社会

ChatGPTの爆発的なブームの観測法としてのGoogle Trends (Part1)

2023年5月19日 (金) 投稿者: メディア技術コース

新しいメディア学の研究テーマに取り組んでいる全国唯一の健康メディアデザイン研究室の千種(ちぐさ)です。人体を健康メディアとしてとらえメディアを活用して自らの健康をデザインしたり、多くの人たちに役立つ健康改善するための健康アプリを制作するための研究を行っている研究室です。

現在、生成AIとしてChatGPTが世界じゅうの国、学校、企業、人々を巻き込んだ大ブーム・大論争になっていますが、皆さん個人としてはどうでしょうか?大ブームと大論争といって定量的に測定できるのは大ブームですので今回はその大ブームの様相について話していきたいと思います。

物事を検索するときにGoogle検索を使用するようになって久しいですが、Googleのサービスとして、Google検索のキーワードの検索数の経年変化を観測することができるGoogle Trendsというものがあります。Wikpediaによると以下のような説明があります。

Google Trends(グーグルトレンド)は、ある単語がGoogleでどれだけ検索されているかというトレンドをグラフで見ることができるツール。公開は2006年5月10日。日本版の公開は2008年10月28日。
[概要]
Google Trendsでは、入力した単語の検索数をグラフで示してくれる。このときその単語に関連したニュースを見る事ができ、特に検索数が多いときに何があったのかが分かるようになっている。特定の国、期間に絞ったグラフを見ることもでき、また世界中の都市や国、言語毎にどこでの検索が最も多いのかのランキングも提供される。さらにコンマで区切ることにより複数の単語のグラフを比較することも可能である。
リアルタイムの検索トレンドとして急上昇ワードを見ることができるだけでなく、検索キーワードから1年を振り返るなどで、長いスパンでの検索トレンドから毎日のニュースまで幅広く知ることができる。

実際に、分かり易い例として以下のWebアプリ、Webサービスの検索数を使ってみます。
1.Google(1996年~、月間利用者数7億人)
2.Facebook(2004年~、ユーザ数29億人)
3.Youtube(2005年~、月間利用者25億人)
4.twitter(2006年~、月間利用者5.5億人)
5.Instagram(2010年~、月間利用者数20億人)
6.LINE(2011年~、月間利用者1.9億人)
7.TikTok(2016年~、月間利用者数10億人)
8.ChatGPT(2022年~、1億人)

まず、ChatGPTと新興SNSの比較を2004年から現在&世界中で実行してみます。
8.ChatGPT、4.twitter、5.Instagram、7.TikTok、の順です。2010年前後にtwitterとInstagramがブームになってきて、その後にTikTokが2019年にブームの始まりといった感じです。そしてChatGPTは右下で少しだけ変化が見えますが、世界を代表するSNSと比較してその位置が分かるくらいの利用数(検索数)なのでそれなりにインパクトがあります。


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左記の例では国内トップのLINEの情報がありませんでしたが、LINEも追加して比較してみます。LINEの利用が年々減少しているように見えるのは、Google検索全体が増えていて、相対的にLINEの割合が減っているためです。そして注目のChatGPTですが、ちょうど2023年4月にLINEとほぼ同等の検索割合になったことが分かります。去年の秋にリリースされたChatGPTがLINEと同等になっていることはすごいことですね。

 

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2023年5月19日 (金)

メディア学部とサクラ:インターネット上のサクラを見破る

2023年4月 8日 (土) 投稿者: メディア技術コース

新しいメディア学の研究テーマに取り組んでいる全国唯一の健康メディアデザイン研究室の千種(ちぐさ)です。人体を健康メディアとしてとらえメディアを活用して自らの健康をデザインしたり、多くの人たちに役立つ健康改善するための健康アプリを制作するための研究を行っている研究室です。

新年度になり桜前線も東北を駆け上っているようですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?本学も無事に桜が散り始める中、入学式を終えてフレッシュな1年生がキャンパスにやってまいりました。前回と前々回にメディア学部とサクラという話題をさせていただきましたが、今回はメディア学部にとっての桜(サクラ)の完結編です。

今回はインターネット上のサクラを検出する仕組み、見破る仕組みについてです。既にサービス提供されていて、簡単に商品の口コミのサクラ度合を調べることができます。サクラチェッカーというサービス(https://sakura-checker.jp/)です。

実際に、『3in1 充電ケーブル USB ケーブル 3A 急速充電 充電コード』を購入したのですが、そのケーブルに2つの問題点があり、そのことをサクラと関連付けて調べてみて、検証を行いました。

まず、上記の3種類の充電コネクタがあり、急速充電もあるケーブルを探していました。検索して見つけたケーブルには3千件を超えるレビューがあり、評価が5段階中4の製品で、十分と思って購入しました。購入して、急速充電の機能を電流計で測定してみると、通常の充電速度でした。またコネクタの形状が丸いため、スマートフォンケースによっては干渉して、ケーブルが接続できない状態になります。

この2点だけでもそれなりに問題ですが、なぜ3千件ものレビューがあるのに5段階中4評価なのでしょか?

