがなを含む検索ワードを入れないといけません。

で、この日、開催されていたのが「大東夜市」というかなり大きくて有名な夜市でした。

さすがにもう歩けないので、バスで移動です。

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大きな広場に無限に屋台が出店しています。何を食べようか悩みに悩み、四川料理とかモンゴル料理の羊の串焼きとかになりました。

ちなみに後で気づいたのですが、我々が居たのは大東夜市ではなく、大東東夜市でした。

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大東夜市の横に併設されているのが大東東夜市だったのです。両方、行ってみましたが、そんなに変わりはありませんでしたね。

 

よし、明日は会場へ行くぞ!というか、発表しないと!

物語における「日常」という機能

2024年5月 3日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース

こんにちは。メディア学部の兼松です。

私が担当しているプロジェクト演習「シナリオアナリシス」では、ストーリー分析の方法などを解説する座学パートがおわり、現在、受講生がそれぞれ選んだ作品の分析に取り掛かっているところです。

メディア学部では今年度の1年生から新カリキュラムになり、プロジェクト演習の履修可能数が変わりました。その影響か、もともと聴講生が多かったシナリオアナリシスもほとんどの学生が履修生になり、また受講人数自体もだいぶ増えました。しかも、今年の1年生は特に意欲的で、授業時間内に全員分のディスカッションがおわらないという、ある意味嬉しい悩みを抱えてる状況です。

さて、そんな1年生たちですが、物語を分析する際に苦戦しているポイントに共通点が見えてきました。それは物語に含まれる「日常」というフェイズ(物語に含まれる機能)についてです。

大抵の映画では、大小様々なストーリー、エピソードが複雑に絡み合っています。例えば刑事物の映画だったとしても、最初から最後までずっと事件の捜査をしているわけではなく、中には同僚との確執、ヒロインとの恋愛など、様々な要素が含まれています。これらの毛色の異なるエピソードを視聴者に見せる順番は、究極的には制作者側の自由です。しかし、無秩序に見せていっても、視聴者側は「一体どんな話なのか、何が起こっているのか」理解できません。そこで制作者側は、伝えたいテーマやストーリーを理解してもらえるように、エピソードを出す順番をよく考えて工夫しているのです。この工夫の一貫として、多くの映画では、まず最初に主人公の人物像、主人公を取り巻く環境、世界観などを伝える場面から始まります。私たちはこれを「日常」フェイズと呼んでいます。

ただ、この「日常」という言葉がなかなか厄介ですね。

私は最近時間の合間に、「ダンテズ・ピーク」という映画を見ました。1997年の映画なので今の大学生からしてみれば、だいぶ古い映画ですね。この映画は簡単に言えばパニックもので、火山の噴火という自然災害から様々なトラブルに見舞われながらもなんとか生き延びる、という内容が描かれています。ちなみに映画の途中に画面が激しく明滅する場面があるので、もしご覧になる際は注意してください。

この映画では、冒頭でいきなり火山の脅威から逃げ惑う人々が描かれます。主人公も火山の噴火によって飛んでくる岩から逃げ惑う姿が描かれますし、しかも主人公の恋人はこの飛んでくる岩の犠牲になって亡くなってしまいます。

平和に暮らしている我々の感覚からすれば、こんな地獄のような場面を「日常」とは感じられなくて当たり前です。

ですがこの映画では、こういった経験をしているからこそ、仲間に反対されながらも火山の危険が迫っている人々や街に貢献しようとする主人公の姿が描かれます。ですので、描かれている事象自体が我々の日常からかけ離れていたとしても、「視聴者に対して、まず主人公の人物像を説明する」という意味で、物語における「日常」の機能を果たしている場面だと考えられるのです。

こういったことは始めて物語を分析しようとする1年生にはなかなか難しいですね。シナリオアナリシスでは、学生の皆さんが好きな物語において、何が「日常」なのか、何が「異変」なのかなどをディスカッションできればいいなと思っています。興味がある方はぜひ受講してください。

プロジェクト演習デジタルキャラクターメイキング(2024年度前期)

2024年5月 1日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん、こんにちは。メディア学部の兼松です。

今年度の授業も始まり、今は14回中2〜3回終えたところですね。
私が担当しているプロジェクト演習デジタルキャラクターメイキングもちょうど最初の座学パート、キャラクターを作るにあたって知っておいてほしい前提を学ぶ部分が終わったところです。

デジタルキャラクターメイキングは、簡単に言えばアニメやゲームなどに登場するキャラクターの作り方を学ぶ演習です。
しかし、「キャラクターの絵の描き方を教えてもらえる」ような授業ではありません。
アニメやゲームのキャラクターは、作品にこめられたテーマやストーリーを視聴者・ユーザーに伝える役割を担っています。したがって、外見以上に内面もしっかり作りこんでいかなければなりません。したがって、内面を中心に設計しつつ、内面に合わせて外見も考えていく、といった形になっています。

さて、私が担当しているプロジェクト演習はこのキャラクターメイキングと、シナリオアナリシスの2つがありますが、どちらも基本的には半期ごとに同じ演習を繰り返し開講する形をとっています。つまり、1年生からスタートして徐々にレベルアップしていくというよりは、どの学年のどの学期から始めても良いことを重視しているということです。
すでにどちらの演習も10年以上(私がまだ本学の学生だったころから)続いていますが、もともとアニメやゲームなどを制作する他のプロジェクト演習をメインでとりながら、シナリオやキャラも並行して学びたいという学生が多かったからです。
実際、私の演習では履修者よりも聴講者のほうが多い傾向で、多い時は受講生の8割が聴講でした。これはもともとプロジェクト演習は同時に1つしか履修登録できないという縛りがあったからですね。

しかし、今年度の1年生からは新カリキュラムが始まり、状況が少し変わってきました。
新カリキュラムについては、大学WEBサイトで紹介されていますので、そちらをご覧ください。
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/curriculum2024.html

プロジェクト演習に関するところだけ簡単に言えば、同時に2つ取れるようになったのですが、これによってデジタルキャラクターメイキングでは、例年よりもだいぶ受講生自体が増えました。それだけでなく、ほとんどの学生が履修登録をしたそうです。
もともと数人の履修生+残りは全部聴講生という状況が完全に逆転した形です。
もちろん、新入生が入ってくる前から、履修が増えるだろうなぁと予想して準備していたのですが、さすがに完全に逆転するとは思っておらず、ちょっとびっくりしました。

また、今年は今の段階から年度末のアニメジャパン出展を目指したいと言っている学生がいたのも、例年と少し違うところですね。
もともと私のプロジェクト演習は半年ごとに受講生が入れ替わることと、どちらのプロジェクト演習も文字情報を主体的に取り扱うことから、なかなかこう言ったイベント出展に落とし込むのが難しい面があります。ですが、せっかくですので良い形で出展できるように、これから学生と一緒に計画していきたいと思っています。
私のプロジェクト演習では、特に継続して受講している学生(半年だけでなく、何度も参加している学生)については、各期の最初に「今期はどういうチャレンジをしたいか」ということを相談しています。プロジェクト演習では、通常の授業と違って、こういった個別指導に近いようなカスタマイズも臨機応変にやりやすいのも魅力だと思っています。

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