研究紹介

学生・若手のためのAESジャパンフォーラム2023

2023年12月 8日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース

こんにちは。伊藤彰教です。

AES(オーディオ・エンジニアリング・ソサエティー)東京工科大学メディア学部の関わりについては、10月にもこのブログにてご紹介しましたが、今回はさらなる続報です。

AESの学生支部では例年、秋のシーズンに制作・研究の成果と、学校間、産学の交流を目的として<学生・若手のためのAESジャパンフォーラム>を開催しています。ここ数年はコロナ禍もありオンラインでの開催でしたが、対面発表が復活する2023年度の今年は東京工科大学八王子キャンパスにて開催されました。わたしたちの大学が会場になるのは初めてのことです。

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名古屋芸術大学、洗足学園大学、東京藝術大学など、日本全国のから音響制作・音響研究を学ぶ学生さんたちが一堂に会し、ポスター発表やオーディオデモを中心に、熱気あふれる交流会となりました。

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このフォーラムは、AESの学生会員の中の有志が主体的に運営しており、運営委員会自体が貴重な大学・専門学校の学生同士の交流の場や社会活動の場となっています。2023年度の今年はなんと、運営委員会メンバー内で東京工科大学メディア学部からの参加人数が最多とのことで、「東京工科大学メディア学部は音楽・音響制作を学べる大学」ということを広く他大学、特に音大の方々にも認めていただくきっかけにもなりました。以下は会場運営に勤しむメディア学部生のみなさんです。

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フォーラム参加者は、学生だけではなく、音響研究で著名な他大学の先生方や放送・音響業界の方々も多く来訪しました。伊藤彰教研究室の立体音響設備でも、名古屋芸術大学をはじめとして様々な大学で制作された音響作品を展示するとともに、こうした専門家の方々にも、本学の音響研究の一端を知っていただける機会となりました。

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運営だけではなく、研究発表についてもメディア学部生が頑張ってくれました。exSDプロジェクトメンバーと、プロジェクト演習「オーディオエンジニアリング」の合同制作による<音源包囲型マルチマイク録音>というレコーディングテクニックとサウンドは、立体音響作品の中でも新鮮なものとして好評をいただきました。

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大学間の学生トークイベントでは「インタラクティブ・オーディオの未来」というテーマで、東京藝大からはMPEG-Hなどを中心とした次世代マルチチャンネル立体音響配信などの取り組みや、洗足学園大学からは舞台芸術・ミュージカルなどと立体音響の取り組みなどが紹介されるなか、メディア学部の学生さんからは、ゲーム制作に関連する音響デザインや制作についての提案がなされ、若者らしいトピックで活発な意見交換や提案が展開されました。(恥ずかしながら、わたくしもゲストトーカーとしてちょこっと参加させていただきました)

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本学学生にも、そして他大学の学生さんたちも、久しぶりの対面によるフォーラム開催はおおいに刺激になったようで、この日以降も活発な交流が継続しているようです。今回関わった学生さんは、2年生・3年生が中心となっており、今後も継続的な活動が期待できるようです。音楽・音響を全国規模の交流の中で学べるメディア学部として、教員としても最大限の応援を続けたいと思います。ともあれ関わった学生のみなさん、本当におつかれさまでした!

2023年12月 8日 (金)

音楽情報処理の国際学会<CMMR>にて留学生が研究発表

2023年12月 6日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース

こんにちは。伊藤彰教です。

わたしたちの研究室では、ITを活用した音楽制作の研究を行う学生も所属しています。そんな学生のひとりに、パラグアイからの留学生がいます。フルネームが非常に長いため、ニックネームである「アレくん」としてご紹介します。アレくんは母国にて一度社会人を経験したあと、日本の音楽大学に1年ほど研究生として滞在したのち、本学メディアサイエンス専攻の大学院生として入学しました。

彼が取り組む研究は、機械学習を活用した音楽生成。特にハープや琴などを「じゃらららん」と奏する、グリッサンドやアルペジオの生成を中心に熱心に取り組んできました。

このブログの読者であれば、機械学習による音楽制作はホットなトピックであることはご存知かと思います。こうした最先端の音楽情報処理研究の国際的なカンファレンスのひとつにCMMR (Computer Music Multidsciplinary Research) があります。この会議が2023年に東京で開催されるよい機会であり、アレくんの大変な頑張りもあってめでたく査読が通り、発表のために参加することができました。