それは明らかにサクラの存在です。販売企業が高いレビューを書くサクラを募集し、多くの評価が4or5のサクラレビューが集まったからです。実際にサクラチェッカーで調べてみると、5項目のサクラである確率(サクラ度)が
 95%:①価格&製品
 65%:②ショップ情報&地域
 35%:③ショップ評価
 95%:④評価分布/件数
 35%:⑤評価/口コミ日付
となっていて、一方、サクラでないという安全度は
 0%:評価本文&評価者
という結果になりました。①価格からみても製品カテゴリーから見ても、②ショップ情報から見ても、④評価の分布や件数から見てもサクラである確率が高いということになりました。ということでこのようなサービスを企画する点にもインターネットビジネスの新しい側面の一端を見ることができます。

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2023年4月 8日 (土)

食とソーシャルデザイン

2023年3月21日 (火) 投稿者: メディア社会コース

日本の食料自給率は主要先進国のなかでも最低の水準であることは知られています。例えば農林水産省の発表によれば、2021年度(令和3年度)の日本の食料自給率は38%(カロリーベースによる試算)と、日本で食べられているもののうち、38%が国内で生産されたもので、残りの62%は海外からの輸入に頼っているということになります。 海外依存度が高ければ高いほど、輸入元の国が不作になってしまったり、戦争などの情勢によって輸入ができなくなったりすると、途端に食料不足になってしまうため危機を覚える人も多くいます。

しかし、日本には伝統的な農業において世界でも類に見ない貴重な例が多く、地域社会に根付いて生産されているケースも多いです。今回は

静岡のケースを紹介します。静岡には世界農業遺産・日本農業遺産に選ばれたわさびの生産地や原木しいたけの発祥の地があります。

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わさびとしいたけの原木

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世界的にもスローフードが注目され、地球環境にやさしい農業の重要性が指摘される中、どのように地域社会やグローバルなつながりをデザインしていくかが重要です。本学のソーシャルデザインプロジェクトでもフェアトレードや国内の食に関するテーマを扱っています。SNSなどメディアを使っての情報発信の在り方も考えていく必要がありそうです。

分責:飯沼瑞穂

 

 

2023年3月21日 (火)

江戸の和算のたしなみ(7):和算から明治の西洋数学へ

2023年3月 5日 (日) 投稿者: メディア社会コース

これまで“江戸の和算”(算数・数学)ということで長々と綴ってきましたが、今回が最終回です。そうなると、江戸時代から明治維新後の日本の算術・算法の進展にも関心が向きますよね。

和服から洋服に、和食から洋食にというような流れはスムーズでした。一方、和算から西洋数学(洋算)への移行はそうそう簡単ではありませんでした。

その理由の一つは、数学の概念や変数・式表示に起因していると目されています。下表は数式表示の比較の例です。大陸由来の漢字表記に馴染んできた江戸時代の和算が西洋数学に順応するのには、それなりの時間が掛かりました。

そのような事情を克服して、現代日本の数学は確立されています。

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文責: メディア学部 松永

2023.03.05

 

2023年3月 5日 (日)

江戸の和算のたしなみ(6):算額よもやま話

2023年3月 4日 (土) 投稿者: メディア社会コース

算額についてはすでに説明しましたが、今回は算額の雑学的なことをお話します。

まず、日本の算額数についてです。現存する算額の数は、9001000面(面:額の単位)と言われています。しかし、江戸期の文献に記録されていて現存しないものも合わせると、25002600面が作られていたものと見込まれています。

では、現存する算額の日本全国での分布はどうなっているのでしょうか。様々な資料に基づくと、都道府県のくくりでは福島県が最も多く、100110面ほどあるとされています。2番目に多いのは岩手県、3番目に多いのは埼玉県で、ともに約90面です。それに群馬県、長野県と続きます。

