メディア学部の榎本です。
人工知能学会全国大会(第38回) [2024/5/28-31 in 浜松]で発表してきました。
会場はアクトシティ浜松という巨大な施設です。残念ながら到着した日は台風の影響で、頂上が霞んでいますが、45階だての巨大なホテルに併設されています。コングレスセンター、イベントホール、研究研修センター、音楽工房ホールなど様々な建物で同時並行でA会場からT会場の19箇所あり、到底すべてを見て回ることはできないほど盛況でした。
とにかく、手動でどこを見るか書き出す(汗)じつは、大会プログラムからスケジュール登録すると、自分の参加するセッションが一覧になって、予稿集までくっつけてくれるというすばらしいシステム(アプリ)が存在することをこの時は知る由もなし。
翌日は見事な晴天。こちらホテルの部屋(39階)からの景色です。奥の方に海も見えます。
私の発表は5/30の以下のオーガナイズドセッションです。
OS-22 知・情・意—AIが人間研究になるための哲学
オーガナイザ
- 諏訪 正樹(慶應義塾大学)
- 藤井 晴行(東京工業大学)
内容
外界に相対してひとが働かせる心身作用には知・情・意がある。漱石(1978)によれば「知を働かす」とはものごとの関係を明らかにすること、「情を働かす」とは関係を味わうこと、「意を働かす」とは関係を改造することである。岡潔(2022)で、「わからないものに注目しているとき既に情的にはわかっている。情的にわかっているものを知的にわかることが発見である」と述べ、「知」の根底に「情」があると示唆する。そして、生きた自然(「情」)という基盤の上に各個体の自由(「知」)があり得るのに、自然科学は法則で説明できる「知」だけを調べ、物質が常にその法則を満たしているという不思議(「情」)は調べないことを批判する。
この言説はAI研究の未来を探るヒントになる。「数・データになりやすいものごと」だけを調べ、技術的に可能なことの都合でシステムやツールを導入するのではなく、数・データになりにくいものごとにも眼差しを向け、情報処理研究を脱却し人間研究になることを目指すのがよい。
この問題意識を議論するため、本OSは、岡潔の『数学する人生』を一読の上、それに紐づけて自身の研究や思想を論じる投稿を募る。一般発表の後にパネル討論も行う。
本OSのテーマとしては、身体性認知、状況依存性、生活知、創発、身体図式、フレーム問題、相互行為分析、フィールドワーク、コミュニケーション、アクチュアリティ、ゲームAI、現象学、デジタルヒューマニティーズ、文化人類学などが挙げられる。
私の発表は以下です。
共同体の成員となるための祭り〜共同体〈心体知〉を得る
〇榎本 美香1、伝 康晴2 (1. 東京工科大学、2. 千葉大学)
キーワード:共同体〈心体知〉、共同体の成員、価値観、見識、倫理観
本研究では、祭りの準備作業の中で獲得される共同体〈心体知〉が、自身がその共同体の一員であるという強い自覚を芽生えさせることを示す。共同体〈心体知〉とは、成員たちがもつ価値観・見識・倫理観といったエートス(心)、成員間で力や身体配置の配分が必要な協働活動技法(体)、縄の結び方や祭りのしきたりといった共有知識(知)である。それらを知らない成員が見習いとして祭りの準備活動を覚える中で、先達の知恵を知り、想いを知り、自身が長い村の歴史を繋ぐ一輪であることを自覚していく様を示す。
例によって野沢のお祭りのお話です。発表後の質疑応答は以下でした。
質問1(K先生)「重機などの機械を導入したりして祭りのやり方が変わっいくことで(変えたくない派閥と変えたい派閥のような)
人々の間に確執は生まれないのか?」
答え1「基本的には村で最も偉い惣代さんに決定権がある。若い人が変えたいと申し出ても、惣代と村の評議委員たちが相談して変えない、という結論になれば変えられない」「惣代さんには誰も逆らえない」
質問2(O先生)「コロナ禍を挟んでいったん祭りが不開催となったことがどのように〈心体知〉と共同体意識の相互依存システムに影響を与えたのか?」
答え2「コロナ禍の真っ最中に1学年だけ全く祭りが開催されない年があったが、彼らが可愛そうということで、惣代さん達が相談して、これまで3年単位でメンバーを入れ替えていたが、1年単位で入れ替えるようシステムを変更し、祭りが開催されたなかった人たちが次の年の祭りの主役になれるようにした。なので、1年休止しただけで、一学年ずつ受け継がれている伝統は耐えなかった。開催されなかった年のことを考えると、やはりその会の人たちは全く集まれなかったし、飲み会や食事会もなかったので、寂しそうであった。次の年、自分たちもできることになり、とてもうれしそうであった。祭りの準備という口実で同い年の人たちが集まって作業したり飲んで騒ぐということが、共同体意識の育成の土壌となっていると考えている」
質問3(O先生)「できたことだけが共有されるのではなく、できなかったこととそれに対する心情などが交友されるプロセスは興味深い」
答え3「たしかに。受け継がれている〈心体知〉に着目しがちだが、受け継がれない〈心体知〉もある。何が契機で廃れてしまったのかを調べるのも面白い」
以上。