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飯田橋の東京理科大学会場にて行われた<CMMR2023>には、ドイツ、フランス、スペイン、イギリス、台湾、韓国など、世界各国から100名以上の参加があり、久しぶりに対面開催になったCMMRは、非常に国際色豊かな雰囲気のなか、熱気あふれる議論がそこここで行われていました。廊下での雑談も、フランス語、ドイツ語、スペイン語、英語が飛び交い、私自身も「久しぶりに国際会議に来たなぁ」という実感がふつふつと湧いてきました。

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アレくんの発表は「ポスター&デモ発表」というセクションにて行われ、実際に生成した音楽フレーズを多くの方に聞いていただけました。アレくんは母国語はスペイン語で、日本語が流暢であるのはもちろんのこと、英語も非常に堪能で、3ヶ国語を上手に使い分けながら、自らがとりくむ研究について多くの国の人たちに伝えていました。

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アレくんの言語能力、プログラミング能力、そして音楽についての深い造詣は本当に素晴らしいのですが、それらの能力の有無に関わらず、音楽は文化を超えて直観的に伝わるメディアということもあり、音楽生成のデモを実際に聴いてもらうことで研究ディスカッションが大いにもりあがりました。世界中の研究者との刺激的な意見交換を踏まえ、さらなるシステムの向上にむけて意欲を燃やすアレくんです。

「ところでサウンドデザインの研究室なのに音楽も研究できるの?」

という疑問があるかと思います。

サウンドデザインという広い活動を示すひとつのサブ分野として<フィルム・スコアリング>といった音楽創作分野があり、映像音楽・ゲーム音楽などが代表例として挙げられます。こうした創作活動の基盤研究として、ITを活用した音楽制作や音楽ツール開発も含んで研究活動をしています。

最新情報としては、統計的手法や機械学習を用いた楽曲分析によるアルゴリズムを、ゲーム音楽に応用する研究テーマにかかげたフランスからの研究生もプロジェクトの仲間入りを果たしました。

国際的な環境の中で、サウンドの研究も、音楽の研究も、柔軟に行き来できるのがメディア学部のひとつのメリットであるといえましょう。

2023年12月 6日 (水)

研究紹介:視聴履歴の共有によるジェネレーションギャップの可視化

2023年12月 4日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース

助教の戀津です。

今回は、以前にも紹介したジェネレーションギャップビューアのお話です。
前回の記事でも最後に少し触れていたのですが、ユーザー登録と視聴作品の登録方法について紹介します。

https://contents-lab.net/ggviewer/
こちらのアドレスからアクセスすると、まずは年表が表示されます。年表上にはデータベース内の各作品がシリーズ別に放映年の位置に表示されています。
ドラッグドロップやマウスホイールで動かしたり拡大・縮小できますので色々操作してみてください。

右上の「ユーザー追加」ボタンから、ログイン・ユーザー登録・年表上への情報追加が可能です。
初めての方はユーザー登録を、登録済みの方はログインをしてユーザーページへ移動できます。

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ユーザーページでは、データベース内の各作品について、あなた自身が視聴したものを選択することができます。
表形式で一覧を出しているので、視聴済みの作品について左端のチェックボックスをチェックにしていただければ入力完了です。

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作品はたくさんあるので、検索欄も準備してあります。図では「プリティー」と入力してみた結果を表示しています。
入力した文字列で各情報を検索するので、プリティーシリーズの各作品と、ウマ娘シリーズがヒットしました。
他にも放送年(2023等)を入れて絞り込むことも可能です。

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こうして入力した情報は、年表上に反映されます。ログイン済みのユーザーであれば、年表ページに戻ると自身の生まれ年からの年表が表示され、視聴済み作品に色が付きます。

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ユーザー追加ボタンから他ユーザーのユーザー名を入力すると、その方の年表と視聴済み作品が色つきで表示されるので、自身の年表・視聴作品と比較ができます。
共通の話題が見つかったり、視聴していたシリーズの他の作品の様子を聞いたりと色んな活用ができると思います。
私自身色々試しましたが、複数人で視聴履歴を持ち寄るだけで結構楽しいです。
「無限にオタクトークができる」という評価を頂いたこともありました。