上位だけ取り上げると一見東高西低ですが、日本全国津々浦々に算額は存在します。それでも、関東北部から東北にかけて現存するものが多いことが窺えます。これにはいくつかの理由が考えられていますが、一番の理由は和算文化の東方移動です。江戸の初期こそ上方(京都・大阪を中心とする近畿圏)が文化の中心でしたが、和算が庶民に定着するのはもう少し後の時代で、その頃には江戸を含めた東日本が文化の中心になりました。

では、なぜ江戸(東京)が算額の所蔵数で上位に来ないのでしょう。これは容易に想像が付くと思いますが、震災や戦災で失われたものが多いからと考えられています。一説には、失われた算額を加えて集計すると、東京には380400面の算額があったと見込まれています。このデータからも、算額の分布が東高西低という傾向がより窺われますね。

次に、算額と世界遺産との関係についてです。算額を神社仏閣に奉納する風習があったわけですが、日本の世界遺産に登録されている場所にも算額は保存されています。

2011年に世界遺産に登録された“平泉の文化遺産”の一部である岩手県の中尊寺には3面が確認されています。次の図はその中の一枚です。画質が粗く見づらいかもしれませんが、幾何の問題が出題されていることが見て取れますね。

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(出典:http://www.wasan.jp/iwate/chusonji3.html)

 

その他に、広島県の厳島神社や京都府の清水寺などの世界遺産にも、原本あるいは復刻版が飾られています。今後、神社仏閣を訪れるときには、算額があるかを尋ねてみるとよいでしょう。写真撮影が許されれば、結構インスタ映えするような写真が撮れると思います。

次回はこのシリーズの最終回ですのですので、明治維新後の和算の歩みについて話をしたいと思います。

文責: メディア学部 松永

2023.03.04

2023年3月 4日 (土)

江戸の和算のたしなみ(5):算木による一次方程式の解法

2023年3月 3日 (金) 投稿者: メディア社会コース

皆さん、突然ですが、一次方程式13x8190を解いてください。なんてことはないですね。ただ単に81913で割るだけで、答えはx=63です。おそらく筆算を行ったことと思いますが、そのプロセスを頭に入れておいてください。

では、算木を使って解いてみます。使う算盤は前回出てきたものです。上の“百・十・一”は各位を表します。右の“商・実・方”ですが、今回の(実質的な)割算計算では、“商”は答えを格納するところで、“実”には被除数を、“方”には除数をそれぞれ入れます。

①が初期状態です。被除数はマイナス符号も含めた-819を入れます。ですので、黒木を用います。除数13は赤木を用いて表します。

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さて、ここからは割算をするときのプロセスです。算木を移動したり、入れ替えたりするので、複雑そうに見えますが、実際には皆さんが最初に行った割算の筆算と同じで、それを算木で表したにすぎません。まず、②ですが、ここは“方”の13を左に一つシフトしているだけです。そして、縦に並ぶ()8113に着目し、81から13の算木を取り除きくという手続きを、もう(13が)取れないというところまで繰り返します。そうすると、5回まで13の算木を取り除けて、“実”の十の位に()3が残ります(8313131313133)。③はその状態を表しています。“商”の十の位には5を入れます。

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次に④ですが、ここは“方”の13を右に一つシフトしているだけです。そして、ここは先ほどと同様で、縦に並ぶ()3913に着目し、39から13を繰り返し取り除いていきます。結果として、3回取り除いたところで、“方”からの算木がきれいに無くなりました(391313130)。⑤はその状態を表しています。“商”の一の位には3を入れます。これで解が63であることがわかりました。

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西洋数学を学んできた私たちにとっては一瞬の手続きも、算木を使うとかなり面倒そうに見えますね。ただ、当時の和算においては、これは効率的な解法だったのです。今回は極めてシンプルで実質的な割算である一方程式における算木・算盤の活用法を紹介しましたが、二次方程式も算木で解くことができ、そのための算盤もあります。興味のある方は調べてみるとよいでしょう。

次回は、再び算額について話をしたいと思います。

文責: メディア学部 松永

2023.03.03

2023年3月 3日 (金)

江戸の和算のたしなみ(4):算木とそろばん

2023年3月 2日 (木) 投稿者: メディア社会コース

算木(さんぎ)もそろばんも大陸由来の計算用のメディア用具です。

まず、算木についてです。その歴史は古く、奈良・平安の時代には存在していたとされています。日本の算木は、当時の中国で数えるために用いられていた“算ちゅう・ぜい竹”(おみくじや占いでよく見る細長い棒のイメージ)をもとに作られました。割り箸を半分か1/3に折ったくらいの長さの棒(木片)と考えるとよいでしょう。

