AIを使ったアウトプットって、不安にならない?
2026年8月19日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース
本ブログをご覧の皆様,こんにちは.
メディア学部教授 菊池 です.
最近、学生たちと話していて興味深いことがあります。
彼らは当たり前のようにAIを使っています。
レポートを書くときも、企画を考えるときも、プレゼン資料を作るときも、まずAIに相談することが珍しくありません。
私自身もAIを活用していますし、授業でもAIを積極的に活用するよう勧めています。
ですから、私はAI活用に否定的ではありません。
むしろ、これからの時代にAIを使わない方が不自然だと思っています。
しかし、学生たちと話していると、ときどき気になる言葉を耳にします。
「これでいいんですかね?」
「なんとなく不安なんです」
「自分で考えた気がしないんです」
私はこの感覚がとても興味深いと思っています。
AIを使うことで効率は上がりました。
以前より短時間で質の高い成果物を作れるようにもなりました。
それなのに、なぜ不安になるのでしょうか。
今回は、その不安の正体について考えてみたいと思います。
AIを使うことは悪いことなのでしょうか
まず最初に誤解してほしくありません。私はAI活用そのものに反対ではありません。
むしろ積極的に活用すべきだと考えています。
実際、AIは非常に優秀です。
情報収集、文章作成、アイデア発想、画像生成、プログラミング支援など、多くの場面で人間を助けてくれます。
私自身も日常的に利用していますし、研究や授業の準備でも欠かせない存在になっています。
学生がAIを活用することも、ごく自然な流れでしょう。
問題なのはAIを使うことではありません。
私が気になっているのは、AIを使った後に感じる「モヤモヤ」です。
なぜか疲れる
心理学や認知科学の分野では、考え続けることで生じる精神的な疲労を「認知的徒労感(Cognitive Fatigue)」と呼ぶことがあります。
通常、私たちは「AIを使えば楽になる」と考えます。
実際、それは間違っていません。
しかし、AIを使うことで別の種類の負荷が生まれることがあります。
AIが生成した文章を読む。
その内容を理解する。
本当に正しいのかを判断する。
自分の考えと比較する。
必要に応じて修正する。
一つ一つは小さな作業ですが、実はかなり頭を使っています。
そのため、「以前より楽になったはずなのに、なぜか疲れる」
という感覚が生まれることがあります。
私自身もAIを長時間使った後に、同じような感覚を覚えることがあります。
これは単なる疲労ではなく、AIとの対話によって生じる新しいタイプの認知的負荷なのかもしれません。
完成したのに満足できない理由
もう一つ興味深い概念があります。
心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感(Self-Efficacy)」です。
簡単に言えば、
「自分にはできる」
という感覚のことです。
人は試行錯誤しながら課題を解決したとき、
「自分でできた」
という経験を積み重ねます。
その結果として自己効力感が高まります。
しかしAIが大部分の作業を代行してしまうと、成果物は完成しても、
「自分がやった」
という感覚が弱くなることがあります。
レポートは完成した。
企画書もできた。
プレゼン資料も作れた。
しかし、「本当に自分の力だったのだろうか」という感覚が残る。
私は、この感覚が不安の一因になっているように思います。
成果物への満足感と、自分自身への納得感は、必ずしも同じではないのです。
不安の正体はAIではないのかもしれない
ここまで考えていて、私はあることに気付きました。
もしかすると、不安の原因はAIそのものではないのかもしれません。
AIはあくまでも道具です。
ハンマーや電卓と同じように、人間を支援するための存在です。
では、なぜ不安になるのでしょうか。
私は最近、「AIを使う前」と「AIを使った後」
に原因があるように感じています。
AIを使う前に考えているでしょうか
例えば学生にレポート課題を出したとします。
AIに質問すれば、それらしい文章はすぐに出てきます。
しかし、その前に
「何を明らかにしたいのか」
「なぜそのテーマを選んだのか」
「自分は何を知りたいのか」
を十分に考えていなければ、どれだけ良い文章が出てきても納得感は得られません。
実は、私はAIと壁打ちをしながら考えを整理すること自体は、とても良い使い方だと思っています。
学生の中にも、AIに質問を投げながら考えを整理したり、自分のアイデアを広げたりする人がいます。
それは決して悪いことではありません。
むしろ、AIを思考整理のパートナーとして活用していると言えるでしょう。
大切なのは、AIに考えてもらうことではなく、AIを使いながら自分で考えることなのだと思います。
AIを使った後に考えているでしょうか
もう一つ気になることがあります。
AIの出力を受け取った後です。
私たちは、ときどきAIの答えをそのまま受け入れてしまいます。
しかし、本来であれば、
「本当に正しいのだろうか」
「別の考え方はないだろうか」
「自分ならどう考えるだろうか」
と問い直す時間が必要です。
AIが優秀になればなるほど、この作業は重要になります。
なぜなら、人間は正しそうな答えほど疑わなくなるからです。
メタ認知という力
心理学には「メタ認知(Metacognition)」という概念があります。
簡単に言えば、
「自分自身の思考を客観的に観察する力」
です。
私は、AI時代に価値が高まる能力の一つが、このメタ認知なのではないかと思っています。
AIの答えを見る。
その答えに納得する。
しかし、そこで終わらず、
「なぜ自分は納得したのだろう」
「なぜ違和感を覚えたのだろう」
と考える。
この一歩が非常に重要です。
不安は悪いことではない
ここまで書いてきて、私は少し安心しています。
なぜなら、AIを使った後に不安になることは、必ずしも悪いことではないからです。
もしAIの出力を無条件に信じ込み、何の疑問も抱かなくなったとしたら、それは少し危険かもしれません。
しかし、
「これでいいのだろうか」
「本当に正しいのだろうか」
と感じるのであれば、まだ考えることをやめていません。
その違和感は、自分自身で判断しようとしている証拠です。
私はむしろ、その感覚を大切にした方が良いと思っています。
おわりに
AIはこれからさらに進化していくでしょう。
そして、多くの作業を人間の代わりに行うようになると思います。
しかし、その中で価値を失わないものがあります。
それは、
「何を考えるか」
「なぜそう考えるのか」
「その結果をどう評価するのか」
という人間の思考そのものです。
私は最近、
AIを使うことそのものよりも、
AIを使う前と後に何を考えているのかの方に興味があります。
もしかすると、AI時代に本当に重要なのは、AIの性能ではなく、人間の思考との向き合い方なのかもしれません。
文責:菊池 司
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