ユーザー登録は本名である必要なく、半角英数で作成をお願いしているのでSNSのidで作成し、SNSで共有するのも楽しいかも知れません。
私のおすすめ作品リスト!みたいな活用法も考えられますね。是非やってみてください。

2023年12月 4日 (月)

2023年度学会報告/見通し

2023年11月10日 (金) 投稿者: メディア社会コース

2023年度学会報告/見通し

今年度の学会は、現地参加が増加してきました。一方でオンライン併用も多く、参加者増加が期待されます。当研究室では、現時点で4名参加し、今後、例年に準じて以下の参加を予定しています。

情報文化学会北海道支部研究会(北大5月→中止)

ビジネス科学学会全国大会(明治大学617日→筆者参加、学生不参加)

日本地域政策学会第23回全国研究東京大会(東洋大学78~9日→遠隔開催1名参加)

情報コミュニケーション学会第10回社会コミュニケーション部会(三重県総合文化センター7月29日→現地、遠隔参加各1)

情報文化学会関東支部会(本学八王子キャンパス85日→現地参加1)

情報文化学会全国大会(遠隔1118日→不参加)

社会情報学会第一回中国四国支部会(島根大学1223日→1名参加予定)

ビジネス科学学会九州支部会(中村学園大1216日→筆者参加予定、学生不参加)

情報文化学会九州支部研究会(2023.211日→未定)

社会情報学会第二回中国四国支部会(香川短期大学2022.3月→未定)

情報文化学会関東支部会(2023→未定)

第20回情報コミュニケーション学会全国大会(2023→未定)

今年度これまで参加した学会について紹介しましょう。まず、日本地域政策学会にはM君が7/3~9に渡りポスター発表をWeb掲示という形式で参加しました。次に、情報コミュニケーション学会社会コミュニケーション部会には、2名の学生が参加しました。U君は三重県津市にある三重県総合文化センターに現地参加し、S君は遠隔で参加し、それぞれ口頭発表を行いました。情報文化学会関東支部会は、東京経済大学の稲垣先生が支部長を務められていますが、今回本学八王子キャンパスでの開催となり、I君が口頭発表を行いました。

さて、情報コミュニケーション学会社会コミュニケーション部会には、筆者と本学非常勤の本田先生(関東学院大学)も現地で参加しました。会場の総合文化センターは、JR近鉄津駅からバスで10分ほどの、広大な敷地の中にある大規模施設でした。

余談ですが、三重県津市といえば、1970~80年代に活躍した大関琴風(元尾車親方)の出身地です。新入幕を果たした1977年に、当時無敵の横綱北の湖(まともに四つに組んで相撲を取れる相手は横綱輪島ぐらいしかいなかった)を正面から寄り切った一番は衝撃でした。しかし、その後本場所取り組み中に二度の大怪我を負い、幕下まで陥落しました。大怪我から奇跡の復活を遂げた力士といえば現在では横綱照ノ富士を思い浮かべますが、琴風もまさに不屈の力士でした。当時、元最高裁判事も「彼は人生の師である」とテレビのインタビューで述べていたことが思い出されます。

(榊 俊吾)

2023年11月10日 (金)

3年次卒研、2年次ゼミの紹介

2023年11月 8日 (水) 投稿者: メディア社会コース

3年次卒研(2024年度)、2年次ゼミの紹介

去る6月に2024年度ゼミ生の配属が決まりました。まだ暫定段階ではありますが、3年生の研究テーマについて紹介しましょう。例年、配属の際に研究計画書の提出を義務付けてはいますが、まだ具体化しているとは言えない段階です。しかし、来年度もまた楽しみなテーマが並んでいます。テーマを見る限り、ネット関連だけではなく、伝統的な産業に関する調査研究もあるようです。

SNSにおける伸びるファッションアカウントについて

日本警察の現状と今後の展望orアニメと地域振興(2テーマ思案中)