なお、算木を計算器具として用いるためには、厳密には3点セットが必要です。プラス(増加)を表す赤の算木、マイナス(減少)を表す黒の算木、そしてそれらを置く盤面です。数の表現については、時代によって若干異なります。次の表は、正の19までの数の表記で、縦棒1本が“1”を、横棒1本が“5”をそれぞれ表します。

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これにより、次のように数が表現できます。

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ただ、これだと位(くらい)の境界がわかりづらいですね。そこで、複雑な計算をするときには升目の入った盤面を使ったりします。それを算盤と言います(算盤はそろばんの意味でも使われるので少し紛らわしいですが…)。次の算盤は1次方程式を解くときに使う算盤の一例です(上段の位の単位は現在のものに調整しています)。具体的な使い方は、次回お話しします。

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次に、そろばんについてです。そろばんに類するものの歴史は、算木以上に古いです。古代バビロニアで開発されたアバカスと、シルクロードで結びついていた古代中国の算ちゅうが融合して誕生したと言われています。アバカスは位を表す各溝に小石を並べるもので、わかりやすさはありますが、注意してないと小石がこぼれたりするという問題がありました。一方、算ちゅうは小さな数えるのには適していたものの、やはり位取りの問題で大きな数に必ずしも対応できないという難点がありました。そこで、小石の中央に穴を開けてそれを算ちゅうに串刺しにすれば(串団子のイメージ)、小石がバラバラになることもなく位取りもわかりやすいということで、そろばんの原型が生まれたとされています。

次回は、和算における算木を用いた巧みな算法を紹介します。

文責: メディア学部 松永

2023.03.02

2023年3月 2日 (木)

江戸の和算のたしなみ(3):著名な和算家

2023年3月 1日 (水) 投稿者: メディア社会コース

以前説明しましたが、和算は江戸時代を中心に発展した日本独自の算術です。では、どのような人が先導していったのでしょう。次の図は、江戸時代初期~中期の代表的な和算家の系譜です。この図を参照しながら説明します。

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和算の道を切り開いた人は、毛利重能と言われています。彼は江戸幕府が開かれる少し前に明(中国)に行き、算術を学ぶとともにそろばんを持ち帰りました。そして、そろばんの計算の簡便さに魅了され、江戸時代初期に京都でそろばん塾(天下一割算指南所)を開いたのです。当時はまだ、今の京都や大阪の方が文化の中心でした。戦乱のない安定した江戸時代は商いが盛んになり、様々な商売計算(今でいう代数計算)が必要でした。そのような事情も相まって、毛利重能のそろばん塾は活況を呈しました。毛利は1622年に「割算書」を出版します。ここには、そろばんによる割算や測量などについて記されていて、現存する日本最古の数学書と言われています。

次に第2世代です。毛利重能には、吉田光由・高原吉種・今村知商という3人の優秀な弟子がいました。いずれもその後の和算の発展に大きく貢献したのですが、ここでは吉田光由について紹介します。彼の最たる業績は、1627年に当時の数学の教科書ともいえる「塵劫記」を執筆したことです。この本は、かな交じりで記されていて、また実用性を重視していることからベストセラーとなりました。ある復刻版の大まかな構成は次のようになっています(現代風の表現にしています)。実際には、この上中下巻に計48個の学習単元があります。

  • 上巻:数量と度量衡、そろばん算術、米に関する計算、両替・利息、…
  • 中巻:売買(商売)、求積(面積・体積・容積)、普請関係、…
  • 下巻:測量、積(つもり)算、日常諸算、開平算・開立算、…

続いて第3世代です。この世代になると和算家も増えてきますが、和算初期の最大の功労者である関孝和を取り上げます。毛利や吉田・高原・今村が築き上げた和算(文化)を学問体系にまとめ上げたのが関孝和と言っても過言ではありません。彼は数多くの和算の名著を残しています。最初の著書は「発微算法」(1674年)で、ここでは代数方程式の解法を紹介しています。のちに一部ミスが指摘されましたが、関の弟子が修正したとされています。次なる著書は「解伏題之法」(1683年)で、代数のレベルが一段上がり、現代私たちが学ぶ行列式のようなものも出てきます。関の代数処理は、それまで用いていた算木(次回話す予定)による計算をかなり簡便にしました。また、彼は代数のみならず解析にも多くの成果を残していて、楕円の面積や周の長さを求める方法などを発見しています。ちなみに、関孝和はヨーロッパで微積分学を確立したニュートン(イギリス)やライプニッツ(ドイツ)と同時期の生まれです。異国の地にありながら、同世代の3人が解析を研究していたというのは興味深いところです。