映画業界の現状と展望

日本自動車企業における海外生産販売に関する研究

アニメ産業が及ぼす社会への影響

映画を中心とした新たな収益源の獲得方法

ゲーム業界にストリーマーが与える影響について

スポーツの国際大会における放映権料の費用対効果

商品への写真による印象の影響

テレビ業界の動向と今後の対策

また、今年度秋学期には、相当程度の成績実績のある2年次生を対象に開講される「先端ゼミ」に2名の学生からの受講希望が来ました。筆者の担当するゼミは、専門的な論文の輪読を手始めに、併せて将来に向けて自分の研究も実施するという、体力的にも大変負担の大きいものです。このため、開講以来1名しか受講者がいません。

しかし、2名とも大変意欲的で、受講を決意しました。自主研究のテーマは、「声優業界」と「音楽業界」に関するものです。現在輪読を行なっているところですが、二人とも、論文をよく読み込み、十分な補完調査も行っており、報告、討論ともに大変充実しています。こうした調査研究に関する方法論の習得を通じ、二人の今後の自主研究成果に大いに期待が持てます。指導側では、来年2〜3月に開催される学会での報告機会を準備しようと思っています。大変期待しているところです。

(榊 俊吾)

2023年11月 8日 (水)

2023年度卒研の紹介(経済経営調査研究)

2023年11月 6日 (月) 投稿者: メディア社会コース

本日11月6日より、8日、10日の3回を担当します。第1回の本日は「2023年度卒研の紹介」、8日は「3年次卒研生(2024年度)、2年次ゼミ生の紹介」、10日は「2023年度学会報告/見通し」です。

 

2023年度卒研の紹介

2023年度卒研生の研究テーマを紹介しましょう。当卒研では、およそ社会/経済/ビジネスに関するものであれば、ほぼ制約なく、学生の最も興味のある対象をテーマに選択しています。本年も多彩なテーマが挙げられており楽しみです。

近代麻雀の発展と経済効果

アパレル業界の近年の変化と今後の展望

エシカル消費における第三者機関認証ラベルと独自基準ラベルの差異について

コロナ禍におけるTCG業界の現状とこれから

プレミアスニーカー市場の現状と展望

eスポーツプロチームの研究

クリープハイプの歌詞の特性

現在のアニメ産業について

声優業界の現状と展望

男性化粧品についての研究

例年、夏学期は就職活動も佳境に入り、研究に時間を割くことが難しい時期でもあります。しかし、毎日30分、1時間でも調査を行い、事項を引用とともに記録し、自分の仮説を追加し、時にそれまで収集した資料集同士の関係を整理していくと、自分の研究の方向性が見えてくる瞬間が訪れます。毎日の小さな努力が実を結ぶ、これが人文社会科学系学問の特徴であると思っています。夏休みもとうにすぎ、この間の努力の成果が見え始めてきたように思います。11月に入り、そろそろ着地点(結論と今後の展望)を見据えた、今後の取り組みに期待しているところです。

(榊 俊吾)

2023年11月 6日 (月)

深層学習の落とし穴

2023年11月 3日 (金) 投稿者: メディア技術コース

渡辺です。ブログはしばらくご無沙汰してしまっておりました。今回は、「深層学習」(Deep Learing)について思うところを書いていきたいと思います。

「深層学習」とは、元々は脳の神経細胞(ニューロン)の仕組みを倣った「ニューラルネットワーク」と呼ばれる理論体系がベースとなっています。詳しい話はここでは省きますが、ニューラルネットワークの仕組みをより多層に構築し、さらに学習を実現するための様々なアイデアが盛り込まれています。2015年、深層学習を用いて開発された「AlphaGo」というシステムが、当事の囲碁の世界最高棋士に勝ったことで有名となりました。それ以後、様々な応用に用いられていますが、有名なものとしてはヒントとなる文章から画像を自動生成する「Stable Diffusion」などの画像生成AIや、日本語や英語などの自然言語による質問にやはり自然言語で回答する「ChatGPT」があります。

これらの技術があまりにも衝撃的であるため、様々な分野で深層学習が注目されています。実際に成果が挙がっていなくても、「深層学習を用いた」というだけで注目されているということも、たまに見受けられますね。

それはともかくとして、最近よく感じるのは「学生が研究で安易に深層学習に手を出す」ということです。深層学習は確かに凄い理論であることは間違いないのですが、有用な成果を挙げることは決して容易ではありません。深層学習をプログラム内で用いる方法は、検索すればすぐに出て来ますし、自分のPCにインストールして簡単に動かすことができます。それを実体験した学生が、「自分でもまったく新しい成果が挙げられるかも」と期待するのは無理もありません。しかし、そこに落とし穴があります。

実際のところ、深層学習が有効に働くには多くの「コツ」が必要となります。入力データをどのように揃えるのか、パラメータや評価関数をいかにうまく設定するか、どのような深層学習理論を用いることが適切なのか、どういったデータを出力することで有用性が出せるのかなどなど、様々な要因があります。こういったことは、決して「試しに触ってみた」というレベルで身につくものではなく、平たく言えば「深層学習を使う練習と実践」が必要になるわけですね。ですが、研究で深層学習を利用したいという学生のほとんどは、実際にはほぼ未経験の状態なことが多く、なかなか思い通りの成果が挙がることはありません。「何か変な画像が出力されてしまいました」という状況ならまだマシで、大抵は「そもそも出力が得られてない」という段階で終わることも多いようです。

また、深層学習を利用する手法だと、うまくいかないときにどうすればいいのかの判断が非常に難しいという特性があります。深層学習を用いない、演繹的な手法だと、うまくいかないときもどの部分が悪いのかを検討する余地があります。しかし、深層学習だと「どうすればよくなるのかさっぱりわからない」となってしまうことが結構あります。

深層学習を研究に取り入れること自体については、非常に有効となる可能性はあります。ただ、それならば事前に深層学習についてよく理解しておくことが重要だと思います。

(メディア学部教授 渡辺大地)

2023年11月 3日 (金)

メタバースの中の音をメタバースの外で聴くために

2023年10月25日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース

こんにちは。伊藤彰教です。

VTuberをはじめとして、バーチャル空間内での音楽ライブ配信や声優トークイベントを楽しんでいる方も多くなってきたかと思います。現実空間では未成年だと入れない「クラブ」をVR空間内に作成し、自宅などから安全に音楽を楽しめる空間として、VRchatなどで盛んに制作が試されるようになりました。

当たり前すぎて見過ごされがちですが、こうした音楽や声を楽しむ仮想空間の構築に「音」の存在は欠かせません。音はどうやって仮想空間内に配置し、どのような形で視聴者にお届けすればよいのでしょうか。

ここで、現実空間においての音楽やトークイベントについておさらいをしてみます。

Sound Reinforcement (サウンド・リインフォースメント, SR)は、一般の方から「PA」と呼ばれている作業の専門用語です。イベント会場に巨大な、あるいは多数のスピーカを配置して、マイクや楽器の音量・音質のバランスを調整して、会場に適切な音を届ける仕事です。よく音楽のライブ会場で、観客席のまんなかあたりに機材がたくさん並んでいて、なにやら難しそうな操作をしている方々を見かけると思います。これらの方々のお仕事としては、当日の仕事だけではなく、何か月も前から会場の音響を計算してシステム設計を行い、限られた時間で説明・サウンドチェック・リハーサルをこなします。当日はステージ上の演奏家・実演家とともに「リアルタイムで同じステージを完成させる」ことになりますので、実演家としての素養も必要となります。

SRの責任者は、実演時間はFOHと呼ばれる場所にいて、時々刻々変化する音に対応する操作をします。FOHはFront of House(フロント・オブ・ハウス)の略で、たいていは観客席の中のどこかに陣取ります。こちらは、お客さまの位置から「いま、どんな音がしているのか。調整するとしたらどの音をどのように変化させるか。」を常にチェックするお仕事なので、ファンが音楽に没頭して楽しむのとはまた別の、冷静な判断力が要求されます。

バーチャル空間が「空間」である以上、ライブ空間・トークイベント空間もまた、仮想空間内でのSR、つまり音の調整が必要であるのは自明でしょう。ここで音響制作者としては、いろいろと考え込んでしまいます。

  • 仮想空間内でのFOHってどうすればいいんだ?
  • どこからなにを聴くことで音を調整すればいいんだ?
  • 仮想空間内での聞こえ方をチェックするのは仮想空間外なのだが果たしてそんなシステムがあるのか?