次回は、算木とそろばんについて話をしたいと思います。

文責: メディア学部 松永

2023.03.01

2023年3月 1日 (水)

江戸の和算のたしなみ(2):娯楽としての和算と算額

2023年2月28日 (火) 投稿者: メディア社会コース

まず前回の問題1の答え合わせから始めましょう。様々な解法が考えられますが、相似の性質を上手く利用すると、意外とあっさり解けてしまいます。ここで、問題の図に次のようにA~Mの頂点ラベルを振ってみます。すると、△ABC∽△EJC∽△KGC(※ ∽は相似の記号)であることにすぐに気付きます。さらに、三角形ABCにおける大正方形と大円の位置、三角形EJCにおける中正方形と中円の位置、三角形KGCにおける小正方形と小円の位置まで含めて相似であることがすぐに確認できます。したがって、中円の直径をd cmとおくと、9d d4より、d 6が導かれます。

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さて、江戸時代における和算の位置づけですが、最初の頃は和算の専門家(現在の数学者)の研究対象に過ぎなかったものの、徐々に一般の人々の娯楽になっていきました。先の問題のような幾何パズルは楽しいものです。大名や藩主などの比較的階級が上の人から農民や商人などの階級の低い庶民まで、その階級の垣根を越えてパズルマニアが増えていきました。そして、既存の問題を解くに飽き足らず、新しい問題を作って他人に解かせるといったことが、日常生活の中に根付いていったのです。

そして、独特の風習も生まれました。難しい問題を解いたり作成したりすると、それを神社やお寺に奉納し、飾ってもらうというものです。その多くは劣化しないよう額縁のようなものに納められていたことから、算額と呼ばれるようになりました。この神社仏閣への算額奉納の風習には、いくつかの理由があるようです。そのうち最も多いとされる理由は、数学の腕が上がったことを神様、仏様に感謝することです。その他には、自分の流派(次回話す予定)を宣伝するという理由が挙げられます。

実は、前回の問題1は、岩手県大船渡市の五葉神社に奉納されたものです。問題文は、漢文では(本来は縦書きですが…)「今有鈎股如図容大中小方及甲乙丙円、只云甲円径九寸丙円径四寸、問乙円径幾何」となります。先の問題1は現代風の表現に置き換えて記しています。問題の意味を理解していれば、この漢文表現も部分的には何となく想像できますね。

次回は、著名な和算家とその業績について話をしたいと思います。

文責: メディア学部 松永

2023.02.28

2023年2月28日 (火)

江戸の和算のたしなみ(1):和算とは?

2023年2月27日 (月) 投稿者: メディア社会コース

本日から7回に渡り、パズル的な問題を交えつつ和算についてのお話をします。和算というと、江戸時代の算術のことを差すことが多いです。ただ、実際に和算という言葉が使われるようになったのは、開国後の明治時代以降とされています。いま私たちが学校で学ぶ算数や数学は、欧米由来のものです。いわば、洋算とも言えます(実際にはそういう言葉はありませんが…)。その“洋”に対して“和”が使われるようになりました。似たような例は、和食、和服、和書、和室…など、多々あります。しかし、これらの用語が明治以降に誕生したとはいえ、時代を遡って日本古来のものに対しても“和〇”という表現が使われるようになりました。

では、和算の起源はいつと捉えるのがよいのでしょう。実際には江戸時代よりも前にも、日本で行われていた算術の記録は多々残されています。しかし、中国やインド、朝鮮などの大陸由来のものが多少アレンジされたものが中心だったので、和算は日本独自の工夫や着想が窺える江戸時代の算術あたりを差すことが多くなりました。

さて、うんちくだけで終わるのも忍びないので、最後に江戸時代に実際に出題された簡単な和算の問題を出しておきます。中学校レベルの平面幾何の知識で解けますので、頭の体操がてら、是非ともチャレンジしてみてください。次回は、この問題の答え合わせと併せて、江戸における和算の位置づけと算額について話をしたいと思います。

【問題1】下図のように、大きな直角三角形の中に大中小の正方形と大中小の円が接しています。ここで、大円の直径が9cm、小円の直径が4cmであるとき、中円の直径は何cmでしょう。

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文責: メディア学部 松永

2023.02.27

 

2023年2月27日 (月)

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