などなどです。

こうした問題を一気に解決するのはまだまだ先になりそうですが、誰かが少しずつ課題を小分けにして、できることから取り組まなければいつまでたっても先にに進みません。伊藤彰教としては、このような課題に取り組むのも、サウンドデザイン研究・オーディオエンジニアリング研究のひとつだと考えています。

exSDプロジェクト所属の大学院生である村上輝さんは、コロナ禍真っただ中の学部生時代からネット配信のシステム構築や番組制作などを多数経験し、大学院生になった現在ではその経験からネット配信企業のインターンにも積極的に参加して、現場経験も深めてきました。その彼が行きついた課題は「バーチャル空間内に多数存在する音源のバランス制御などをするためには、まずそれらの音をバラバラに、現実世界でモニタリングできないと話が始まらない」という点でした。

この課題にアプローチするため、通常の音響機器やアプリだけではなく、メディアアートのためのツールを応用するなど大学らしい先端的な発想と実装力を元に、音声モニタリングツールを開発し、東京ゲームショウ2023の出展に関わる様々な配信でテストを重ねました。ここでえられた知見をもとに日本デジタルゲーム学会2023年夏季研究大会にて研究成果を発表しました。おりしも特集テーマが「eSports」とのこともあり、ゲーム本体・プレイヤーのほかに、eSportsを支える重要な要素のひとつである「ゲームの試合イベントを配信する」という業務の観点から、しかも音の研究ということで注目を集めました。

この研究で、指導する側としても若者らしい興味深い点だと感心したのは、いわゆる「正確な物理シミュレーションだけでは、お客さまは満足しないだろう」という発想を研究に盛り込んでいることです。リアルイベントの会場に足を運んだ時は、様々なブースから漏れ聞こえてくる全体的なざわめきが「ああ、イベントに来たんだなぁ…」という実感を醸し出します。一方で、あるブースでイベントが行われた際には、お客さまは「意図的に他からの音を意識から排除し、お目当てのイベントの音をなんとか拾おうとする」という主観的な聴き方をしてしまう点も考慮して、研究を進めているようです。

また、ディジタルテクノロジーによる仮想空間では、FOHは必ずしも客席のどまんなかに設置する必要はなく、必要に応じて自在に配置できますし、音の大きさも必ずしも距離減衰の公式に当てはめる必要はなく「心情的・主観的に特定の音を選別して聴いている」ような、いわば「演出音響空間」を構築できるのがメリットです。これらをモニタリングするためのシステムとして、発展が期待されます。

メタバース、デジタル・ツインなど、今後も仮想空間での新たなメディア・コンテンツ・イベントが生み出され続けるが予想されます。現実空間だけではなく、仮想空間でも、実演家と視聴者を上手に結び付けられる「メディア」としてのサウンドデザインを担ってくれる、そんな若手研究者がメディア学部・メディアサイエンス専攻(大学院)に在籍していることを、頼もしく、心強く思います。

(画像はVTuberのトークイベントを想定したライブ配信番組の様子です)

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2023年10月25日 (水)

AES学生支部活動へのメディア学部生の取り組み

2023年10月23日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース

こんにちは。伊藤彰教です。

今日はAES(オーディオ・エンジニアリング・ソサエティー)という団体と、メディア学部の学生さんの活動についてご紹介したいと思います。

Audio Engineering Societyは、レコーディング、ミキシング、SR(サウンド・リインフォースメント:一般にはPAなどと呼ばれます)など音響制作を行う制作者や、音響機器・ソフトウエア開発などを行う産業界の方々と、音響工学や知覚研究を行う大学や研究所の方々が集う国際的な組織です。本部はニューヨークにあり、2023年の今年で設立75周年とのことです。

グローバルに広がる組織なので、地域や国でローカルチャプター(支部)があり、AES日本支部は世界的にみても活動が盛んな支部として知られています。社会人向けにも多数、世界の音響テクノロジーに関する最先端の潮流や、基礎音響を学ぶセミナーなどを開催しており、近年ではゲームオーディオへの取り組みなども広く紹介しています。これらのセミナーには、音響業界を志す大学生、専門学校生なども多く参加しています。

さらに日本支部の下部組織として、AES日本学生支部があります。こちらは学生主体で年に1回の研究・制作発表会と社会人との交流会を実施しています。こちらは昨年2022年のフォーラム開催の様子です。学校教員や社会人はあくまでサポートにまわり、熱心な学生さんが主体となって自主的に運営されています。

メディア学部としては長いこと、あまりご縁がありませんでしたが、コロナ禍真っ只中の2020年から本格的に発表を行う機会を得ることとなり、オンライン発表という不利な状況のなか、立体音響制作について様々なメディア・テクノロジーを駆使しながら上手に発表していました。メディア学部らしく、ゲームにおける立体音響制作の試みについても2021年に発表をしていますこうしてここ数年で、メディア学部の学生さんたちにとってご縁が深くなってきたAESですが、昨年度から学生支部の運営にも関わるようになり、メディア学部に在籍することで単に音響技術を学ぶだけでなく、他大学の学生さん達と関わることでの社会性も深められる機会をもてるようになりました。

こうした中、2023年の今年、AES日本支部が設立70周年ということもあり、都内某所で記念パーティーが開かれることになりました。幸いなことに学生さんも出席歓迎ということで、本学のみならず、多数の大学や専門学校の学生さんたちもあつまり、賑やかな交流の場となりました。

教員であるわたし自身も、ご縁が深くなったのはコロナ禍以降だったので、他校の学生さんの様子はまったくうかがい知ることができなかったのですが、それは学生さんも同じことだったようです。若い世代が、地域や学校を超えて音について楽しげに語らう時間は本当に見ていても微笑ましく、学生さんたちにもよい刺激になったようです。他大学の先生方からは「東京工科大学さんは、本当に多くの学生さんが会員として活動していて、いまや一大勢力ですね」と称されるほど、音響制作について取り組む大学として知っていただけたようです。

パーティーでは、学生支部企画の「学校紹介ショートプレゼン」が催され、東京工科大学からはメディア学部exSDプロジェクト(伊藤彰教研究室)3年の三浦海響さんが、メディア学部の音楽・音響の研究や演習の紹介を立派につとめていました。特にメディア学部の立体音響制作への取り組みは、出席していた産業界の方々にも注目していただき、学生さんと企業の方との出会いを円滑にしてくれました。現状ではあまり具体的なことは書けませんが、企業の方からのお誘いで、学内ではなかなかできない貴重な体験の機会をいただく学生さんも増えたようです。

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最新情報では、どうやら2023年(今年)の学生・若手フォーラムは11月下旬に開催されるとのこと。会場はどこなのか、どのような発表企画を行うのか…。学生さんのさらなる自主的な取り組みについて、教員としても楽しみにしながら、頼もしい学生主体の活動を見守っていこうと思います。

2023年10月23日 (月)

オープンキャンパスでの言語メディア研究室の研究紹介

2023年8月30日 (水) 投稿者: メディア技術コース

2023年8月6日と20日に開催されたオープンキャンパスに言語メディア研究室も参加し、言語メディアに関する研究紹介を行いました。両日とも、当研究室で現在進めている10個の研究テーマについて来場者の皆様に紹介しました。12枚のポスターを展示するとともに、大型ディスプレイでデモも実施しました。

 

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8月6日に研究紹介してくれた研究室メンバーです。

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8月6日は、大型ディスプレイを使って、小説を分析する目的と手順について詳しく説明しました。

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8月20日は、大型ディスプレイを使って、広東語を楽しく学べるゲームアプリケーションを来場者に体験してもらいました。5つの項目のそれぞれで5問ずつ、計25問の問題が出題されます。広東語の単語や文に関して、文字列を見たり発音を聞いたりして正しい選択肢を来場者に選んでもらいました。

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20名以上の方にゲームアプリケーションを体験していただけました。そのうち、25問すべてに挑戦してくれた方のスコアを「広東語スコアボード」に記録しました。ホワイトボードに、来場者のハンドルネームとスコアを記録していきました。オープンキャンパス終了後に最高点を確認したところ、最高点は23点/25点でした。中国語や広東語に特に詳しいわけではない高校生の方がベストのスコアでした。おめでとうございます!
現在、このゲームアプリケーションは改善を続けています。来年の春ごろに研究発表することを予定しています。詳細については、その研究発表を楽しみにお待ちいただければと思います。

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8月20日に研究紹介してくれたメンバーです。片付けの時の写真です。

 

猛暑であったり、時々激しい雨が降ったりする中、八王子キャンパスまでご来場くださり、オープンキャンパスにご参加くださった皆様、誠にありがとうございました。
(文責: 松吉俊)

 

2023年8月30日 (水)

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